20
マコトが見上げた彼女の顔には無邪気な笑みが讃えられていた。
先刻までの大人びた雰囲気から一変、悪戯を成功させた子供の雰囲気を漂わせていた。
無論、右手にはしっかりと弓が握られているが…
「大正解。僕は君のお察しの通り…カグヤだ。しかし、僕だとよく分かったね。君の言い分だと最初から来ること自体分かっていたみたいだけど…」
「ああ。俺は今日、かなりの確率であんたがここを訪れるだろうと予期していたよ」
表情をころころと変えるカグヤというプレイヤーに困惑しながらも、それを悟られない様ポーカーフェイスを装い、彼女の表情を伺う。
…まあ、表情を分かりやすく変えるため、伺うという表現が正しいのか定かではないが。
「ヘェ〜、これはたまげたね。じゃあ、何故その結論に辿り着いたか…種明かしして貰えるかい?」
カグヤが先を促すように手を振りつつ、身体を固定していたベルトを外し、底へ降りて来る。見事な着地を見せると、地面へ座り込む。
マコトも大剣を常時抜けるようにしつつ、一定の距離を置くと、それに習い腰を下ろす。
「何故辿り着いたか?と聞かれると最初からあなたの事を警戒していたから、ですかね」
「ほぉ〜、それは何で?」
この状況を楽しんでいるかの様に、彼女は微笑んでいる。
いや、おそらく彼女はこの状況を望んでいたのだろう。
矢を射り、一撃で俺を倒していれば彼女は何も感じず、感情を無にしてこの場を去っていたのだろう。しかし、そうはならなかった。
マコトは予めカグヤというプレイヤーの存在を知っていて、尚且つ襲撃することを承知していたのだと言ったのだ。
彼女にとってこの世界はゲームでしかなく、それを楽しむことが出来る。そしてマコトは標的から彼女にとっての興味対象へと変わったのだ。
「まず最初から話そう。俺があんたへの不信感を抱いたのは、カオリさんの友達…トウカから聞いた時からだ。トウカが言うには、カオリさんは、『3番目の大陸』へ向かう直後に事故によって『2番目の大陸』に落ちてしまった。あんた達は《キャンペーンクエスト》を受注した直後だったため、助けに行けなかった。ということらしい」
「おかしい所はないと思うけど…?」
戯けた様に手を降りつつ、先を促す。
「いや、おかしい所は存在する。『2番目の大陸』グランドボスのレベルは17。挑んだのが3ヶ月近く前だとして、カオリさんは何レベで挑んだ?」
「・・・・・」
初めて彼女の顔が歪んだ様な気がした。ただ、それは気がしたという不明瞭な結果でしかなく、気付けば元の笑顔を顔に貼り付けていた。
「でも、それは初心者にならよくあることなんじゃないのかな?レベルが少し低くても大丈夫。初心者にありがちなミスだ」
「ああ、俺も最初こそそう思っていた。いや、思わされていたかな?でもな、それはおかしいんだよ。何故なら彼女をレベル12にまでしたのはカグヤさんらあんただからだ。カオリさんを1ヶ月という短い月日で12にまで上げたという事は、あんたはその時既に『2番目の大陸』を踏破していたんじゃないのか?」
彼女は何も発さず、じっと耳を傾けている。
今話した事は全て確証のない事柄、いわば推論の域を脱しえない意見だ。
しかし、ここからは違う。
「時系列順に話そう。俺はあんたのパーティが最初カオリさんに出会った時、既に『2番目の大陸』をクリアしていたと考えている。その後、1ヶ月間カオリさんを鍛えレベル12にまでした。そしてボス戦を挑み見事勝利。《キャンペーンクエスト》を受注し『3番目の大陸』へと飛行艇が向かう道中、事故を故意に起こしカオリさんを『2番目の大陸』に戻した、違うかな?」
「それはおかしいんじゃないのかい?だってグランドボスは新規プレイヤーをパーティの半数にまでしないといけないんだぜ。カオリさんが1人入ったとしても、グランドボスとは戦えない」
「いや、一つだけあるんだよ。その方法が。それは、あんた達がカオリさんと出会う以前、『2番目の大陸』を個人飛行空挺で突破した場合だ」
今度こそ偽りなく、カグヤの表情は曇った。
個人飛行艇が隠されている『2番目の大陸』《フレイミーアイランド》。ならば、他の島々にも個人飛行艇が隠されているということは十分考えられる。
