05
カオリとトウカを席に座らせると今後の方針についての簡単な説明を行った。
「俺たちの目標は『2番目の大陸』の何処かに隠されている個人飛行艇の入手だ」
マコトは《イザナミノミコト》と戦う前に2つの未達成クエストをこなしていた。その道中で出会ったNPCの話では、この《フレイミーアイランド》の何処かに《個人飛行艇》が隠されているらしい。
「本来ならグランドボスを倒して、『3番目の大陸』に登りたいところだが、このメンバーでは不可能だしな。実質的に上層の大陸に上る手段は個人飛行艇の入手以外ない」
「なるほどね」
「でも、個人飛行艇を入手するには、それを守る守護モンスターを倒さなきゃいけないんですよ。それならグランドボスを倒したほうが早いのでは…?」
カオリが不安そうな表情を浮かべ、隣に座るトウカの方へ視線を向けている。
おそらくトウカがマコトの意見に同意した理由を図り兼ねているのだろう。
個人飛行艇を守護する守護モンスターは別名ユニークモンスターと呼ばれる存在であり、グランドボス以上の力を持つと言われている。
「確かに守護モンスターを倒すより、グランドボスを倒したほうが早いだろうが…、俺たちはそれができない」
「なんでですか?」
ますます分からないという表情を見せるカオリにマコトはトウカに目を向ける。
彼女なら納得のいく説明を行えると考えたからだ。
「グランドボスと戦うには、新規メンバーがパーティの半分以上を占めなきゃならないのよ。マコトは当然として、カオリは仲間と一緒にクリアしたでしょ。このパーティで新規メンバーは私だけ。つまりグランドボスと戦うことは不可能なのよ」
「…なるほど」
やっとの事で納得したカオリにため息をつきつつ、マコトは個人飛行艇が隠されている可能性のある場所をマークしたマップデータをトウカとカオリに送る。
「マークした場所のどれかに個人飛行艇は隠されているはずだ。トウカ、君はマークしてある場所で既に探索済みの場所はあるか?」
「ええ。こことここ、あとここもね」
次々と指摘される場所のマークを消していく。十数個あったマークはものの数分で二個に変わった。
「おそらくこの二つのどちらかに個人飛行艇は隠されているはずだ。明日、俺が確認してくる」
「ちょっと私たちの特訓はどうすんのよ!?」
「そうですよ!?特訓はどうするんです!?」
「その点に関しては問題ない。既に特訓メニューは考えてある」
フッフッフッと黒い笑みを浮かべ、マコトはカオリが来るまで考案した特訓メニューをメールに添付しそれぞれに送る。
「ちょっ!?これって!?」
「めちゃくちゃハードじゃないですか!?」
それを見たトウカとカオリがマコトの想像した通りの反応を見せ、食いついてくる。
「強くなりたいんだったら、それぐらいこなして当然だ」
それをどこ吹く風で軽くスルーし、机に置かれたコーヒー…の様な何かを口に含む。
直後に想像を絶する苦みがマコトの口内を襲う。
「と、とりあえず、は…明日はそれでやるからな。あ、朝8時にここに集合な」
腹の中で今夜、食した料理と今しがた飲んだコーヒーの様な何かが化学反応を起こし、マコトに身体的なダメージを与える。
そんな中でどうにか明日の予定を言い終えると、ふらつく足取りでカオリとトウカに別れを告げ、宿屋の奥に引っ込んで行った。
「マコトくん、どうしたんでしょうか?顔色が悪かったけど」
「おおかた、食べ合わせを間違ったんでしょ。カオリ、私たちも今夜の寝床確保しなきゃ!!元拠点の宿はチェックアウトしてきたし」
「ええーーっ!?」
夜の食堂でカオリの悲鳴が響き渡った。
ふらつく足どりで階段を登り切り、昨日から拠点として使っている部屋へ戻る。
扉が掠れた音を響かせ主を歓迎する中、マコトは部屋のある一点を見つめため息をついた。
ある一点…、何処の部屋にも備わっている小さいベッドの上で黒いドレスを着た少女がマコトの帰りを待っていた。
暗闇で輝いて見える金色の髪を垂らし、フリルのついたドレスを身に纏う彼女は月光に照らされ、妖艶なオーラを漂わせていた。
「一体何の用だ?人の部屋に勝手に入りやがって、『ネメア』」
輝く様な金色の髪を腰まで垂らした少女はこちらを見つめたまま何も発さない。
『ネメア』
《フォーマメント・オンライン》がログアウト不能のデスゲームに変貌し、一ヶ月がたった頃マコトの前に現れた謎のアバターだ。
マコトに《フォーマメント・オンライン》を送りつけた人物の知り合いらしく、マコトを常に監視している…らしい。
マコトの前に現れるタイミングはランダムで、以前シャワーを浴びている際に現れたこともある。
