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《四聖獣クエスト》は東に青龍、南に朱雀、西に白虎、北に玄武とRPGで常連とも呼べるモンスターを狩るクエストだ。
それぞれに多少の差はあるものの、この四聖獣は基本性能は変わらない。
普通に強く、普通に苦戦し、普通に倒せるといったモンスターだ。
ここまで普通が揃ってしまえば、返って四聖獣に申し訳ないとも思う。
いくらレベリングがし易い仕様とは言え、太古から崇められている神聖な獣にこの扱いはどうだろう…
それを言うなら、これからその神聖なる獣を狩に行く俺達もどうかと思うが…
俺が自称ファースト・インパクトに叩き起こされ、既に2時間が経過していた。
陽は完全に昇り、気持ちの良い快晴となっている。
本日は冬と春の中間、一年の中で1番過ごしやすいと言える気候設定となっており、出来ればフリーにしたい所だが、既にパーティメンバーは集結していた。
俺の呼びかけに応えた…と言うよりも、俺が声を掛けたフレンドであり、リーダーを張っているプレイヤーの声で来たと言う方が正確だ。
以前にカオリさんに言ったことがあるが(その時は精神的ダメージを負わされた)、俺は重度とは言わぬまでも結構なコミュ症であった。
それはこの世界でも健在であり、俺の持つフレンドは10人にも満たない。
現実に帰った所で、ろくな結果が待っていそうに無いなと心配する常日頃である。
「マコトさん、お久しぶりっす」
「あ、はい。久しぶりです。ダンケルさん」
精神状態が一瞬にしてブルーになりかけた俺を現実に引き戻したのは、デスゲーム開始直後から何かとお世話になっている大剣使いだった。
ダンケル
ギルド《八卦掌》リーダーであり、最前線とは行かなくとも、マキ同様そこそこ名の通ったプレイヤーである。
ギルドの由来は名前の通りというか、まんまというかダンケルさんが《八卦掌》に憧れていたからである。そんな彼と接点を持つようになったきっかけは祖父から教わった護身術の中に《八卦掌》が混ざっていたからに他ならない。
《八卦掌》は元々、中国の伝統的な武術と言うが、祖父はどうやって手にいれたのだろうか?VR技術が進んだ現在では殆どの流派は廃れているはずだが…
いやそれ以前に護身術に何を混ぜ込んでんだ。
本当、義姉といい義妹といい祖父といい、マトモな人間は現実で俺の近辺に居なかったのかという気分になってしまう。
「いや、1人だけいたな…」
「誰がすっか?」
俺の口から漏れた呟きを捉えたのか、ダンケルさんが「?」といった表情でこちらを伺っている。
「いや、俺現実でろくな人間に恵まれてないなぁと思って、でも1人いました」
「ああ。アスカさんっすね。そういや彼女どうしてんすか?」
「学級委員長は俺が誘った《円卓の騎士団》で副団長を務めてますよ。まあ『アイツ』に同行せず、『5番目の大陸』でメンバーのレベリングに勤しんでるらしいですけど、何考えてるのやら…」
「本気で分からないんすか?マコトさん」
「えっ、何がです?」
「・・・・・・・・」
ただ無言で離れていくダンケルさんに首を傾げながらも(『アスカさんも大変だなー』と聞こえた気がしたが)、現パーティメンバーであるカオリさんとトウカを待つ。
彼女達には、昨日オーダーした武器を取りに行かせているところだ。一見、俺の武器を取りに行かせている様に聞こえるが、取りに行っているのは飽くまで彼女達の武器である。
《アイアンゴーレム・ガーディアン》との激戦の際、入手した素材を用いて発注した特注品だ。
カオリさんは《ミスリルソード》の強化素材として、トウカは魔法アシストの付随するローブ装備を製作し、《四聖獣クエスト》に備えてそれぞれの装備の新調を行っていた。
「そろそろの筈なんだが…」
カオリさん、トウカが中々帰って来ない。
《四聖獣クエスト》の一つ《玄武》討伐までまだ時間はあるが、出来るだけ余裕を持っていきたいところだ。
「オーっす、マコト」
「…お前か」
背後からのラリアットを躱しつつ、その相手を見やる。
ダンケルさんとは異なり、こちらは見ただけで成人している事が分かる。
