08
ーーー修行2日目
マコトは昨夜設定していたアラーム音によって眠りから覚まされた。
この世界では『アラーム』というシステムがあり、設定した時刻に必ず起きることができる。昨日は睡魔に負け、二度寝してしまったマコトだったが、今朝はきちんと起きることができた。…………俺は小学生か!?
VRMMO内…、さらに限定するなら今現在生活している《フォーマメント・オンライン》内では『夢』というモノは存在しない。この世界での眠りは身体を休めるだけだ(正確には精神だが…)。『夢』を見ることはできない。
「今日はアレの習得に行くんだったな」
時刻は昨夜、カオリとトウカに指定した午前6時。トウカはともかくカオリは既に起床しているだろう。
知り合って一日ちょっとの相手の性格を考えれ、マコトは静かに立ち上がった。
マコトが階段を降りると、酒場の4人掛けテーブルにトウカがいた…、いたのだが、この世の終わりとばかりに顔を青ざめている。
「どうしたんだ、トウカ?てか、カオリさんは?」
トウカは何も発さず、バーカウンターの奥…厨房を指差した。
「カオリさんって《料理》のスキル上げてるのか?」
「…熟練度324」
「324っ!?」
スキルはレベルではなく熟練度で表される。
プレイヤーの最大レベルは100だが、スキルの熟練度は最大で1000まである。
マコトが知っている限り、《料理》スキルをそこまで上げたプレイヤーは自身を除いて1人しかいなかった。
おそらく、カオリは経験値を大量に稼げる虐殺系クエストなどを受注せず、スキルアップポイントが入手できるお使い系クエストを受注してきたのだろう。もちろんクエストクリアボーナスとして少量の経験値も入るが、レベルを上げるには些か…というかかなり効率が悪い。
彼女と初めて出会った時にレベル12だったのも頷ける。…頷けるのだが、ここで一つの疑問が湧いてくる。何故トウカはこの世の終わりとばかりに絶望しているかということだ。
この疑問をトウカにぶつける前にマコトはその答えを知ることとなる。
「トウカちゃーん、あっマコトくんも。朝食作っておきましたよ」
カオリが厨房から顔を料理をこちらに持ってきた瞬間、酒場に異様な臭いが漂った。
何かを焼いた様な臭いでありながら、何かを腐らせた様な臭い…。マコトが知る限り、この様な臭いを放てる食べ物は現実では存在しないはずだ。そしてこの臭いを例える言葉も…。
眼前に置かれた料理を前にマコトの背に冷たい汗が流れた。
そこに置かれたのは、ブクブクと泡立つ黒い何かをだった。《料理》スキルが300台であるため料理が失敗するということは滅多に無い筈だが、これが失敗作だというのは誰の目にも明らかだった。
「たーんと食べて下さいね」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
カオリが笑顔で手にスプーンを握らせる。
ただそれをすぐに動かす度胸はマコトにはなかった。
「…か、カオリさん。水をとって、きてくれるかな?」
「…?はい。分かりました」
再び厨房に戻って行くカオリを見送り、マコトは行動に移った。
「スキル《探索》発動」
MPの消費なしで視界に入るオブジェクトの情報がマコトの脳内に送り込まれる。
その中で目の前に置かれた謎の料理(?)を示すカーソルをタップする。…が、
《ERROR》
赤く点滅しながらウインドウに文字が表示される。
料理も立派なオブジェクトの筈なのだが、何故だろう?
「…スキル《分析》発動」
モンスターの戦闘力を測るスキルを続けて発動させる。今度は表示された。
《???》
レベル無し
攻撃値768 防御値0 敏捷値0
「・・・・・・」
何だこのありえないステータスは…。ていうか《料理》スキルでモンスター判定の何かを作れるって初耳だよ。
攻撃値が異様に高い。おそらくシステム保護の働いている街中で食べなければ即死だな。
身の危険を感じ、腰を上げようとした直後カオリは両手に三杯の水が入ったコップを持って帰ってきた。
「あっ、マコトくん。水持って来ましたよ!!」
「・・・・・」
退路が断たれた。これでチェックメイトだというのか!?
料理をほっぽり出して逃走する事は簡単だが、カオリが屈託の無い笑顔を浮かべ、こちらを見ている。この状況で逃走する度胸をやはりマコトは持ち合わせていなかった。
いや、よく考えればこの料理がマズイと誰が言った?確かに隣でトウカは項垂れているが、ゲテモノは美味いと昔から言うではないか。…たぶん。
「い、いただきます」
覚悟を決め、謎の物体を口に入れる。
その瞬間、俺の口内は悲鳴を上げた。
唾液が分泌されるのが止まり、口の中で何度も小爆発が起こる。
無論、美味しいはずがなかった。
吐くのを堪えた自分に賞賛を贈りつつ、ヤケクソ気味に口に掻き込む。
完食まで僅か3秒…、しかし、マコトにはその3秒が人生を振り返るのに充分な時間に感じられた(いわゆる『走馬灯』というやつだ)。
そして数十分後、マコトとトウカは揃って机に突っ伏していた。
マコトが謎の料理…改め暗黒物質を完食して数分、身動き出来ずに硬直していた中、トウカは暗黒物質に手をつけようともせず、突っ伏していた。
このまま昼まで持ち込まれてしまえば、再度カオリが昼食の席に暗黒物質を振る舞うことは容易に想像できた。
そしてマコトは行動した。
カオリが席を外す度に(水を取りに行ってと何度も頼んだからだが)抵抗するトウカを羽交い締めにして無理矢理食わせた。
トウカの皿の中身が無くなった時には、マコトもトウカもとうに限界だった。
「大丈夫ですか!?」
事の原因であるカオリが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、ああ。だ、いじょうぶ、だ」
ここでカオリが自身の振舞った料理が原因だと分かれば、ここまで頑張った意味が無い。
「それより、お前らは今日、オフで…いいぞ」
「へっ、でも今日も特訓だって…?」
「昨日の疲れが残ってるだろ!!とにかく今日はオフな!!」
言い切ると同時にマコトは宿から外に飛び出した。
…無論、トウカを置いてだが。
「酷い目にあったな…」
しみじみと呟きながら、マコトはフィールドに出ていた。
カオリの振舞った暗黒物質…、あれを食わせれば《アイアンゴーレム・ガーディアン》でも卒倒しそうなものだが、残念なことにゴーレム系モンスターは基本何も食さない。
自分の思考している内容に苦笑しつつ、大樹が横並びする一本道を進む。
一見目立った道の様に思えるが、ここはある条件を満たさなければ立ちいることが出来ない。
その条件こそが『2番目の大陸』内にある《フレイミーイランド》のクエスト制覇だった。
「やっと3つ目か…」
大樹の道を歩くこと数分、視界の開けた場所にマコトは辿り着いていた。
そこには小さな祠があった。
その祠の祭壇に祀られている巻き物こそがマコトが『2番目の大陸』を訪れた理由であり、目的だった。
それを手にすると同時に、マコトの《剣技》スキルの奥底に新たな"奥義"が誕生する。
これでマコトが『2番目の大陸』を訪れた目的は達したことになる。あとは、個人飛行艇を入手すればいいだけの話だ。
圧倒的防御力を誇る守護モンスター《アイアンゴーレム・ガーディアン》…。それを倒すための奇策を既にマコトは脳内に構築しつつあった。
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