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伝説によれば、《玄武》とは尾が蛇であり、四足歩行の亀だそうだ。
その原型をゲームに留めていれば、もしかしたら尾の蛇が独立した攻撃パターンを持っていたのかもしれない。
しかし《フォーマメント・オンライン》では、尾が蛇という仕様は採用されていなかった。
その代わりとは言っては何だが、二足歩行モンスターとして、《玄武》は存在する。
歴代の怪獣映画で例えるならガ○ラが妥当な所だろう。
首を引っ込め、空を飛んだら正しくそれだな…
勿論、飛行能力など備わらない単なる亀なのだが、《玄武》には厄介な攻撃があった。
攻撃の射程が広く、その巨体に群がるプレイヤーを無視した攻撃。
後方支援を担うプレイヤーを狙った攻撃が。
「次、ブレス攻撃が来るぞ!!」
大剣を振り上げながらそう叫ぶと俺は素早く距離を置く。
ブレス攻撃は射程が広いぶん、隙が出来るのだが、《玄武》の放つブレスは通常のそれとは異なる。
《玄武》が放つそれは、竜型モンスターが使う属性型ブレス…、炎の塊や迅雷の咆哮の様なそれ自体が脅威となりうる攻撃ではない。
ブレスの溜め行う《玄武》を尻目に、砥石により得物の耐久値と斬れ味を回復させる。
その直後、鼻先にツンとした香りが入り、瞳から涙が溢れ出しそうになる。
《玄武》の方を注意しながら、砥石をしまうと射線上から後方支援部隊が撤退していることを確認する。
その直後、緑色の粘っこい塊が発射される。
《アシッドブレス》
その名の通り、酸の塊を吐き出すブレスだ。
この酸は《腐食》効果があり、プレイヤーに当たると装備している鎧や武器の耐久力が継続的に減少する。
状態異常に属されてはいないが、それに類ずるモノだ。
酸の塊が発射される瞬間、少量だが近距離に酸の滴が飛散するため、アシッドブレスのモーションに入った時点で距離を置くのは正当な対処法である。
ダンケルさんやコンドーもそれは心得ているため、《腐食》に侵されているプレイヤーはいなかった。
しかしこのブレスの厄介な点は、その酸は放たれてから数分間、《レッドティアシザース》の血の涙同様フィールドに残存することだ。
それに触れれば《スリップ》や《武装損傷》を引き起こす事がある。
雑兵モンスターならばいざ知らず、レイド級モンスターとなれば話は別だ。
「酸の池には入るな!!コンドー、攻撃だ」
「あーてるっよ!!」
過去に入手を手伝った希少武器《村正》を掲げ、颯爽とは言わずとも隣を駆け抜けて行く。
「《花仙斬・桔梗》!!」
太刀に部類される3連撃《剣技》。
初撃を相手の武器を掬う形で下から上に斬り上げ、二撃目を隙だらけの身体に与える。最後に二回の連撃によって作り出した間に遠心力を利用した一撃を決めるといった《剣技》だ。
太刀カテゴリに部類され、比較的初期に習得できる《剣技》だ。
今覚えば、この《剣技》は対プレイヤー戦のために設計された様にも考えられる。
まるで、PKが予め起こることを予期しているかの様ではないか?