「あんた達は既に『2番目の大陸』から『3番目の大陸』へ行く手段を有していたんだ。おそらくカオリさんと出会ったのは、レベル30程度の時。《キャンペーンクエスト》の受注に来た際に出会ったんだろう?」
「…大正解だね。確かにそうだ、君の言ったことは合っている。しかし、それだけでは、私が故意に落としたとは考えられないんじゃないかなぁ?」
「いや、考えられるよ。その根拠はカオリさんのレベルだ。カオリさんは一週間という短い期間で20に達した。彼女には、記憶能力があるし、物覚えも早い。しかし、『2番目の大陸』のグランドボスへの挑戦の際、彼女はレベル12だった。あんた達はグランドボスの外見は知らなかったかもしれないが、レベルやステータスは知っていた筈だ。少なくとも、あんたはそれを今認めた。
何故レベルを安全圏まで上げなかったか…その答えは一つしかない。上げる必要が無かったんだ。何故ならあんた達は彼女を『2番目の大陸』に置いて行こうと決めていたからだ」
「…ホント、君には驚かせられるねぇ」
「正解ってことで良いのかな?」
声の代わりに軽く頷くカグヤを見て、取り敢えずは一息吐く。
間違っていないと分かっていても、こう言った時には緊張するものだ。
「それじゃあ、今度はこっちから質問するけど…何故カオリさんを置いて行った?カオリさんは物覚えが良いし才能がある。普通ならパーティに1人は欲しい筈だが?」
「それはねぇ、彼女には耐えられないと思ったからだよ。『7番目の大陸』以降からこの世界の有り様は変わる。それに彼女は適さないと思ったからさ」
「驚いたな…」
「…君、そんなに僕が非情な人間に見えるかい?」
「いや、そっちじゃなくて…」
彼女が無意識に発した言葉。
彼女自身は気が付いていない様だが、今の言葉はマコトを始めとする攻略組でも驚愕する意味が込められていた。
「今のあんたの言い分だとさ、あんたは《キャンペーンクエスト》を受注する前から、『7番目の大陸』の仕様を分かってたってことになるぜ?何処でそんな情報を知り得た?いや、あんた自身何者なんだ?」
「・・・・いやぁ、君には本当に驚かせられる。いつの間にか情報を引き出されてたぜ」
「・・・・・・」
いや、情報を引き出そうとなどしていないのだけれど、彼女は大人っぽく見えて子供なのかもしれない。
それもとびきり面倒な『負けず嫌い』という特性を持つ子供…
「まあ、引き出すとかどうとかは置いといて、質問に答えてくれますか?」
「一言で言うならさ〜、君と同じかな。十二星宮の1人、《魔剣士》マコト君」
「・・・驚きましたね。ていうことはあんたもその内の1人なんですか?」
無言で微笑むカグヤに、思わず歯噛みする。
もし彼女が自分と同じ『招待』されたプレイヤーだとしたら、マコトには必然的に勝ち目は無い。
「いや、安心していいよ。僕は君と同じじゃない。あの時このゲームにログインしていた不幸な人間さ」
「・・・・・・」
彼女の言葉を鵜呑みにした訳ではないが、取り敢えずの逃走という選択肢をしまいこむ。
「さあて、それじゃあさっさと殺ろうか?」
「そうだね。あんたの狙いはこれだろう?」
そう言って、マコトはストレージに格納されていた《最奥の鍵》をオブジェクト化する。
「そう、それ。カオリには上層には来て欲しくないからねぇ。それを渡してくれれば荒っぽい事をしなくても済むのだけれど」
「いやいや、俺の背中を射た時点で既に荒っぽいだろ…」
「確かにそうだねぇ。しかし君は…」
「?」
一呼吸置き彼女は静かに、しかし何処となく面白そうにしながら言い放った。
「本当、女の子みたいだねぇ」
時間にして数秒、彼女は面白がって(そう願いたい…)言ったその一言。
マコトを臨戦状態にするには充分だった。
「誰が女の子だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ええっ!?」
誰の目にも留まらぬ崖下、ハイレベルプレイヤー同士の戦いが勃発する。
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