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2日連続投稿!!
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マコトが《倶楽部》の拠点である宿に到着したのは、《隠密ヒドゥン》スキルを発動してから数十分後のことだった。
普通であれば《隠密》スキルは直前で発動すればよかったのだが、自分が監視しようとしている様に相手も監視している、という可能性は歪めない。
どうやらその心配も杞憂に終わりそうだが…

マコトはもちろん《索敵》スキルを所持している。《索敵》はより早く敵の位置を掴めるため、ソロプレイヤーにとっては必需品だ。またスキル熟練度も人並み程度には上げているため、『2番目の大陸』を拠点としているプレイヤーに見つかる心配は皆無だった。
そう、『2番目の大陸』を拠点にしているプレイヤーには。だからマコトは気付けなかった。
自身を監視しているプレイヤーの存在に…



三度目のアラーム音によって、マコトは覚醒した。といっても半分寝ぼけている状態なので、覚醒したという表現が正しいか否かは、かなり微妙なところだ。
備え付けの洗面台で顔を洗い、やっと起きぬけの脳を正常運転させるに至る。
昨夜は徹夜で《倶楽部》の偵察を行っていたため、まだ寝ていたいという欲求はあるが、カオリさんとトウカを待たせるわけにもいかない。
欠伸を噛み殺しながら、マコトは酒場へと下りた。

マコト達が現在在住している『2番目の大陸』の安全レベルは20、カオリさんとトウカはあと少しでそのレベルに到達しつつあった。

「じゃあ、今日は昨日の反省会でもしようか」

いつもの四人掛けテーブルに腰をおろし、反対側のカオリさんとトウカを直視する。

「まず、昨日の《アイアンゴーレム・ガーディアン》のレベルについてだが、それはもう分かっている」

昨日の下見の際、《アイアンゴーレム・ガーディアン》のレベルが弱体化していた。それは結果的に良い事なのだが、トウカはどうにも腑に落ちない様子だったのでマコトは《倶楽部》の監視の合間にその答えを導き出していた。

「おそらく《アイアンゴーレム・ガーディアン》は挑戦してきたパーティの平均・・レベルに設定されているんだと思う。カオリさんの17、トウカの18、俺の56、和は91。それを3で割ると約30になる」

つまり、《アイアンゴーレム・ガーディアン》は平等なモンスターだったというわけだ。チートだの何だの言っていた自分に恥ずかしくなる。
防御値が異常に高いのはパーティメンバーの最大レベルに応じて変化する仕組みではないだろうかとマコトは考えている。

「防御値は相変わらずだったが、レベルが低いのは利点だ。カオリさんとトウカのレベルが20になった時点で今度は本気で挑戦しにいく」

俺の言葉が言い終わるや否や、カオリさんが勢いよく挙手する。
学校ではないのだから、疑問があるのなら口頭で言えば良いのに…
街外れの酒場と言えど、結構な数のプレイヤーが宿泊しているし、NPCもいる。見られても悪いものではないが言いようの無い気恥ずかしさを覚える。

「何だ。カオリさん?」
「平均レベルになるんだったら、これ以上レベルを上げずに挑戦した方がいいんじゃないですか?」

トウカも同じ疑問を抱いていたらしく、こちらに視線を向けている。

「確かにレベルをこれ以上上げなければ、ゴーレムのレベルも上がらない。だけど、あの防御値を攻略するのは困難だ。だけどカオリさん、君がレベル20に到達することが出来ればあいつを倒すことができる」

カオリさんの取得している職業クラス《ライト・ウォリアー》にはレベルが20に到達した際、あるスキルが派生する。
《ライト・ウォリアー》を職業として取得しているプレイヤーなら誰にでも派生するスキルだが、パーティプレイには向かないため、上層の大陸で使用しているプレイヤーはごく一部だ。

