22
カグヤが降り立ったそこには、巨大な炎によって創り出された無数の灰が舞い散っていた。
崖はいつも通りの静けさを取り戻しつつある。まるで先刻までの戦いが嘘の様だ。
「マコトくん、君は勇敢に戦ったよ」
カグヤは彼が寸前まで握っていた漆黒の大剣の傍に降り立ち、小さく、悲哀を込めては呟いた。
しかし、その呟きは一瞬にして驚愕の叫びに変わった。
叫びといっても、自分に聞こえる程度の声で呟いただけだ。が、彼女…カグヤにとってその呟きは叫びと同義に感じた。
無いのだ。プレイヤーが死ねば、そこには黒いノイズの走るアバター体が横たわる。
しかし、そこには彼の大剣しかなかった。
《生命維持》スキルを直前で発動したのならば、大剣はここには無い筈だ。
つまり、彼は…
その瞬間、カグヤの耳は微かな風切り音を捉えた。
その音源である上空へと、果てし無く続く空へと目を向ける。
そこには、両手に剣を握った少年の姿があった。
その武器の名は双剣。
カグヤが、そしてマコトが取る《魔剣士》という職業が扱える武器だ。
そこでカグヤは自身の大きな間違いに気付く。
《奥義》は発動したその瞬間に、同じカテゴリの《剣技》と《奥義》を1時間使用不可にする。
ならば、違う武器カテゴリのモノならばどうだ?
それを彼女は試した事はなかったが、その答えは眼前にあった。
「《剣技》スキル、アブソリュート状態へ移行。システム反転《奥義》スキル邂逅」
上空から降るその単語に、カグヤは微笑んでいた。
彼の生存に、やっと出会えたこの世界での好敵手への生に…
「《奥義》発動!!《光刃のフォトンキャリバー》!!」
銀のエフェクトが眩い光へと変質し、その二対の剣に宿る。
彼女が知覚できたのはそこまでだった。
直後、彼女の肉体は無数に閃く光の斬撃によって、その姿を消失させていた。
戦闘は静かに何の感動も無く、今度こそ終了した。
《クイックドロウ》
それは攻撃用魔法、回復用魔法を有しない《魔剣士》のみに派生するスキルだ。
《クイックドロウ》は武器をストレージから口頭で取り出せるスキルであり、マコトはこれを使いカグヤに勝った。
アイテムはポーチとストレージの2つの内の何方かにしまう事ができる。
ポーチの場合は腰回りにある本体をタップし、取り出したいアイテムの名を言う事で取り出す事ができる。しかし、ポーチには収納許容重量というシステム制限が設けられており、大多数のプレイヤーは戦闘に即必要となる回復アイテムや魔結晶を収納している。
次にストレージの場合だが、ここにはアイテムの収納限界は事実上存在しない。どんなアイテムでも収納できることが可能だが、アイテムによってストレージへの収納個数が決められているモノがある。
回復ボージョンならば99個、魔結晶アイテムの場合は10個までとシステムに決められている。
それらを取り出すにはシステムウィンドウを開け、ストレージを開きそこからそこから必要なアイテムを探し出さねばならない。ストレージを小まめに整理しているプレイヤーであっても、ポーチからアイテムを取り出すのに比べればかなりのタイムロスになるのは否めない。
しかし《クイックドロウ》であれば、ストレージ程の時間は取られない上、ポーチよりも使いやすいという利点がある。
マコトはカグヤが《奥義》を放った瞬間、自身の大剣を盾にし、炎による爆風を利用して上空へと移動、《クイックドロウ》スキルにより双剣へと武装を変え《奥義》を発動させたのだ。
異なる武器カテゴリよる《奥義》の連続使用が出来ることをマコトは予め知っていたため、この秘策を使う事ができた。
マコトの目的は完遂したわけだが…
「逃げられたか…」
そこに、カグヤの亡骸は無かった。
と言っても、マコトは《峰打ち》スキルというHPを必ず1残すという何処かのゲームで出てきそうなスキルを習得していたため、彼女への死の心配は無かった。
問題は彼女がどうやって逃げたかだが…これは直前まで彼女と相対していたマコトの視点から見れば、彼女は《生命維持》スキルによって逃走した、と考えるのが妥当だ。
しかし、それはある事実を示唆していた。
カグヤという『7番目の大陸』プレイヤーが《生命維持》の付随した装備を使用している理由。それは…
「『7番目の大陸』では、まず間違い無くPKが日常化している…ということか」
それならば、彼女がカオリさんを比較的安全である『2番目の大陸』に留めておきたかった言い分も分かる。
カオリさんはモンスターを倒す時でさえ、躊躇してしまうほどの純真な性格の持ち主だ。
そんな彼女が自身の命を守る為とはいえ、プレイヤーを殺せるだろうか?答えはNOだ。
だがらこそカグヤはカオリさんをここに留めておきたかった。彼女が罪の意識に苛まれない様にと…
「だけどさ、それはあんたのエゴだよ。カオリさんは、あんたを目標としている。それを辞めさせることは、本人しか出来ないさ…」
果てしなく続く蒼穹…その果てに何があるのかカグヤは知っているのだろうか?
そして、彼女は一体何者なのだろう?
次々と浮上する疑問を押し殺す様に立ち上がると、マコトはカオリ達と合流すべく引き返そうとした。
その瞬間、マコトの目に銀色に輝く何が入った。
「カグヤの落し物か?」
拾い上げてみると、それはロケットだった。
勿論、宇宙に打ち上げるものでは無く、中に写真を納める事が出来るペンダントのことである。
それを興味本位でマコトは開けた。
それが結果的に彼に新たな疑問を呼ぶ事を知らずに…
「な、何だ…これは!?」
そこには、6歳と思しき少年と同じく6歳と思しき少女が微笑みながら写っていた。
少年はマコトであり、少女は『ネメア』だった。
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