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04
レベル56《魔剣士》マコトはHPが残り一割にまで追い詰めた《イザナミノミコト》から距離を取りつつ、相手の変化した攻撃パターンを見極めていた。
HPが三割以下に減少するまでの《イザナミノミコト》の攻撃パターンは《倶楽部》との戦闘を観察していてある程度は分かっていたが、今現在は全く役に立たない。

「しかし、面倒だな…」

レベルでは勝っているとはいえ、ボス級モンスターであることに変わりは無い。《イザナミノミコト》の変化した攻撃パターンは時間差を利用した4連続攻撃を繰り出すといったものだった。一撃目を避けても二撃目が、二撃目を避けても三撃目が…、延々と続く時間差攻撃に苦戦を強いられ、マコトのHPは6割近くまで減少していた。

「おーい、このままじゃ負けちゃうぞー」
「うっせー、少し黙ってろ」

背後から付与魔法を継続的にかけ続けているトウカに一喝すると、大剣を握る手に力を込める。

「しゃーない。やってやるか!!」

右手で持っていた大剣の柄に左手を重ねる。
マコトが普段から大剣を片手で扱っているのには理由がある。
一つは、相手の攻撃に対応した攻撃…、つまりは魔法を使えるようにするため。
もう一つは、遠心力を利用した体重移動による連続攻撃が可能になるからだ。一種のシステム外スキルというものだが、アバター体に負担をかけるためマコトは自分以外で使っているプレイヤーを見たことが無い。

「古い漫画でも言ってたっけ…、剣ていうのは両手で振ったほうが攻撃力が上がるってな!!」

《イザナミノミコト》が四本の腕に持つそれぞれの太刀を振るう。
それを下から掬う形で、太刀と太刀が重なる軌道に大剣の刀身を振るう。

「終わりだぁぁぁぁっ!!」

バットを振るう要領で、大剣を上へと突き上げる。
ガキィッと腕に衝撃が走るが、気にせず振り抜く。視界が青いポリゴン片で埋め尽くされ、視界が晴れた時には自分の腕に握られた砕け散った柄を呆然と見つめる《イザナミノミコト》が捉えられた。

「調子に乗った罰だ。精々苦しんで逝け」

残ったMPを全て使い、極限まで攻撃力を高めた大剣が《イザナミノミコト》に突き刺さる。
軽い破砕音と共に、《王族の墓地》の主はその姿をポリゴン片に変えた。


「終わったか…」

まだ周囲を残留するポリゴン片を見つめながら、マコトは呟いた。
緊張が一気に抜け、猛烈な脱力感に襲われる。

「マコトくーーん!!」
「ぐあっ!?」

突如、背後からの衝撃でマコトは吹き飛ばされた。ボス戦終了直後であったため、マコトはろくに受け身もとれず地面に押し倒される。

「ちょっ!?カオリ・・・さん!?」

自分の上に乗っているプレイヤー…、カオリは頬を紅潮させらがら、こちらを潤んだ目で見ていた。
あっ、そういえばカオリ…さんって意外と美人だなぁとマコトは今さらながら知覚し、今の自分の状態に頬が熱くなる。

「心配したんですよ!!」
「っ!?」

涙で潤んだ瞳で上目遣いにこちらを睨むカオリに何も言えない。普通の男性なら惚れてるんだろうなぁ、と頭の片隅で思考する。

「分かった!!すまなかった!!だからどけ、重いんだよ!!」

自分の上からどくカオリにため息をつきながら、マコトは立ち上がる。
これを何も考えずにやっているのだから余計にタチが悪い。背後でトウカの笑い声が聞こえるが、気付かないふりをする。

「とりあえず19時に宿でな」

カオリの返事を聞かず、マコトは足早にその場を去った。背後からの《倶楽部》の視線がマコトには痛かった。




「カオリの奴、うまくやってるかな〜」

カオリが宿から出て行ったのは、つい数分前だ。現在、《倶楽部》の拠点である宿のカウンター席でトウカはカオリの帰りを待っていた。既に時刻は19時になっており、外は暗闇に包まれている。
背後の4人掛けテーブルでは、リーダーであるアカネが酒を煽りながら、《イザナミノミコト》を実質的に1人で倒した《魔剣士》…、マコトを激しく罵っていた。