彼女がマコトの前に現れる理由はいつも同じだ。
「マコト…、あなたは何故弟子をとったの?マスターを探すというグランドクエストをあなたは課せられているというのに」
やっぱりか。何度も聞いた言葉にウンザリしつつ、大剣や革製の防具をストレージにしまい楽な格好に着替える。
「お前の言うマスターってのは、『10番目の大陸』に居るんだろ?なら個人飛行艇は必要だ。あいつらにはその手伝いをしてもらうってだけさ」
月明かりに照らされるネメアの横顔を眺め、マコトは彼女の横に座る。
ベットの軋む音を聞きつつ、ネメアの横顔をまじまじと眺める。彼女とは4ヶ月近い付き合いだが、今だにNPCなのかプレイヤーなのか分からない。
その理由の一つは彼女が常時無表情だからだらう。言ってしまえば人間特有の感情表現を彼女は行わないのだ。
「笑ったら可愛いと思うのに…」
こちらを見つめる双眸に視線を合わせ、率直な感想を述べる。
「感情は人間を弱くするだけ。あなたもその事を知っている筈」
「ああ、知ってるさ。それでも俺はお前と違って感情を隠さないよ」
数分の間、睨み合いを続けたがやがて不毛な争いと悟ったのか、ネメアはマコトから視線を逸らした。その動作は人間が行うものであり、だからこそマコトを困惑させる。時折見せる人間らしい動作が人間らしくない彼女の正体を隠しているのだ。
「で、言いたいことはそれだけか?」
「ええ。でも出来るだけ早くことを済ませてね。あなたはマスターを見つけなければいけないのだから」
マコトの耳元でそう囁くと『ネメア』は空気に溶ける様に姿を消した。彼女はいつもそうやって現れ、消える。
「やっぱり『ネメア』にはGMクラスのシステム権限が与えられてるみたいだな…」
『ネメア』が消えた虚空を数分見つめるが、やがてベッドに身体を横たえる。
彼女の残り香が漂う部屋でマコトは静かに瞼を閉じた。
「遅いぞー!!マコト!!」
食堂に降りたマコトを迎えたのは、トウカの怒声だった。
現在時刻は9時。昨夜マコトが指定した時刻から1時間が経っている。
「悪い。寝坊した」
ぶっきらぼうに返すと、トウカとカオリの反対側の席に腰を降ろす。
「そんなんで探索できんの?やっぱり私がついて行ったほうが…」
「足手まといになるだけだ」
「にゃんだとーー!!」
トウカが憤慨した様子で反対側から、マコトを殴ろうとするが届かない。
「チビは大人しくしてろ」
「私だって中三だぞ」
「俺もだけどな」
くそー!!と呻くトウカを無視し、システムウィンドウから装備を添付したメールをそれぞれに送る。
「今日はこの装備で特訓する。朝食が済んだら着替えとけ」
「マコトくん、この装備のレア度5ですよ!!いいんですかこんな高価なもの!!」
カオリが信じられないという様に目を見開く。
《フォーマメント・オンライン》では、アイテムや素材、武具には1から10までのレア度が設定されてある。数字が大きい程その価値は高く、大陸の数字に応じてレア度の高い武具が手に入る。今しがたマコトが渡した武具は『2番目の大陸』では入手不可能なレア度5の装備だった。
「構わない。《魔剣士》と相性の合わない装備だからな」
トウカとカオリのステータスを見比べ、それぞれに応じた装備を手渡す。
「それには《生命維持》っていうスキルが備わってる。HPがレッドになったら強制的に設定した街に帰還させられるから小まめに回復しとけよ」
渡した装備の注意点を口頭で伝える。
《生命維持》というスキルは本来プレイヤーの命を守るスキルだが、ボス戦以外では殆ど使用しない。その主たる理由はレベリングに向かないからだ。レベルを上げるには、モンスターを多く倒し経験値を稼がなくてはならない。回復ボージョンなどの消費アイテムはシステムで設定された個数しか持ち運べないため、ギリギリで使用しなければあっという間に底が尽きる。そんな命の駆け引きには《生命維持》スキルは邪魔でしかない。序盤こそ多くのプレイヤーが使用していたスキルだが、今では見る影も無い。
「あと、お前らシステム補助はこれから使用すんなよ」
「えっ!?でも、それじゃあ武器が振れないですよ?」
「レベルが上がればその分だけ筋力値も上がる」
「《魔導師》のコマンド詠唱補助はどうすんの?」
「お前には才能があるから大丈夫だ」
納得がいかないという顔の2人を無視し、マコトは朝食を手早く済ませると2人を引きずる様にフィールドへと繰り出した。
ーーー修業初日が始まる。
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