「大まかな説明はレベル20になった時にするから。とりあえずは俺を信じてレベルを上げてくれないか?」
「分かりました」

その後、今日の予定を決め(といってもカオリさんとトウカは依然としてレベリングだが…)2人は勢いよくフィールドへと繰り出していった。



カオリ…、私というプレイヤーはモンスターを殺すといった行動が苦手だ。それは自身でも自覚していて、何度も直そうとしているのだが、その度に失敗している。
実に16度目の挑戦の際に私はマコトというプレイヤーと出会った。
女の子のような顔をしている彼は自分に無いものを持っていた。だから私は、彼の力を借りてカグヤちゃんと合流する事に決めた。
もう一度カグヤちゃんに会いたい。その一心だった。
しかし、この頃自身の気持ちが分からなくなっていた。カグヤちゃんに会いたいという気持ちは依然としてある。しかしそれ以上にマコト君と共に戦いたいという願望が自身の中に生まれていた。
だから不安になる。
自分の正直な気持ちが今の自分には分からなかった。



カオリさん達を見送った後、俺は《アイアンゴーレム・ガーディアン》の湧出場所へ繋がる大樹に赴いていた。
来るであろう十数人のプレイヤーを待ちながら。
昨夜、《倶楽部》の拠点である宿に侵入し、アカネ達の作戦を聞いたのだ。
話を聞く限りでは、《倶楽部》はカオリさんとトウカの脱退によって内部崩壊の一歩手前まで追い詰められていた。
カオリさんとトウカの脱退を境に20人近くいた団員は10人前後までその数を減らしていた。
どうやらアカネというプレイヤーはリーダー気質の不足の他に、人望も無かったようだ。だからと言って同情するつもりは毛頭ないが…
アカネ達の話を聞く限りでは、個人飛行艇が隠されているという情報は掴んでいないまでも、俺がここ数日 《アイアンゴーレム・ガーディアン》へと通じる大樹周辺の森林に入り浸っていることは知っていた。
おそらく追跡者による情報だろう。
そして、明日ギルド全員で俺を襲撃しようという計画を考案していた。
まあ、俺にとっては願ったり叶ったりだ。
襲撃者が自分から赴いてくれるなら一網打尽にすることは容易い。
そう考え、カオリさん達には話さず単独でアカネ率いる《倶楽部》を待っていたのだが、俺の元へ来たのはプレイヤーではなかった。
紅蓮の甲殻に身を包み、口元から大量の泡を迸らせ、その両腕は鋭利なハサミとなっている。
現実でいう蟹を巨大化させた印象を持たせる甲殻類モンスター《レッドティアシザース》。
通常であれば『3番目の大陸』に湧出する《レッドティアシザース》だが、『2番目の大陸』に存在する島々の何処かに湧出する《隠し迷宮》が存在するらしい。
『3番目の大陸』が主な生息地なため、レベルは『2番目の大陸』ではありえない26と表示されていた。
通常のモンスターはシステム保護圏内にある街以外のフィールドを自由に闊歩することができる。例外があるとするならボスに指定されているモンスターの場合は湧出地点…、《イザナミノミコト》で例えるなら《王族の墓地》と、指定されたフィールド外に出ても10分以上経つと自動的に指定フィールドへ帰還させられる。
《レッドティアシザース》のHPが数ドット減少しているところを見ると、アカネ達が《隠し迷宮》からここまで誘導して来たということは容易に想像がついた。

「MPKか…。また厄介なモンスターを」

『5番目の大陸』まで既に踏破しているマコトにとって『3番目の大陸』のモンスターは敵ではない。
しかし、《レッドティアシザース》は《レッドティア》…《赤き涙》の所以たる状態異常攻撃を放つモンスターだ。
HPが危険領域レッドゾーンまで達すると目から血色の涙を溢れさせ、水溜りを作る。その水溜りに触れればたちまち《火傷バーン》状態に陥ってしまうのだ。

「レベル26と高レベルモンスターを誘導して来たってことは、奴らは本気だな」

長時間の戦闘になれば、後から後からアカネ達は《レッドティアシザース》を率いてここに来るはずだ。
いくらレベルで優位に立っているとはいえ、物量で押し切られれば負ける。

「まっ、それでも戦うんだけどな!!」

傍に立て掛けていた大剣を抜剣し、マコトは臨戦体制に移った。












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