21
《奥義》スキル
それはプレイヤーが独自に考案したシステム外スキルとは異なり、予め《フォーマメント・オンライン》という世界のシステムに組み込まれていたものらしい。
ただし、それ自体がプレイヤーにとってはブラックボックスであり、その存在を知る者も極少数だ。
俺はこのシステムの存在を『ネメア』から聞いた。正確には、予め俺のシステムウィンドウ内にあるスキルスロッドには《奥義》スキルの欄が入っていた。
それに気付いたのは、デスゲーム開始から1ヶ月程後のことだ。
《剣技》スキルを習得してからは、その裏側にひっそりと存在しているスキルだが、その威力は《剣技》とは比べ物にならない。
ただ、この《奥義》スキルには制約が存在する。
一つ目、《奥義》スキルと呼ばれてはいるが、このスキルに熟練度は存在しない。つまり他のスキルとは違いレベルアップによって《奥義》が追加されていくわけでは無い。
二つ目、同じ《奥義》は存在しない。《奥義》を習得するに当たり、様々なクエストをクリアしなければならない訳だが、《奥義》の習得のためのアイテム…巻き物の形状をした《奥義書》を入手しなければならない。それを手に入れた瞬間、自らのステータス、スキルをシステムに解析され自身に合った《奥義》が作り出される。
つまり同様のスキルを作り出すためには、全く同じステータス、スキルを取らねばならないことになる。そしてそれは、デスゲーム開始から約5ヶ月が経過した今となっては不可能だ。
三つ目、《奥義》スキル内に存在する《奥義》を使用してから1時間、その《奥義》の武器カテゴリの《剣技》は使用できなくなる。
つまり、《アイアンゴーレム・ガーディアン》を大剣カテゴリに属する《奥義》で倒したマコトは1時間 《ヴァリアブル・ストライク》や《フレミング・インパクト》といった大剣カテゴリに部類される《剣技》が全く使用できないことになる。
「ほらほら、どうしたぁ〜!!」
頭上から降り注ぐ炎の矢を大剣の腹で弾きながら、マコトは何度目かの舌打ちをした。
相手の…カグヤのレベルは60だということは分かっている。
押し合いになればおそらく互角。
しかし、《剣技》スキルが使用できない以上、迂闊に踏み込むことができない。
「補助武装が遠距離攻撃用の弓って、何となくカグヤの性悪さが出てる気がするな…」
主武装が背中に装備している大剣だと判断し、マコトは岩陰に身を潜める。
弓は遠距離からの攻撃という利点と共に、《索敵》スキルのボーナスにより範囲が広がるため、『3番目の大陸』まで主武装として使役していたプレイヤーがいたが、攻撃力の低さから最前線で使用するプレイヤーは見た事がない。
よもや、こんな所で拝めるとは…
「面倒だな…」
もちろん勝算が無いわけではない。むしろ、とっておきの秘策がある。しかし、それは一度しか使えず、失敗すれば即アウトだ。
「イヤー。君は本当に可愛いね。安心しなよ、殺しはしない。お持ち帰りして拘束して、ゆっくり調教してあげるからさ」
「あんた、俺に何をするつもりだ!?」
今までに見せた事のない笑顔で此方を微笑む。その瞳には怪しげな光が称えられており、自身の身に迫る危機に身を硬くする。
「面倒なんだよっ!!あんたみたいなのが、現実にもいるんだぞっ!!」
弓を使う所が現実にいる義姉に重なり、嫌な記憶が次々と呼び覚まされていく。
それを再び脳内に記憶の奥底に押し込めながら、大剣の腹を盾にしてカグヤとの距離を詰める。
「もらった!!」
補助武装として弓を使っている以上、主武装である大剣に持ち換える際、タイムラグがある筈だ。
大剣を弓を持つカグヤの腕に向けて放つ。
「《剣技》《クワトリング・フレイミーズ》」
「くそっ!!」
大剣が触れる直前に、彼女の手に握られた弓から炎の矢が噴き出す。
それを真っ正面から迎え撃つ形になってしまっている俺にとっては、一旦距離をおくしかない。
黒コートの先が少し焦げたが、無傷で回避し取り敢えずのため息をつく…暇は与えられなかった。
迫る大剣を己の得物で受けつつ、足に力を込める。
「やっぱり《奥義》使った直後だから、《剣技》が使えなくて困ってる?」
殆ど密着状態で、お互いの身体を押し合いながら、それでも余裕そうにカグヤが問う。
「分かってんだったら、言うなぁっ!!」
大剣の柄を両手から片手に握り変え、空いた右腕にコートの内ポケットに忍ばせている投擲ナイフを握らせ、それを短剣の代わりとしてカグヤへ向けて振るう。
「無駄だよっ!!」
それを自身も投擲用とお見受けする短剣で迎え撃ち、互いの間で火花が散る。
「あんたがここに来れたのは、『ネメア』に聞いたからだろ。あんたはあいつの何を知ってる!!」
「驚いた。そんな事まで分かってるんだ」
「俺の考えを知ってる奴なんて、あいつの他に誰もいねぇよ!!」
お互いに武器を弾き、一旦距離を置く。
HPは既に3割近く…危険領域の一歩手前だ。
まずいな…
この状況で、眼前に立つカグヤが俺と同じ思考を持っているならば、高確率で決着を着けにくる筈だ。
俺と同じ方法で…
「それじゃあそろそろ終わりにしようか?」
投擲用の短剣を捨て、大剣を両手で構えるカグヤ。その顔には好敵手と出会えた事への歓喜の表情が浮かべられていた。
「《剣技》スキル、アブソリュート状態へ移行。システム反転《奥義》スキル邂逅」
俺の大剣と対をなす様な純白の大剣を背負う様にして構え、カグヤは驚くほど静かに呟いた。
「《奥義》発動」
その一言と共に、その刀身に銀色の光が集まってゆく。
そして、その銀のエフェクトがやがて炎となり、純白の刀身に銀色の炎が灯る。
「属性型の《奥義》か…珍しい」
「それを言うなら、《奥義》というスキルを持つ僕達の方が珍しいと思うけど…」
苦笑しつつ、その大剣から噴き出す銀の炎が彼女の身体を浮き上がらせ、マコトから十数mほどの高さまで登った所で静止する。
「《龍炎のフランベルム》!!」
瞬間、刀身に集まっていた銀の炎が色彩を帯び果てしない紅蓮へと変質する。
巨大な炎の塊。
その《奥義》を表すのならば、その言葉に尽きる。
その炎は波打ち、形を変容させ、龍の姿へと昇華する。
生きているかの様に顎を持ち上げ、その炎の塊はマコトへと襲い掛かった。
崖を揺るがす衝撃と共に、さながら一瞬にしてその崖はいつも通りの静けさを取り戻した。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。