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《アイアンゴーレム・ガーディアン》。
防御値763、とチートに近い頑丈さを誇る守護モンスター。
戦闘の際のレベルはパーティの平均レベルに設定されるため、互角に戦うといったプレイをGMは期待していたのかもしれない。しかし、俺のたてた作戦は『互角』とはほど遠いモノだった。
後にトウカはこの作戦立案者のことをこう語る。
ーーこんな作戦思いつく奴はよっぽどの根暗野郎だな…と
マコト達は先日の《倶楽部》との戦闘で発見した峡谷に来ていた。
時刻は午前6時と、現実での一般高校生の起床時間である。
ここに来た目的は、《開門魔結晶》の座標固定のためである。
幾つかに並んだ数字を打ち込みその動作を終了させると、マコトはポーチから翡翠色の光が宿る魔結晶をカオリ、トウカに手渡した。
「これは?」
「《連絡魔結晶》。同大陸空域にいるパーティへの連絡手段として用いられるアイテムだ。一応、持っとけ」
「へぇー、上層には便利なもんがあるのね」
トウカが珍しくそのアイテムを眺めている。
いや、彼女もまたカオリさん同様『2番目の大陸』以降の大陸を知らないのだ。それなのに何故上層の大陸についてあれほどの博識があるのか、俄然興味が湧くところだが尋ねるのは次の機会にするとしよう。
「《開門魔結晶》の座標固定はできた。成功の鍵はカオリさんだ。頼んだぞ」
「は、はいっ!!」
トウカへ今しがた座標を設定した《開門魔結晶》を投げ渡すと、マコトは2人と別れ迂回して崖下へと移動する。
「頼んだぞ。カオリさん、トウカ」
巨大な扉がカオリ、トウカの視界を埋める。
その内部から発せられるオーラに逃げ出したいという衝動に駆られるが、それでも己の得物である《ミスリルソード》を抜く。
前回とは違う緊張感に身を強張らせながらも、ゆっくりと扉を開ける。
暗視能力の付与によって、その空間に鎮座する存在を捉える。
前回に来た時は背後で隠れるだけだったが、今はこうして正面から見据えることが出来る。
「トウカちゃん。ゲートの設置、お願いします」
「りょーかい」
トウカが背後から離れる。
ゲートの設置場所確保に約4分、開門に約1分。合計5分近く、カオリは《魔導師》であるトウカの支援無しで戦わなくてはならない。
マコトの予測通り、《アイアンゴーレム・ガーディアン》のレベルは20。
マコトのパーティの平均レベルという予測通りだ。この場合のパーティというのは、《アイアンゴーレム・ガーディアン》の出現地点にいるプレイヤー…ということだろう。
カオリとトウカはレベル20。その平均なのだから、ゴーレムもまたレベル20。
「レベルは互角…行きます!!」
スキルスロットに新たに追加された《共振》をタップし、動き出した鉄の塊へ肉迫する。
ーーこれから約5分、カオリは自身の力のみで戦う。
トウカから、扉の前まで来たという連絡を貰って、既に5分が経過していた。
おそらく、カオリさんは現在単独での《アイアンゴーレム・ガーディアン》との戦闘を繰り広げているのだろう。
心配していないわけでは無い。というか、ぶっちゃけ心配しかしていない。
この作戦を立案したのはマコトだ。つまり、この作戦の落ち度を一番理解しているのもマコトだ。
《共振》スキルを習得して間もない…というか、《アイアンゴーレム・ガーディアン》との戦いが初使用となるわけだが…使い慣れないスキルを使用し上手く戦えるか否かが心配だった。
だがその心配があったとしても、マコトは彼女を守護モンスターの所へ行かせただろう。
経験を積ませる…という意味もあるが、マコトの予測通りならば今作戦終了後、高確率で妨害が入る可能性が高い。
それもマコトを狙っての…だ。
そして、予測通りならばその相手はおそらく…
「杞憂に終わってくれれば良いんだが…」
