09
カグヤ。
その存在はカオリにとって特別だった…らしい。らしい、と言うのはカオリ本人に聞いた訳ではなくトウカから話してもらったからだ。
《フォーマメント・オンライン》がデスゲームへと変貌し一ヶ月、右も左も分からなかったカオリに戦う術を教えたというカグヤ。ネームからおそらく女性プレイヤーだと推測される彼女のパーティは今どうしているのだろうか?
『7番目の大陸』へ到達するために避けては通れない関門、キャンペーンクエスト。カオリの話を聞けば、カグヤのパーティがキャンペーンクエストの受注を行ったのは、3ヶ月近く前ということになる。制限期間は一ヶ月。既にクエストは終了している筈だが、彼女からの連絡は依然として無い。
それが何を意味しているのか、カオリさんは分かっているのだろう。しかし俺はそれとは全く違うモノに対して、カグヤというプレイヤーに違和感を覚えていた。
「お前らは岩陰に隠れてろよ。《生命維持》スキルがあるからって、強制的に街に戻されるんだから。迎えにいくのは面倒だ」
個人飛行艇を守護する守護モンスター《アイアンゴーレム・ガーディアン》。その湧出場所に繋がる大樹の前で後ろにいる2人に忠告しておく。
言わずも知れたカオリとトウカだ。
まだ2人ともレベル20には至っていないが、ガーディアンに捕捉されなければ問題はない。
窪みに隠されたレバーを引き、洞窟への道を露わにする。
事前にトウカから《エンチャント》によって暗視能力を付与してもらっているため、洞窟は昼間の様に明るい(正確には明るく見える)。
「よし、それじゃあ行くぞ」
カオリとトウカを連れだってマコトは階段へ一歩踏み出した。
先日に来た時と同様に、《アイアンゴーレム・ガーディアン》は最奥の一歩手前に鎮座していた。マップではさらにその奥に広いエリアが存在すると示されている。
これは憶測だが、おそらくそのエリアに個人飛行艇が隠されているのでは…と俺は考えている。
ただ、今日は先日とは異なった点があった。
「レベル30?」
前と同様に《分析》スキルを使用したところ、前とは異なり《アイアンゴーレム・ガーディアン》のレベルが弱体化していた。
ステータスは以前と変わらないが、レベルが弱体化しているため、前とは違い相手のHPが少なからず減りやすくなっていた。
「成る程。そういうことか」
以前と異なっている…ということは、以前には無かった何かが起因しているということだ。それは…
岩陰からこちらを見ているカオリさんとトウカに目を向ける。数瞬の間カオリさんと目が合うが、すぐに目前に迫るゴーレムに意識を集中させる。
どちらにしても自分がすることに変わりはない。HPが続く限り相手の攻撃を使わせ、そのモーションを確認する。敵の攻撃が分かれば『避ける』のではなく、『対処』することが出来る。
幸いにもカオリさんは驚異的な記憶能力を持っており、この任務には適任だった。
思考をゴーレムのみに集中し、マコトは再び剣を向ける。
暗い洞窟内を青い光が瞬いた。
「で、どうだった?」
フィールドの各位置に設置されてある安全地帯でゴーレムに減らされたHPを回復させながら、俺は正面にいるカオリに問いかけた。
《アイアンゴーレム・ガーディアン》のレベルが弱体化していたとはいえ、防御値は以前と変わらないため、HPの半分も削ることが出来なかった。
「その前にあんたに聞きたいことがあーる!!」
オレとカオリさんとの間に割って入ったのは《魔導師》のトウカ。先刻、撤退の際にゴーレムに執拗に追われていたため、機嫌が悪い様に見えるのは俺の気のせいでは無いだろう。
「あいつのレベル30だったじゃん!!あんたの言ってたレベルと違うんですけど!!」
「別にいいじゃないか。弱体化してたんだから」
そういう問題ちゃうわー、と噛み付いてくるトウカから距離をとりつつ、カオリさんに目を向ける。
「あいつの攻撃モーションは分かったか?」
「はい!!」
自信満々に頷くカオリさんを俺は、そしてぷんすか怒っていたトウカも優しい目で見つめていた。
特訓を開始して今日で一週間、その間に俺はカオリさんの欠けているモノを見つけた。それは誰もが持っているが、表には出さないモノ…、少なくとも俺がそうだったモノだ。それは『自信』だ。
『カオリさんは俺と出会う前までどんな戦いをしていた?』そうトウカに尋ねた時の答えは俺の予想した通りだった。
『いつも後手に回っていた』
カグヤと行動を共にしていた時はどうだったか知る術はないが、《倶楽部》に在籍していた時のカオリさんは周囲に遠慮をし、積極的な行動は無かったという。それがカオリさんが『自信』を持てない原因だと俺は考えた。
無能な指揮官による束縛…、そこで俺はトウカの協力のもと、数日間に彼女に様々なクエストを受注させた。採取、お使い、討伐、虐殺…など、クエストの種類は様々だったが、それをカオリさんはこなしていた。トウカの魔法による支援はあったものの、実質的にモンスターを倒したのはカオリさんだけだ。それが彼女に自信を付けさせるきっかけになった。
「あんたのお陰で、カオリの奴自身ついたね」
「別に。俺はただきっかけを作ってやっただけだ」
その背から視線を外し、上空を仰ぐ。
何重にも重なる大陸が太陽の光を遮断する中、その遥か上に存在する『10番目の大陸』に目を向ける。
肉眼では捉えられないが、それは確かにそこに存在する。
「まだまだ先は長そうだな…」
それがカオリ、トウカと『3番目の大陸』から脱出した後も行動を共にするという意味を持つ言葉だと、マコトは自覚していなかった。
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