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VRMMO…、その概念は以前から存在していた。ただ、五感を司る『脳』へ直接信号を送り込むという一歩間違えれば死にも直結しかねないシステム故、設計することが出来ても安全面を考慮し、発売されることは無かった。
しかし、俺が桜木という姓を手に入れた頃、正確には西暦2163年、俺が小学6年である頃、《ブレインコード》という企業がVRMMO環境を可能とする媒体機器 《ホープ》を開発した。
希望ホープ』とは大それた名だが、安全面は完全に考慮されており、その技術は瞬く間に世界へ広がった。
そして3年後、《フォーマメント・オンライン》の存在が世間に露見した。

仮想世界である《フォーマメント・オンライン》には『呼吸』を始めとする整理的欲求は存在しない。そもそも脳に直接信号を与えているだけなのだから当前だ。しかし現実リアルの桜木 誠の肉体は呼吸をしているし、栄養を必要としている。
それに習ってか、仮想世界でありながらも『呼吸』が乱れるや『食欲』が沸くといった感覚は現実と同様存在する。
しかし、それは飽くまで感覚であって、本当に必要としているわけではない。例えるならこの世界で食物を食した時に口内に広がる味は五感を司る脳に直接刺激を与えられているだけで、現実の肉体には栄養など供給されない。
そう言った仮想世界での俺の第一印象は『錯覚』させられているだった。
そして《フォーマメント・オンライン》がデスゲームに変貌した当初、俺と同じモノを抱いていたプレイヤーの多くが身投げした。
《フォーマメント・オンライン》の舞台となっているのは、天空に浮遊する無数の大陸群だ。フィールドは大陸全土であると同時に、外側は全くの虚空…フィールド外である。
それが意味することは、大陸から落ちれば即死だということだ。
しかし先に述べたとおり、このデスゲームというふざけた存在そのものを自身の『錯覚』ではないかと考えるプレイヤーは少なからずいた。彼らは《フォーマメント・オンライン》がデスゲームへと変貌した当初に大陸から身を投げた。
一度死ねば、現実へ帰還できると考えたからだ。
彼らが現実へ戻れたかは定かではないが、『1番目の大陸』に存在する《始まりの島》中央に位置する街に置かれた《モノリス》からは彼らの名前が消失していた。
《モノリス》はデスゲーム変貌直後に設置された巨大な石碑だ。
そこには3万人近くの名前が記されていた。おそらく…というか確実に今現在、この世界に囚われているプレイヤーの名前が記されているのだということは誰の目からも明らかだった。

それから一ヶ月足らずで約1万人が死んだ。

プレイヤー総数は目に見えて減少し、デスゲーム変貌から約5ヶ月、プレイヤー総数は当初の半分…、約1万5千人。
この世界から解放される兆しは依然無い。



紅の甲殻を持つ蟹を一撃で葬ると、背後でコマンド入力を終えた《ゴブリン・僧正ピジョップ》の魔法を大剣の腹で受け止める。
《ゴブリン》を始めとする亜人モンスターにはプレイヤー同様、《剣技》、《魔法》、もしくは両方を使役する個体が存在する。『2番目の大陸』から導入された《個体》のせいで多くのプレイヤーが命を落としたと聞く。
魔法による衝撃で若干押し戻されながらも、追撃をしようと再度コマンド入力を始めた《ゴブリン・僧正》を大剣の一撃で沈黙させる。
《倶楽部》(正確には《倶楽部》が連れてくるモンスター)との戦闘開始から1時間程度、HPは半分を切り、セットしている《剣技》の再使用可能まで数分。
依然として周囲には取り囲む様にして、モンスターが攻撃モーションを立ち上げていた。

「たく、こっちは満身創痍だっての!!」

モンスターが理解出来るはずもない愚痴をこぼしつつ、《黒霧束縛ブラック・フォッグ》を使い、眼前の敵を一定時間束縛する。
MPも残り僅かで、大剣に攻撃力を上乗せ、もしくは属性付加している余裕はない。
《黒霧束縛》に絡めとられたモンスターが増援部隊の壁となっている間に、背後に迫るモンスター群を狩る。
《レッドティアシザース》は数分前から戦場に投入されていない。おそらく湧出地点が枯渇したのだろう。あと数分は、湧出しないはずだ。しかし、それを差し引いても、数にものを言わせる攻撃は厄介だ。
僅かだが、確実に俺のHPは減少していっている。回復薬を使う余裕はなく、HPが2割を切り、赤く染まる。

「これは…出し惜しみしている場合じゃないな」

"奥義"を発動仕掛けたその時、俺のHPは右端まで満たされた。
全回復オールヒール魔法》。
それを使役する職業クラスを持つプレイヤーの顔が脳裏をよぎる。

「全く、1人で何やってんのよ」

俺の横に降りたった影は予想通り、《魔導師ウィザード》トウカだった。




トウカがマコトを見つけるに至るまで、時間は暫し遡る。
森林フィールドでレベリングを行っていたトウカだったが、数分前から周囲は再湧出の兆しを見せなくなった。
最初は自分が狩り過ぎたためだろうと思っていたが、数十分が経過してなお現れぬ敵に初めて異常を悟った。
湧出地点はフィールドの定位置に設けられている。トウカがいる場所はその地点の一歩手前だったのだ。
十分も経てば、十数体のモンスターが湧出し巡り合ってもおかしくないのだが、トウカの周囲にはモンスターの気配すらない。
考えられるのは、大規模ギルドによるレベリングを目的とした湧出地点の独占だが、ここは『2番目の大陸』。大規模ギルドがいるとは思えない。
…いや、いる。ここの地形に詳しく、大規模というほどでないにしろ十数人のグループが。

「まさか!!」

確信は持てずとも、トウカは行動した。
最寄り湧出地点へと続く入り組んだ道を進み、まばらに現れるモンスターを葬りながら目的地へと辿り着いた。奮闘のかいがあってか、辿り着くまで十分もかからなかった。
湧出地点は儀式などで使われそうな台座に巨大な魔結晶ラクリマが一つ浮かんでいる。その魔結晶よりモンスターは生まれる。また、この魔結晶は《破壊不可能オブジェクト》に設定されており、決して壊すことが出来ない。
やはりと言うべきか、そこにモンスターの陰はなかった。
ただ、地面に大量のモンスターの足跡、そしてその中に紛れているプレイヤーの足跡から何が行われているのか、トウカは悟った。

マコトというプレイヤーは嘘をつかない。

トウカはマコトというプレイヤーをそう思っていた。そして、仲間思いだと。
何故分からなかったのだろう。
仲間思いだと言うのなら、仲間のために単独で動くことも考えられた筈だ。
自身の迂闊さ、愚かさを心の内で罵りながら、モンスターが何度も通ったと分かる足跡に沿って走り出す。
マコトの無事を祈って…



「たく、あんた1人で何カッコつけてんの?しかも死にそうになってるし」
「否定できないことがこれほど歯痒いとは知らなかったよ」

トウカの罵声(?)に皮肉で返し、MP回復ボージョンを煽る。
じわじわとだが、マコトの視界の端で青いMPバーが回復し始める。

「とりあえずはこう言っておくよ。ありがとう」
「あら素直ね」
「俺は素直だ」
「捻くれてるの間違いじゃないの?」

何故だろう?言葉を交わすほど、険悪な空気になっていくような気がする。

「それじゃあ、後ろは頼んだ」

トウカの返事を待たず、《黒霧束縛》から解放されたモンスター群へ大剣を振るう。

不思議と背中を任せたトウカへの心配はなかった。







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