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「予想以上に弱かったな…」
「ぷっ!!」
「・・・・・・」
両腕を縛った状態で地面に転がる《倶楽部》のメンバーを見下ろし、マコトは小さく呟いた。
それは《倶楽部》達に聞こえない程度の声、ようは彼女たちのプライドを傷つけないための最大限の配慮だったわけだが、隣に立つトウカの所為で台無しである。
「くそっ!!離せ!!GMに訴えてやる!!」
「いや、GMとかいないから」
憎々しげに喚く《倶楽部》メンバーに肩を竦めながらも、先程から押し黙ったままであるアカネに目を向ける。
トウカには穏便に捕えるよう頼んだわけだが、怯える様な視線を俺に向けていることから、およそ好ましくない方法を使って捕えたようだ。
「とりあえず、これで《倶楽部》からの妨害は止むな。後は邪魔する危険性が無いよう、二、三日フィールドには出ないで貰いたいんだが…どうする?」
このパーティでは一番年長に当たるカオリさんに視線を向けるが、彼女はブンブンと頭を振っている。
こりゃ、期待できそうにないな…
次にトウカに視線を向けたわけだが、彼女は笑っていた。黒い笑みを浮かべていた。
「あの〜、トウカさん?」
思わず、さん付けで呼んでしまう。
「マコト」
「はいっ!?」
「こいつらの処分は私に任せてくれる」
「りょ、了解。ただ穏便に済ませろよ」
「大丈夫。身包み全部はいで、全裸で街まで送り返すだけだから」
「・・・・・・・」
どSだ!!トウカはどSだ!!と確信した瞬間であった。
「で、あんたの作戦って何なの?」
《倶楽部》メンバーを無傷で街まで送り届け(彼女たちのプライドは完膚なきまで潰されたわけだが…)、酒場で一足早い昼食をとっていた俺たちだったが、トウカが崖下で俺の呟いた言葉の意味を問うてきた。…追記しておくなら、カオリさんの説教はまだ済んでいない。
「あ、ああ。《アイアンゴーレム・ガーディアン》を倒すための作戦だよ」
2人揃って首を傾げるパーティメンバーに俺が考案した作戦の概要を説明することにした。
「カオリさん。まず、君はレベル20に達したかい?」
「はい。今日で20になりました」
「その時、システムウィンドウにスキルが派生しなかった?」
「はい、しました」
そう言って、システムウィンドウを可視モードにして、机の中央に置く。
そこには、《共振》と書かれたスキルが表示していた。
それこそが今作戦において、勝敗を左右するスキルなのだ。
「この《共振》スキルは、自身の武器で相手へ攻撃する際、相手のノックバック効果を誘発させることができるスキルなんだ」
「ノックバックですか?」
「ノックバックは大剣や斧による高威力攻撃のみに発動するモノなんだが、これの《共振》スキルを使用すれば、片手剣でもノックバック効果を引き起こせる。まあ、『4番目の大陸』で出現する非実体モンスター《ゴースト》や《シャドーナイト》、《ファントムパラディン》には効果が無いわけだが…」
「で、それが作戦とどう関係があるわけ?」
脱線しかけていた俺を隣に座るトウカが元に戻す。
一応、礼を述べて話を進める。
「トウカ、君は崖の上から落ちたらどうなるか、知っているか?」
「・・・・HP全損とか?」
「惜しい。正確には、HPが一割だけ残る」
「何でそんなこと知ってんの?」
「・・・昔、『4番目の大陸』から『3番目の大陸』に落下したことがあって、それで知った」
俺と女性2人の間になんとも言えぬ空気が漂う。
実際に俺は『4番目の大陸』から『3番目の大陸』へ落下した経験がある。
パーティを組んでいた学級委員長と共に、再度グランドボスに挑むまで、学級委員長には顔が上がらなかったものだ。
「つまり、あんたは《共振》スキルを使って、《アイアンゴーレム・ガーディアン》を崖から突き落とそうって言ってるわけね」