やはり『7番目の大陸』ではPKが往来しているのか…
「《リザウンドビート》!!」
その考えを打ち消し、ノックバック効果を誘発させる《剣技》を発動させる。
それを思考したところで、今は詮無いことだ。
そう今は…
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
大剣に自身の体重を乗せ、《玄武》へ叩き込む。
取り巻きモンスターは周囲に存在せず、後方支援兼《調整役》を担っているマキの奮闘が伺える。
「ヴォォォォォォォォォォォッ!!」
HPが3割を下回り雄叫びを上げる《玄武》に、ダンケルさんを始めとするプレイヤーが集中砲火を浴びせる。
《玄武》の変化する戦闘パターンには、特に脅威となりうる攻撃は含まれていないので、一旦戦線から離脱し背後で戦闘を継続しているマキ達の許へと移動を開始する。
「あいつら…本当大丈夫かな」
脳裏に浮かぶのは、やはり2人の同行者の顔だった。
トウカはその光景を呆然と眺めていた。
《玄武》の周囲には一定間隔に《スマッシュ・タートル》という亜人型モンスターが取り巻きとして湧出する。
トウカ、カオリ、そしてマキの役目はある程度の支援をしながらも、この取り巻きを《玄武》と戦闘を行っているマコト達の所に行かせないものだ。
《調整役》の役回りを得意とする《ライト・ウォリアー》のカオリならばいざ知らず、《魔導師》である自分が抜擢される理由は最初こそマコトの嫌がらせかと思ったが、今ではその理由が明確に分かった。
マコトはトウカに彼女の戦い方を見せたくて、取り巻き役に抜擢したのだと。
そして、トウカは彼女の技術に魅せられていた。
彼女…マキの力に
「付加属性雷!!」
銃口から放たれた弾丸が白い光を帯び、《スマッシュ・タートル》へ向けて白い軌跡を描く。
マキの使うリボルバー式の拳銃。
《銃》カテゴリの武器。
弓ほどの射程距離は無いにしても、中距離戦闘においてその力を発揮する武器だ。
そして《魔導師》が扱える数少ない武器の一つでもある。
トウカがつい先日まで滞在していた『2番目の大陸』では魔法アシストが付随した《棒》カテゴリの武器しか無かったため、使用する機会は無かったが相当クセのある武器である。
それを彼女は難なく使っている。
それだけでなく、相手の憎悪値を肌で感じ取り、的確な攻撃を放ってターゲットをとっている。
「すごい…」
これがトッププレイヤーの技量。
同じ《魔導師》でありながら、ここまで明確に差が出るとは…
「負けてられない!!」
脳裏に3ワードのコマンドを思い描き、簡易の炎熱魔法を発動させる。
「《火扇》」
火の粉が上がり《スマッシュ・タートル》を中心に扇状へと広がる。
初期の属性魔法ではあるため大したダメージは与えられないが、隙を作るには充分だ。
「《グローリーライト》」
システム外スキル《沈黙詠唱》。
コマンド入力を脳内で行う事によって、相手へ魔法の発動を悟られないようにするスキル。
それを使い、上級属性魔法を発動させる。
黄色の閃光が一瞬、視界を染め上げ数秒遅れで轟音が洞窟内を轟く。
《グローリーライト》
光属性に部類される魔法であり、低確率で自身よりレベルの低い相手に状態異常《盲目》を引き起こす。
《盲目》はその名称の通り、一定時間モンスターの視界を奪う状態異常だ。
ただし、それは視覚のみに頼ったモンスターのみに効果があり、上層モンスターでは《嗅覚》、《聴覚》、《触覚》、もしくはその全てを併合したモンスターが存在すると言う。
「カオリ、今!!」
「はい!!」
《盲目》に陥った《スマッシュ・タートル》が持つメイスを続く魔法で取り落とさせ、マキ同様《調整役》として側にいるカオリに声を掛ける。
それと同時に、カオリが翡翠色の刃先を持つ《エメラルドソード》を掲げ走り抜ける。
その背中を見送りながら、ふと思う。
カオリは変わった。
少なくとも、自分が初めて出会った時に比べれば、大きく変わったと言える。
それはマコトと出会ったからだろう。
なら自分はどうだろうか?
自分は変わったのだろうか?
いや、変わっていない。
何故なら、自分は嘘を憑いているから。
仲間に平気で嘘を憑いている。
危険になれば、さながらトカゲが自身の尾を切り離す様に、仲間を見捨てるだろう。
裏切りを正当化し、自身の意思では無く、義兄の意思で動く自分は、どうしようも無く偽物であり、変わることはない。
「っ!?…《バークレイン》!!」
その思考を噛み潰すように、脳内でコマンドを思い描き入力する。
まだその時では無い。
それまで続ければ良いのだ。
この他愛ない《友情ごっこ》を…
彼女は再度戦闘へと意識を集中させた。
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