19
少女は崖へと向かっていた。
傍には誰もいない。
あの金色の少女もいない。
「全く、人使い荒いよ…」
フードを目深に被りつつ、彼女の走るペースは落ちない。
彼女が走行しているのは、遮蔽物の多い森林フィールドであるため、視界が制限された状態での走行は不可能だ。
しかし、彼女はそれを可能にしていた。
彼女にとって遮蔽物は遮蔽物でしか無く、彼女が戦う意思のある敵に比べれば、避けることは容易かった。
「12人の内の1人…《魔剣士》のマコトか。楽しめるかなぁ〜」
同じ《職業》を持つ彼に思いを馳せつつ、彼女はその名を呟いた。
「カオリ…」
HPが危険領域に到達した時点で、《アイアンゴーレム・ガーディアン》は戦闘パターンを大きく変えていた。
イベントモンスターは同時にボス扱いされるため、《イザナミノミコト》同様パターンを変える事は予想していたが…
「ここに来て、防戦一方って何だよっ!!」
振り下ろした大剣が弾かれ、その勢いで反撃の届かない後方へ避難しながら非難を浴びせる。
ただでさえ防御値が異常だというのに、眼前に佇むゴーレムは防御一筋という非常に厄介な戦法をとっていた。
もしかしたら、このモンスターを設計したGMはマコトが考えた如何にもチートくさい作戦を予期していたのかもしれない。
それならば、その作戦を思案したマコトにも憤慨する権利はあるだろう。
何故なら、チートくさい作戦をどうこう言う以前に、このモンスターに異常な防御値を付与させたのだから。
「俄然GMに会いたくなって来たな。会ったらぶん殴ってやる!!」
決意を新たに大剣を振るうも、やはり攻撃は弾かれる。
制限時間は既に5分しかない。
しかし、《アイアンゴーレム・ガーディアン》のHPは一割から殆ど減少していない。
こりゃ不味いな…
大剣の攻撃力は既に極限まで高めているため、こんな状況に追い込まれた原因は防御という戦法をとった守護モンスターに全ての非があると言っても過言ではない。
そして、それを設計したGMにも。
「こりゃヤバイ…っ!?」
不意に《アイアンゴーレム・ガーディアン》の頭上に表示されていた情報が変貌する。
レベル58
それは予想していたことではあったが、マコトを驚かせた。
やはり来たのか…
脳内で嘆息交じりに呟きつつ、タイムリミットがもう無いことを悟る。
「…来ちゃったものはしょうがないか」
ゴーレムから一定の距離を置くと、マコトは大剣を握る手を解き、地面に突き刺す。
「《剣技》スキル、アブソリュート状態へ移行。システム反転《奥義》スキル邂逅」
システムウィンドウを両手で操りつつ、口頭で指示を送る。声紋が確認され、ウィンドウに表示されていた《剣技》のリストがブラックアウトし、5つの欄が現れる。
その中から《大剣》と表示された欄をタップし、そこに納められている奥義を表示させる。
「《奥義》発動」
平坦に呟きながら、大剣を構える。それと同時に大剣の…《エヴェニーブレード》の刀身が《剣技》では決して灯ることの無い銀色のエフェクトで包まれる。
それを確認し、距離を一気に詰める。
大剣の刀身から放たれるエフェクトが、銀色の尾を引き一陣の流星となって肉迫する。
「《流星のスタードライヴ》!!」
その銀刃は《アイアンゴーレム・ガーディアン》の鉄壁の防御を容易く貫き、蹂躙する。
一瞬の眩い閃光が崖全体を包み込んだ後、戦闘は驚くほど静かに終幕となった。
「終わったか…」
既に《奥義》スキル特有の銀色のエフェクトは周囲に溶け、マコト手には何時も通りの《エヴェニーブレード》が握られている。
眼前に表示されたシステムウィンドウには、真っ黒に塗り潰された大剣カテゴリの《剣技》スキルと、戦闘によって入手したアイテムが書かれていた。
その中に《最奥の鍵》と表示されているアイテムを確認すると、大剣を鞘にしまう。
戦闘はこれで終了…第三者ならば、そう錯覚していたであろう一瞬の間、マコトが回避行動をとったその瞬間に、マコトが数瞬まで佇んでいた場所の無数の矢が降り注いだ。
マコトは素早く矢を放った襲撃者の大まかな位置を把握し、死角へと移動する。
「やあ〜、まさか今の攻撃が避けられるとはね。気配は殺していたのに」
予想通り、崖の表面に身体を固定していたのであろう襲撃者の声が上空から降る。
右手を大剣の柄に回しつつ、マコトは身を潜めていた岩から身体を出す。
最初に視界に飛び込んで来たのは、白いフードケープだった。
白いフードを目深に被り、右手には波打つ様な焔を模した紅蓮の弓が握られている。
マコトは襲撃者の意図を察し、自嘲気味に笑った。
「ごめんごめん。忘れてた」
「何がだい?」
襲撃者の澄んだ声に、自身の予想が確実なモノに変わったのをマコトは肌で感じた。
「そのフードケープは必要ないよ。フードによるカーソルの隠蔽効果で名前を知られたくないんだろうけど、俺はあんたの名前を既に知っている」
「・・・・・」
一瞬の沈黙の後、少女はフードを脱いだ。
そこには、髪を後ろに縛りツインテールにした少女がいた。
カオリさんとは異なり、その瞳には剣呑な光が称えられている。
現実でなら拝むことも出来そうにない美人な容貌だった。
「そっか。マコト君は僕の名前を知ってるんだね」
弓を肩に背負う様にして、フードに隠れていた顔の汗を拭う。
彼女の背中には、矢筒の他に大剣が背負われていた。
「ああ。俺はあんたの名前を知っている。あんたが捨てたカオリさんの友達が話してくれたからな…」
たっぷりと一呼吸を置いて、マコトはその名を自身と彼女にのみ聞こえる音量で呟いた。
「そうだろう?カグヤさん」
カオリさんの憧れの人であり、おそらく『7番目の大陸』まで到達しているであろうプレイヤーの名…
マコトは確かな自信を持ち、襲撃者改めカグヤの姿を見上げた。
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