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<不安に踊る参院選>(1) 愛国に走る「右女」

(左から時計回りに)日韓の領有権問題になっている竹島、「日本国民はもう黙っているわけにはいきません!」と書いた幸希さんのブログ、3月に東京都新宿区で行われた在日韓国人への抗議デモ

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 名古屋市に住む幸希(こうき)さん(41)は、一人暮らしの女性看護師だ。生まれ育った北海道から愛知県内の病院に職を得て十数年、多くの患者と出会い、命の重みを実感してきた。

 だが、今年二月、東京・新大久保であったデモで、彼女が叫んだ言葉は激烈だった。

 「竹島を不法占拠する韓国人を射殺しろ」「たたき出せー」。日章旗を持つ人々の列に連なり、韓国が実効支配する島根県・竹島の日本領有を訴えた。

 自らの主張を正当化するため、特定の民族や団体などに憎悪むき出しの言葉を投げつけるヘイトスピーチ。ただ、彼女は「あれがヘイトスピーチだったと思ってはいない」と言い切る。「周囲の人に考えてもらうための表現です」

 「幸せ」と「希望」から一文字ずつ取った幸希はネット上の仮名。いわゆるハンドルネームだ。

 二年前の東日本大震災後。「次は東海地震が来るかも」と不安でネットを見ていた時、韓流ドラマを放映するテレビ局へ「偏向だ」と抗議するデモの存在を知った。一つは竹島のことを「韓国領土」と主張する韓流スターが出演していたためだという。幸希さんは「韓流は文化交流ではなく政治的な意図を持っている」と思うようになった。

 しかし、そもそもの不安の始まりは震災。それがなぜ「日本を不当におとしめる韓国」に変わり、攻撃の対象となるのか。「ネットで情報を集めれば当然気づくこと」。そう繰り返す幸希さんは現在、北朝鮮による拉致被害者奪還を訴えて名古屋での抗議行動も主宰する。「憲法九条を改正して強い日本にすることが、自分の大切な人を守ることになるんです」

 幸希さんのような例は極端かもしれない。が、最近、女性の保守的、タカ派的な活動が目立つ。歴史好きの女性を「歴女(れきじょ)」と言うのに倣えば、「右女(みぎじょ)」とでも呼べる。

 「愛国女性のつどい 花時計」もそう。ネットでつながる女性たちが街頭などで愛国教育や改憲を主張する団体だ。代表者の女性は「戦時中から日本は何一つ悪いことはしていない」と力説する。三年前に設立し、会員は三十歳代を中心に五百七十人まで増えた。

 戦時中の従軍慰安婦問題で、日本の謝罪を求めた米国議会の決議に反対するネット運動「なでしこアクション」には、三万以上の署名が集まっている。

 「右女」たちは口をそろえる。「男がしっかりしないから、私たちがやらなきゃいけないんです」

 三年前、国内総生産(GDP)で中国に抜かれ、世界第二位から三位の経済大国に転落した日本。内閣も毎年のように代わり、政治的な不安定が続くところへ尖閣諸島や竹島などの領土問題で中韓との摩擦が激しさを増す。相も変わらぬ男社会は確かに頼りないかもしれない。

 しかし、女性運動や世代論に詳しい評論家の荷宮(にみや)和子さん(49)は「若い女性に、道しるべのない不安が広がっている裏返しではないか」とも指摘する。

 「女性は結婚、家庭」という風潮は弱まった。が、長引く不況で、キャリア女性が男性と対等に働いても必ずしも報われているわけではない。

 荷宮さんは「寄りかかる価値観が見当たらず、ネットの断片的な情報から『強い日本』にひかれているのだろう。そんな空気を政権が利用しようとする時こそ危ないのだが…」と話す。

 二十一日投開票の参院選。「愛国」に“目覚めた”幸希さんは、拉致や竹島問題に強硬姿勢で取り組む候補や政党に投票するつもりだ。それが、日本を覆う不安をぬぐい去る道と信じて。

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 不況、少子化、震災、中韓との摩擦…。見渡せば「不安」だらけのニッポン。未来への道しるべを求め、人々は右往左往しているようにも見える。参院選の投票日を前に、この国を覆う空気を最近の世相から探ってみる。