「本当、クズやろうだな…」

あいつはチートだの何だの喚いているアカネの声を聞きながら自分だけに聞こえる声で呟く。

「さてと、私も覚悟を決めるか…」

システムウィンドウを開き、カオリと自身のギルド脱退メールを酔いが回ったアカネに送る。おそらく彼女がこのメールに気付くのは明日の朝になってからだろう。

「カオリだけに、責任を押しつけるのは最低だもんね。それに…」

あのマコトというプレイヤーは押しには弱そうだった。背水の陣で臨めば、必ず彼は協力してくれるだろう。
他人の弱みに漬け込んでいる自分に苦笑しつつ、トウカは誰にも気付かれず拠点から出ていった。



マコトが泊まっている宿は《倶楽部》が拠点としている宿の目と鼻の先にあった。
注文した料理が出揃うまでマコトはカオリと顔を合わせず、《イザナミノミコト》戦で入手した金や素材マテリアルなどを整理していた。
といっても、所詮は『2番目の大陸』のボスであって、特に目を引くアイテムはない。

「あの〜、マコトくんはどうしてソロなんですか?」
「いきなりの質問だな」

アイテム整理の手を止め、カオリの質問に対する返事を考える。マコト自身、自分がソロプレイを行う理由はもちろんある。逆に命を賭けたこの世界でソロを貫く理由が無いほうがおかしいくらいだ。しかし、マコトとしては会って間もないカオリに話したい内容ではなかった。

「・・・友達をあまり作りたくないからだ」
「ぷっ!!」
「・・・・・・」

笑われた!?
何故だかとてつもない敗北感がマコトを襲う。顔に困惑した表情が出ていたのか、カオリは必死で口を抑え、笑いを噛み締めている。
・・・なおさら意味が分からん。

「すいません。ただ余りにも子供っぽい理由だったので」
「・・・子供っぽい」

カオリの言葉にマコトは《イザナミノミコト》との戦い以上のダメージを負った。・・・特に精神面に。

「でもマコトくん。友達を作らないのと、パーティを組まないのは違うんだと思うんですけど」
「もういい。この話はここでお終いだ」

カオリに自分の胸の内を暴かれる気分になり、話を打ち切るとテーブルに置かれた料理に手を向ける。
『2番目の大陸』なので、とくに美味しい料理はないが、腹に詰め込んでおかなければ明日に響く。
結局、残り2つの未達成クエストは消化できず、明日へ持ち越しという形になってしまった。

「それでマコトくん、私の戦いどうでしたか?」
「聞きたいか?」

ふかし芋のような料理を口に運びつつ、カオリに対する返事を促す。

「やっぱりダメですか」
「いや、合格だ」
「へっ!?」

マコトの言葉が予想外だったのか、困惑した様に頭を上げる。

「どうしてですか?私は負けたのに」
「誰が勝てって言った?最初から君達のギルドが勝てるとは思ってなかったよ」
「・・・・・それって《倶楽部》を馬鹿にしてますか?」
「ああ、激しく馬鹿にしている」

ふっくらと焼かれたパンを口に運びながら、マコトは即答する。

「あのギルドは仲間とはぐれた私を助けてくれました!!いくらマコトくんだからって言っていいことと悪いことが…」
「でも、君はその仲間を追ってこの島から離れるんだろ。結局、あのギルからは近い内に脱退しないといけない」
「皆さんと一緒という選択肢は…」
「無い」

キッパリと断言すると、カオリは数秒考えるようにしたが、やがて決意を固めたようにこちらを見る。

「分かりました。それで私を弟子にしてくれるんですね?」
「ああ。だけど問題が一つあ…」
「その心配ならないわよ」

横からの言葉にマコトは声のした方を見やる。予想通りそこにはトウカがいた。

「アカネには私から脱退メールを送っといたから。私とカオリは既にギルドから抜けてる」
「トウカちゃん!?」
「遅かったな」

カオリの素っ頓狂な声を尻目にマコトは、傍の机から椅子を一つとりカオリの隣に置く。

「あんた分かってたんだ。私がギルドを脱退すること」
「そんなこと考えてなきゃ、《イザナミノミコト》戦で俺と臨時パーティを組むはずがないからな」

トウカが自分の協力を引き受けた際のアカネの憎々しげな表情を思い出し、苦笑する。
マコトのような野良プレイヤーに散々メンツを潰され、その上ギルドメンバーが引き抜かれたと分かれば彼女はどんな顔をするだろうか?まあ、どうでもいいが。

「それじゃあ、今後の方針について話し合おうか」

マコトの一言でカオリとトウカの表情が引き締まる。

夜はまだ始まったばかりだ。











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