武士風の鎧の上から青い羽織を着ており、腰には太刀に部類される《村正》なる日本刀の形状をした希少武器が下げられている。
「おいおい釣れない奴だなー。せっかく来てやったのに」
「いや、俺の記憶が確かならお前を呼んではいない筈なんだが…。コンドー」
「呼び捨てかよっ!!」
コンドー
ギルド《新撰組》のリーダーであり、俺と同じ攻略組プレイヤーだ。
ギルド名とプレイヤーネームから分かる通り《新撰組》に憧れており、常時青い羽織を着けている。
…全くと言っていい程、似合っていないが
彼のギルドとは結構な頻度で行動を共にしており、ギルメンとは顔見知りだ。
コンドーを含め全員で5人。
デスゲーム開始前は1時間掛けて設定した美形アバターを使っていたらしいが、通知メールが届いた瞬間、アバターが強制解除されリアルの自分に戻ってしまった訳である。
俺もリアルではかなりの確率で女と間違われていたため、アバター設定当初は目を釣り上げたりと無駄な努力をしていた覚えがある。
ついでに他のメンバーの名前は、ヒジカタ、オキタ、サイトー、シンパチとなっている。名前が漢字表記可能だったのなら、もう少し格好がついたのかもしれないと思ってしまうのは仕方がない事だ。
「ヒジカタさん、オキタさん、サイトーさん、シンパチさん久しぶりです」
「俺だけ呼び捨てかよっ!!」
コンドーの背後に佇んでいるメンバーに挨拶をしておくと(なお、コンドー以外は青い羽織を着ていない)、パーティメンバー兼弟子である2人に催促のメールを送るべくシステムウィンドウを開ける。
その瞬間を待っていましたとばかりにメールを受信する。
「・・・・・・」
周囲を見回すも2人の姿は無い。
これは単なる偶然なのだろうか?
若干というかかなりの嫌な予感がし、数分ほど開示するか迷ったものの、奴らがいないと話にならないため開く。
『装備の新調完了しました〜(^_^)/
ただ、トウカちゃんが調子に乗ってご飯を食べまくちゃって、お会計が出来ません。
迎えに来て頂けないでしょうか?』
「・・・・本気?」
そう呟かずにはいられなかった。
「それじゃあ、四聖獣モンスターの《玄武》を狩りに出発…」
「オオッーー!!」
結局というか最終的にというか、結果的に《四聖獣クエスト》は予定より1時間遅れで開始された。
その主たる原因を作り出した2人の名は俺の面子にも関わるため挙げないでおくが、多大な迷惑を被ったため、後にちょっとした『お仕置き』を用意している。
これだけ聞くと俺が冷酷無比な人格の持ち主の様に聞こえるが、これは当然の事である。財布役として迎えに行った後、帰りの道中全く反省の色を見せなかったトウカには(カオリさんは一応反省していた)思い知らせてやる必要があるのだ。
俺がどれほどまでに貴様の食費を払う苦痛を感じているかを…
薄ら笑いを浮かべながらも、《最古の大陸》北部に位置する洞窟に足を運ぶ。
四聖獣モンスターが一体《玄武》。
《アイアンゴーレム・ガーディアン》程で無いにしても、防御値は他の四聖獣モンスターでは群を抜いている。
ただ動きが遅く、回転攻撃を除けば脅威となりうる攻撃は例外を除き使用しない。
「それじゃあ《玄武》の討伐を開始します。《新撰組》と《八卦掌》は積極的に攻撃を、マキ達は後方支援に回って。カオリさん、トウカはマキ達と行動を共にしてくれ」
四聖獣モンスターであり、レイド級モンスターである《玄武》の湧出地点前で一通りの指示を出すと、コンドー率いる《新撰組》に同行する。
《八卦掌》には、同じ大剣使いのダンケルさんや《魔剣士》のクラスをとるプレイヤーがいるというのもあるが、やはり多くの行動を共にした《新撰組》の方がやりやすいと考えたからだ。
「カオリさん、トウカ。お前らは隙あらば攻撃してよし。けど無茶はするなよ」
「はい!!」
「おう!!」
「・・・・」
うん…、返事は良いんだけどな〜。
何かと心配なメンバーである。
とりあえず2人を信じ、《玄武》湧出地点であるフロアへと足を踏み入れる。
この日カオリ、トウカは初のレイド級モンスター討伐を経験する。
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