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カオリが行ったことは極簡単で、誰もが思いつくことだった。
カオリの目的は二つ。トウカがゲートを設置し終えるまでの足止めとゲートへ叩き込むことである。
現段階では、ゲートを設置し終えるまでの過程である。
ようは、足止めすれば良いのだ。戦うのではなく留める。
《共振》スキルは本来、ゲートへ叩き込むための手段に過ぎなかった。それを留める手段に用いたのは、完全にカオリの独断である。
それが結果的に苦戦する結果を招いてしまっていた。
システム補助を棄てたのは余裕を持つため。マコトの意図はそうだった。余裕を持てば相手の攻撃に迅速かつ確実に対応することが出来るからだ。しかしカオリはその余裕を《共振》スキルの使用タイミングに割り振っていた。結果、視界が狭くなり見えるはずの攻撃が、避けられるはずの攻撃が対処出来ずにいたのだ。
その事に気付いたのは、ゴーレムの回転スピン攻撃を受けた時だ。余裕を失い、相手の攻撃タイミングを見誤った瞬間にだ。
だからこそ、カオリは自身が習得している最大連撃の《剣技》を放った。
倒すためではなく、その場に留めるために。常にノックバック効果を《アイアンゴーレム・ガーディアン》に与えるために。

ノックバック効果により至近距離で仰け反る巨体に体力が続く限りの攻撃を放つ。
ノックバック効果が発動している間…時間にして数秒程度だが、手数の多い片手剣にとっては充分な余裕だ。
ノックバック効果が終了し、動き出そうとした巨体に斬撃を浴びせ、再度行動を制限する。
ノックバック効果は仰け反り状態や一時行動不能スタン状態に類ずるモノだ。
ただ仰け反り状態の場合は隙だらけの姿を晒しているし、スタンの場合は時間がシステム的に決められている。それに比べノックバック効果は与えた攻撃力によって異なるため、多大な集中力を必要とする。
どの程度の攻撃を放てばよいか。どの程度間合いを詰めればよいか。頭で考えることをせず直感に(つまりは勘に)任せ調整し、足止めする。
一つの計算が狂えば、即死へと直結するであろう戦法をカオリは使っていた。

『懐かしい』
カオリは思考の片隅でそんな事を考えていた。
何が懐かしいのかは分からない。
モンスターと戦うという非現実的な行いを自身が現実リアルで経験したことが無いのは分かっている。むしろ経験出来るほうがすごい。
しかし確かにカオリは『懐かしい』と感じていた。
戦闘という非現実的な行いに、脳が溶けていく様な感覚。次第に感覚が研ぎ澄まされ、脳が昇華し、周囲の情報が身体に伝達される。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

片手に持つ《ミスリルソード》の刀身に粒子が集まり、十字型に形作る。
片手剣カテゴリ《剣技》《クロスロード》。
相手の胴体に刀身に集合した粒子で十字を描くようにして斬り裂き、最後には描かれた十字の中心を貫くという三連撃《剣技》。
大剣カテゴリに属される《剣技》と比較してみれば威力は月とスッポンの差だが、連続攻撃という利点が備わっている。
数秒おきに続くノックバック効果で動き出せない《アイアンゴーレム・ガーディアン》の巨体に斬撃を浴びせたところで、背後からの声が掛かった。

「カオリ!!準備OKだよ!!」

その声と同時に、半分を下回っていたHPが一瞬にして全回復する。
《魔導師》、《ネクロマンサー》が扱える《全回復オールヒール魔法スペル》。大型モンスターとの戦闘において重宝される魔法だが、欠点は存在する。
モンスターのターゲットが一時的に術者に向くのだ。
《アイアンゴーレム・ガーディアン》のターゲットがカオリからトウカへと移る。
その一瞬の隙を見逃さず、カオリは再度《剣技》を発動させる。

「《グラーク・サイカ》!!」

雷の《属性剣技》。追加効果は無く、モンスターを《麻痺パラライズ》状態にする事がある。
合計三連撃《剣技》である。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

刀身にスパークが迸り、尾を引く様にして洞窟内に軌跡が描かれる。
しかし斬撃を浴びながらも、《アイアンゴーレム・ガーディアン》はトウカの許へと歩んでいく。
そして、トウカの手前には今しがた開門したゲートが設置されている。

「今!!」

トウカの合図と共に、《ミスリルソード》の柄をより一層強く握りしめる。

私は勝ちたい。
勝って、マコト君の見ている世界を、共に見て見たい。

想いを剣に乗せ、振るう。
その瞬間、《ミスリルソード》の刀身は輝きを増し、柄を鍔を刀身を金色の光が包み込んだ。時間にして1秒あるかないかの間、確かに《ミスリルソード》は全く異なった剣へと変貌・・していた。
剣を持つカオリしか解らぬその変貌。
それに意識を取られていた一瞬の間に、その刀身は《アイアンゴーレム・ガーディアン》の光沢を放つ装甲を易易やすやすと斬り裂き、ゲートの中へと吹き飛ばした。
《共振》スキルによるノックバック効果ではなく、カオリが振るった『何か』の剣圧によって…

「今のは…?」

片手には何時も通りの《ミスリルソード》が握られている。
その変化を見たのはカオリのみだ。
成功という勝利の余韻に浸ることが出来ず、ただ彼女は立ち尽くしていた。

ーーその硬直はトウカが声を掛けるまで解かれることは無かった。



ズゥゥゥゥンッ!!と砂塵を巻き上げ、光沢を放つ巨体が数十m前方に落下する。
HPは赤に染まり、残り一割だ。

「カオリさん…上手くやったんだな」

視線を《アイアンゴーレム・ガーディアン》のカーソルに向け、思わず呟く。
予想していたよりも遥かに早く役目を完遂したカオリに感嘆を覚えると同時にある違和感も感じた。
マコトがトウカからの連絡を貰ったのは8分前。ゲート設置に5分かかると考えれば、カオリさんは実質的に3分と、短い時間の間で《アイアンゴーレム・ガーディアン》を誘導、叩き込んだというのだ。
彼女のレベルで果たしてそれが可能なのか。
マコトはカオリさんの作戦完遂は最低でゲート維持残量時間が5分を切ったあたりだと高を括っていた。
それを僅か3分でしてしまうとは…

「カオリさんにも何かあるってことか?」

誰に聞かれるわけでもなく、無意識に呟きつつ頭を振る。
例え彼女に自分・・の様な秘密があったとしても、それを聞き出すのはゲームではマナー違反だ。彼女が話すまで待つ方が得策だろうし、今はそれについて思案している時間も無い。
予め設定していたタイマーをスタートさせる。
残り時間は9分と少し。
剣を握る手に力を込めつつ、マコトは小さく呟いた。

「お前 程度・・に時間を使っている暇は無いんだよ…」

10分という短い時間の中、マコトは巨体に剣を向け、走り出した。







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