人知れず呟くと来るであろう守護モンスターとの戦闘に備え、マコトは意識を集中させた。
《アイアンゴーレム・ガーディアン》の攻撃は大きく分けて二つある。
一つは重量により攻撃力を底上げしたストンプ攻撃。これを避ける、もしくは盾で防御しなければ、一時行動不能に陥り連続で攻撃を受けてしまう。しかし、この攻撃が不発に終わるとゴーレムは一定時間の硬直に見舞われるため、非常に攻撃しやすくなる。
二つ目は、両脚を軸とした回転攻撃。ゴーレムから半径5mまでが射程範囲であり、例え防御してもノックバックにより吹き飛ばされるため非常に厄介だ。
カオリが自身の役目を完遂するには、回転攻撃をどう捌くかに掛かっている。
戦闘開始から約2分。その間にカオリのHPは実に半分まで減らされていた。
「はぁ、はぁ、あと…3分!!」
呼吸も整わぬまま、光沢を帯びる巨体に斬撃を浴びせる。
多少のノックバックは発生しているものの、威力が足りないのか数mしか吹き飛ばない。
「ヴォオオオオオオオオッ!!」
地下フィールド内を響かせ、《アイアンゴーレム・ガーディアン》は再度回転攻撃のモーションに移行する。
「させませんっ!!」
右手に持つ《ミスリルソード》を閃かせ、ゴーレムの弱点たる中枢…胸に融合した巨大な真珠玉に攻撃を浴びせる。
しかしモーションは止まらず、直後に衝撃と共に視界が反転する。
「くっ!?」
空中で姿勢を整え、床に着地する。
《フォーマメント・オンライン》内では痛覚が存在しない。だが脳を揺さぶれる、や肺から空気が吐き出されるといった状態は存在する。
カオリは胸からこみ上げるものを呑み下しつつ、グラグラと揺れる視界の中でゴーレムの姿を捉える。
「強い…」
HPは既に半分を下回っている。
残り3分を持ち堪えた後にはゴーレムをゲートへ叩き込むという役目を全うできるのかどうかと問われれば、否と答えるしかない。諦めるしかない。
過去の自分ならそう思っていただろう。
でも、今の私はーー
「《剣技》スキル!!」
腕を振りかざし、ストンプ攻撃のモーションに入る巨体へ走る。
ストンプ攻撃は常に右腕から始まるため、右腕を振り上げるモーションは当然だ。
だからこそ、その一瞬の間 《アイアンゴーレム・ガーディアン》の右脇がガラ空きになる。
「《オルディオン》!!」
《ミスリルソード》に光が灯り、次第に大きくなっていく。
光属性に部類される《剣技》。もちろん《アイアンゴーレム・ガーディアン》に属性を用いた攻撃の効果は薄いことを知っている。
《属性剣技》は通常の《剣技》とは異なり、攻撃力が低い。その分を属性による追加効果もしくは状態異常で補おうというシステムだ。
火属性ならば《火傷》、氷属性ならば《氷結》、雷属性ならば《麻痺》と様々だ。
しかし、カオリが使った《オルディオン》は光属性の《属性剣技》に部類されるものの状態異常を引き起こすものではなく、また追加効果が付随するものでもなかった。
ただ光属性であるというだけの《剣技》。
だが、カオリは《属性剣技》としてこの技を使ったわけではなかった。
片手剣カテゴリに部類されているという理由で使用したのだ。
《剣技》は武器によってその特性が異なる。
大剣や斧ならば攻撃力、槍や弓ならば射程範囲、そして片手剣ならば手数。
「はああぁぁぁぁぁっ!!」
《共振》スキルによるノックバックの威力は攻撃力に比例される。しかし、小威力あってもノックバックは存在する。
空いた右脇に合計五連撃の斬撃が殺到する。
同時にノックバックが発生する。しかし小威力であるため、距離は飛ばない。が、連続での斬撃が放たれる《剣技》にとって標的が離れないというのは好機だ。
ましてや、手数を優先するためにリーチを犠牲にした片手剣ならば尚更である。
五連撃の《剣技》が一つに絡みつき、薄暗い洞窟内を光芒が瞬いた。
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