若の里(右)を押し出した魁聖=愛知県体育館で(田中久雄撮影)
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◇名古屋場所<9日目>
平幕の魁聖(26)=友綱=が若の里、大関琴欧洲(30)=佐渡ケ嶽=が千代大龍に勝って勝ち越し、1敗を守った。横綱白鵬(28)=宮城野=は関脇豪栄道を上手出し投げで退け、9連勝で単独首位を守った。横綱日馬富士は関脇妙義龍に押し出され、2連敗で3敗目を喫した。大関稀勢の里は取り直しの末に安美錦を寄り切って6勝目。
魁聖にとって名古屋は心の故郷である。ブラジル生まれブラジル育ちの日系三世。だが、名古屋はブラジルに渡った祖母・正子さんが7歳まで育った場所だ。「おばあちゃんが名古屋市出身だから、意識して頑張らないといけないと思っています」。去年の名古屋場所も11勝4敗の活躍で敢闘賞を受賞した。この日は若の里を押し出し、今年も9日目で勝ち越す快進撃を続ける。ただ、違うのはおばあちゃんがいなくなったことだ。
「4月(24日)に亡くなりました。ベッドから落ちて腰の骨を骨折したんです。手術をするため麻酔をかけたらそのまま起きてこなかった…」
悲しみをこらえながら振り返った。来日して7年。その間に一度しかブラジルへ帰国していない孫に「会いたい、会いたい」と言いながら、地球の反対側から応援してくれていた祖母は、今年は天国から応援してくれているはず。
名古屋は5人の平幕優勝力士を輩出した。「優勝は全然、意識してません。勝ち越したから、あとはけがをしないように頑張ります。ここまできたから、2桁できるかなあ」と謙虚に話す真面目な男だ。
取組を終え、宿舎に帰り、ちゃんこを食べるとサウナに出かける。持病の腰痛は東京でしか治療ができないため少しでも身体を癒やすため。8日目の夜は、サウナを出るといつものように「コメダ珈琲」に立ち寄り、シロノワール、小倉トースト、ホットドッグ、スクランブルエッグを大好きなコカコーラといっしょに平らげた。「その代わりちゃんこは少なめにしてます」と身体への気遣いも忘れない。
初めて日本の地を踏んだ日のことは今もはっきり覚えている。「7月16日。ステーキを食べさせてもらった」。その日から丸7年。すでに日本国籍取得の手続きもしている日本で、きょうからまた「新しい年」が始まる。「日本に来たときの目標が十両。十両に上がったら幕内。幕内まで上がったから三役」。祖母の故郷でそのきっかけをつかみ取る。 (岸本隆)
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