06
食虫植物が肥大化した様な印象を受ける《ラーガル・プラント》のツタ攻撃をステップで避けると、弱点である蕾にレディエントで攻撃力を底上げした大剣を振るう。
スコーンと甲高い音が森林に響き、《ラーガル・プラント》はその身をポリゴン片へと変えた。
ふうっと肺に空気を取り入れると今しがた叩き斬った《ラーガル・プラント》の蕾をストレージに入れる。
アイテム名 《食虫の蕾》。《ラーガル・プラント》の主食である昆虫型モンスターの体液が詰まった蕾だそうだ。
目的のアイテムを取得したことで、システムウィンドウにクエストクリアの文字が浮かび上がり、《食中の蕾》は依頼主に転送された。
「これで目的のものが手に入るな」
《フレイミーアイランド》内の全てのクエストを達成したことにより、やっとこの大陸に来た目的を果たせるのだ。
「さてと、入手は明日にして一旦あいつらを見に行くか…」
頭の片隅で自分がこの大陸に長期滞在の理由を作った2人を思い浮かべ、大剣を背中の鞘に戻すと、マコトは歩き出した。
修行開始から2時間。トウカはモンスターに追い回されていた。
「カオリー!!速く倒してー!!」
「でも、この武器重くて…」
今朝マコトから貰ったレア度5の片手剣 《ミスリルソード》はカオリが昨日まで使用していた《ブロッドソード》よりも性能が高く、重量は倍近くあった。倍近くあったと言っても、昨日までシステム補助による重量軽減の恩恵を得ていたカオリにとってはそれはあくまで感覚であって重量自体はそう変わらないという。システム補助という恩恵がこれほどまでにありがたかったのかと今更ながら認識してしまう。
「武器が振れないんですよー」
「だからって、モンスターを押しつけてどうするのよ!!」
獣型モンスターであり、人気RPGでいうならスライム並の戦闘力を誇るイノシシ、《フンシスボア》に追い回され、トウカの体力は既に限界近くまですり減っていた。
カオリとの特訓を開始し、数分で分かったことがある。彼女はシステム補助なしでは全く使い物にはならないということだ。
攻撃をまともに当てることもできず、盾で相手の攻撃を防ぐこともできず、終いには回復魔法を掛けていたトウカの方にモンスターがやって来る始末である。
トウカが持つ職業《魔導師》は基本的に武器を持たない。この大陸で装備できる武器はMPの補助スキルを持つ杖ぐらいだ。
攻撃魔法の詠唱を唱える暇もなく、トウカは数十分モンスターに追い回されていた。
「誰でもいいからたーすーけーてー」
「《ヴァリアブル・ストライク》!!」
トウカが天に向かって懇願した直後、背後で途轍もない爆音が響き、続いて爆風がトウカを襲う。
「ふぎゅっ!?」
地面に頭から激突し、HPバーが数ドット減少する。
「何を遊んでいるんだ、お前らは?」
土煙が視界を遮るなか、聞き覚えのある声が耳朶を打つ。その中には微かに怒気が滲んでいた。
「えーと、ナイスアシスト!!マコト」
「マコトくん、どうしてここに?」
大剣を片手にこちらを睨む人物にトウカは苦笑いしながら礼を、カオリはこの世の終わりとばかりに顔を青ざめている。
「用事がひと段落済んだから、戻ってきただけだ。それで君達は何をしていたんだ?」
カオリの質問に律儀に答えるが、マコトのトーンは依然として低いままだ。
「ええっと、私がその〜、モンスターを引っ掻き回して、トウカちゃんが追われてました」
「右に同じ」
マコトの感情が抜け落ちたような表情に無意識の内にカオリとトウカは正座してしまう。
「お前らは上の大陸に行きたいんだよな?」
「「そりゃあ、もちろん!!」」
「そのためにここでレベルを上げてたんだよな?」
「「その通り!!」」
「2時間レベル上げに費やしていた筈なのに、2人とも全くレベルが上がってないのは何故だ?」
「「・・・・・・」」
沈黙。
会話が途切れ、カオリとトウカは何も発さない。
「真面目にしろよ?」
「イ、イエッサー…」
その時のマコトは笑っていた。しかし、それが笑顔ではないということは誰の目からも明らかだった。
カオリに最低限の助言を済ませるとマコトは再び森林の中にいた。
昨夜トウカの協力により、絞り込んだ個人飛行艇の隠し場所を見つけるためだ。
「ここだな。守護モンスターはどんな奴なんだ?」
マークした地点と自身の現在位置が重なっているのを確認し、視線を周囲へ彷徨わせる。
見た限りでは大樹が生い茂っているだけの空間だ。
「スキル《探索》発動」
口頭でコマンド入力をこなすと、マコトの視界に数々のカーソルが映し出される。
《スキル》とは魔法とは違い、MPを消費せずに発動できる異能能力だ。職業によって習得できるスキルが異なり、数多くの種類が存在する。マコトが先刻使用した《ヴァリアブル・ストライク》も《剣技》と呼ばれるスキルに属するもので、《魔剣士》のみが習得できる《剣技》である。
マコトが現在使用している《探索》は、視野に入るものの情報を閲覧できるスキルだ。オブジェクト指定されているものでも無制限に使えるため、隠された迷宮などを見つけるのに使われる。
「これだな」
視野に表示されるカーソルの中で唯一説明文が怪しいものを導き出す。
《探索》を終了し、その大樹の周囲を探る。ここになんらかのモノが隠されているのなら、それを解除するモノもあるはずだ。
「ビンゴ」
体樹の窪みにレバーらしきモノを発見し、思いっきり引く。ゴゴゴと重低音と軽い振動がマコトを揺らし、大樹の脇に地下へと続く階段が現れる。
「アヴァダ・ヌーズ・シース。付加《暗視》」
3ワードのコマンドを口頭で入力し、己に暗視能力を付与する。
暗視能力を始めとする様々な能力を己に付加する魔法 《エンチャント》。《魔剣士》が最初に習得できる魔法であり、戦況に応じた臨機応変の戦いに転じるのに適した魔法だ。
「さーて、行くか」
暗視能力を備え、ある程度視認できるようになった階段を降り、巨大な扉の前に降り立つ。
その扉のノブに触れると重低音を響かせ、扉がゆっくりと開いていく。
「なるほど。ゴーレム系モンスターか…」
扉が開くとそこは大広間になっており、その中央には一見オブジェクトと見間違えそうになるゴーレムが鎮座していた。
《アイアンゴーレム・ガーディアン》
それが《フレイミーアイランド》に隠された個人飛行艇を守護するガーディアンモンスターだった。
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