「その通りだ」
「でも、それには重大な穴があるわよ。だって、ゴーレムが現れるのは地下。崖なんてないわ」
トウカの否定は分かる。現に《アイアンゴーレム・ガーディアン》のPOP場所は地下迷宮なのだから。
勿論、俺もそんな事は百も承知だ。
「だから、これを使う」
アイテムストレージからではなく、戦闘中に即時使用可能であるポーチからアイテムを取り出し、カオリさんがそうしていた様に、机上の中央に置く。
そこには、藍色の光を内部に宿した水晶体があった。
それは、モンスターがPOPする源である結晶に類似したモノだ。
「なるほどね。《開門魔結晶》か」
「魔結晶…?」
トウカは合点が言ったとばかりに頷き、カオリさんは再度聞きなれぬ言葉に戸惑っている。
そもそも魔結晶アイテムは『3番目の大陸』から導入されたアイテムなので、カオリさんに知識が無いのも無理はない。
「魔結晶っていうのは、特定の魔法を封じ込めたアイテムのことだよ。これは《開門魔結晶》って言って、特定の場所に多人数を転移させることが可能なんだ」
集団転移魔法を封じた《開門魔結晶》の他にも、個人転移魔法を封じた《転移魔結晶》、回復魔法を封じた《回復魔結晶》、状態異常を回復する《中和魔結晶》などバリエーションに富んだ種類が多数存在する。
「つまりあんたは、この魔結晶を使ってゴーレムを空中に転移させようってわけね」
「その通りだ。問題なのは高低差…10m程度の高さならHPは減少しない。《フレイミーアイランド》の殆どが平地だったから焦ったけど、今日見つけることが出来たよ」
《倶楽部》という障害を取り除きながらも、探し求めていた地形を見つける。これは僥倖以外の何物でもないだろう。
「問題はどうやって転移させるかね。それは集団転移用の魔結晶だから、予め座標設定して、ゲートを開いとかなきゃでしょ。そこまで誘導するのは骨よ」
「そのための《共振》スキルだ」
ここまで遠回しにだが、作戦の概要はピースとして存在している。
それに気付いた様で、カオリさんとトウカは一斉に顔を上げた。
「ゴーレムを誘導するんじゃない。ゴーレムを動かすんだよ」
俺の言葉に、2人は息を呑んだ。
マコトの作戦は実にシンプルだった。
まず、マコトとカオリ、トウカで二手に別れる。その際トウカにはマコトが見つけた崖下まで一直線に落下する様、空中に座標設定した《開門魔結晶》を持たせる。
次にマコトは崖下に、カオリ、トウカは《アイアンゴーレム・ガーディアン》に挑む。事前に《開門魔結晶》は守護モンスターがPOPするフィールドの隅に予め使用しゲートを開いておく。これは《開門魔結晶》が半径10m以内にモンスター反応が確認されればゲートを開かないからである。
その戦闘でカオリは《共振》スキルを使用し、ノックバック効果でゴーレムをゲートへ叩き込む。そして、崖下へ墜落したゴーレムの残った一割のHPをマコトが刈り取るといったものだった。
しかし、この作戦には重大な条件が多数存在する。
一つ目、《開門魔結晶》のゲート維持時間は15分。それまでにゴーレムをゲートへ叩き込まなければ、作戦は失敗。
二つ目、《アイアンゴーレム・ガーディアン》はイベントモンスターであると同時に、《イザナミノミコト》同様ボス扱いになる。固定フィールド外へ出ても10分以上過ぎると、強制的に地下迷宮へ帰還する。つまり、10分以内に一割のHPを削らねば作戦失敗。
これは作戦というのは名ばかりの『賭け』である。
それは、マコトもトウカも、そしてカオリも重々承知である。しかし、それでもその『賭け』には勝たねばならない。
勝たねば、道は開けないのだから。
今日から期末テストが始まりました。
来週まで投稿できないと思います。
来週からまた毎日投稿したいと思います。
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