02
《フォーマメント・オンライン》
天空を意味する『Firmament』のスペルから付けられたそのゲームがデスゲームへと変貌した時のことをマコトは昨日の様に思い出すことが出来る。そもそもデスゲームへと変貌したきっかけが自分にあるのかもしれないのだから当然だ。
夏休みが終わり、いよいよ高校受験が差し迫ったその日、現実でのマコト…、桜木 誠の元に謎のメッセージが同封された差出人不明の小包が届いた。
そこに入っていた《フォーマメント・オンライン》にログインした直後にその世界はデスゲームへと変貌したのだ。
まるでマコトがログインするのを待っていたかの様なタイミングだった。
アカウントの新規作成でログインしたため、キャラクター作成の手間があり、結局個人データに保管されていた自分の顔を使ったアバターを作成すると、転移させられた場所は『1番目の大陸』にある草原フィールドだった。
キャラクター作成時に職業に《魔剣士》を選択したため、装備ストレージには《魔剣士》の扱えるカテゴリの初期武器が入っていた。
《フォーマメント・オンライン》には攻撃専門の《魔剣士》と《ソルジャー》。防御専門の《ヘビィ・ウォリアー》と《チャリオット》。攻撃と防御の両立ができる《ライト・ウォリアー》と《騎士》。支援系の《ネクロマンサー》と《魔導士》…と、8つの職業が存在する。
それぞれの職業によって、扱える武器や魔法が異なるため、自分に適した職業を探すのが《フォーマメント・オンライン》での最初のクエストといっても決して過言ではない。
マコトの選んだ《魔剣士》の扱える武器カテゴリは大剣、双剣、弓、槍の4つだった。
他の職業の武器カテゴリには、太刀や片手剣といった初心者向けの武装も見られたが、攻撃系統の魔法に目がくらみ、思わず《魔剣士》を選択してしまった。
武器を一通り使ってみようと考えた直後にそれは送られてきた。
『これより、《フォーマメント・オンライン》にログインしている皆様はログアウトすることが不可能になります。
なをこの世界での死は現実での死と変わりありませんのでご注意ください。
皆様の無駄な命が幾つ散ろうと構いませんが、まあ頑張ってください』
このメッセージが正しいがどうか分かったのは、それから数分後のことだった。
とりあえず最寄りの街を目指すことにし、その道中に出会うモンスターを大剣の素振りに利用していると、遠方から悲鳴が聞こえた。
そこへ向かってみると、黒いノイズの走ったアバター体が横たわっていた。その周囲を取り囲む様にして、武器を構えているゴブリン達がいるところを見ると、そのアバターはゴブリンの群れに殺されたようだ。
そのアバター体のカーソルには血のように紅い文字で『GAME OVER』と表示されていた。
通常 《フォーマメント・オンライン》では、死んだプレイヤーのアバター体は最寄り街にある教会に転送され、目を覚ますという仕組みになっている。しかし、ゴブリンに囲まれている黒のノイズが走るアバター体が転送されることはなかった。
最寄り街へ辿り着くと、そこは多くのプレイヤーで溢れかえっていた。
その呟きから、この世界からのログアウトが出来なくなったらしい。
それから1週間、ログインしている3万人の殆どが街に引きこもった。すぐに助けが来ると考えたからだ。しかし、時間だけが過ぎていき、ログインしていたプレイヤー達の心理状態は日に日に悪化していった。
そんな折に、掲示板にある噂がたった。
『10番目の大陸』である《アルグライド・アイランド》に辿り着くことが出来れば、どんな願いでも叶えてくれるといった内容だった。
そしてその噂を信じたプレイヤー達は『10番目の大陸』を目指すようになった。
現実へと帰還するために。《アルグライド・アイランド》…そこに終わりがあると信じて。
デスゲームの開始通知が各プレイヤーに送られ、既に5ヶ月。レベル56魔剣士マコトは『2番目の大陸』の一つ《フレイミーアイランド》北東に位置する森林エリアで奇怪な女性プレイヤーと出会った。
「私を弟子にしてください!!」
「・・・・・・・はい?」
目の前で土下座している彼女の瞳は本気であると述べているが、マコトには自分の現状に頭がついていっていなかった。
「だから、わたしを弟子にしてください!!」
「断る」
頭がやっと自分の現状を把握し、彼女の嘆願をバッサリと斬り捨てる。
そもそも理由を述べていないので嘆願にすらなっていないが…
「俺はパーティとか組まないから趣向だから。他の奴に頼んでよ」
「それじゃあダメなんです!!私は一刻も早く『7番目の大陸』に行かなきゃならないんです!!」
「なっ、7番目ぇ!?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
この女の子は自分が何を言っているのか理解しているのだろうか?
『2番目の大陸』で死にそうになっていたプレイヤーが『7番目の大陸』を目指すだと…。夢を大きく持つのは大切なことだが、自分の限界を知るのも大切なことだ。
しかし、それを告げれば彼女は無茶なレベル上げをし、最悪命を落とす可能性もある。
マコトにとって彼女が何処で死のうと構わないが、自責の念に駆られることは避けられない。
「とりあえず、理由だけでも聞かせてもらえるか?」
退く気のない彼女に半ば諦め、とりあえず話を聞くという協定を結ぶと、マコト達は最寄り街へ向けて歩き出した。
簡潔にまとめると彼女…、カオリは不慮の事故により、『2番目の大陸』に落ち、共に行動していた仲間とはぐれてしまったらしい。
「つまり、君は仲間とともに『3番目の大陸』に向かう途中、モンスターとの戦闘になり、甲板から落下。『2番目の大陸』に座標固定されたわけか」
酒場のカウンターで水を口に含むと今しがたカオリが行った説明を復唱する。
彼女の話が真実なら、一つ腑に落ちないことがある。
「仲間と連絡をとって迎えに来てもらえばいいんじゃないのか?」
「それがダメなんです。私たちはその時、あるクエストを受注していまして、それが制限時間付きのクエストだったんです」
「・・・キャンペーン・クエストか」
《フォーマメント・オンライン》では上層の大陸に向かう手段が大きく分けて2つある。定期飛行艇の便に乗るか、その大陸のボスとして指定されているモンスターを倒すかだ。
しかし、『7番目の大陸』からその設定は変化する。『7番目の大陸』に辿り着くには、『6番目の大陸』に存在するボスモンスターを倒すだけではなく、あるクエストをクリアしておく必要がある。
それがキャンペーン・クエストだ。
『2番目の大陸』で受注できるそれは、『2番目の大陸』以降にある指定されたルートを通り、指定されたモンスターを狩り、『6番目の大陸』にいる老人NPCに話しかければ、《飛行魔結晶》と呼ばれるショップでは購入できないアイテムを入手することができる。
そのアイテムが『7番目の大陸』に辿り着くための重要なアイテムとなるのだ。
しかし、キャンペーン・クエストをクリアしたプレイヤーをマコトが知る限りでは、100人にも満たっていない。
その原因は2つある。
1つは、先にも述べた通り、制限時間が課せられていることだ。1ヶ月という短い期間で3から6の全ての大陸を回り、指定されたモンスターを倒す。
言葉にするのは簡単だが行うことは難しい。
何より、1ヶ月という短い時間で大陸を回り切るには、個人飛行艇が絶対に必要なのだ。プレイヤーが保有することの出来る個人飛行艇は大陸の何処かに隠されていると聞くが、見つけたものはマコトが知る限り皆無だった。
2つ目は、指定されたモンスターの強さだ。指定されているモンスターのほぼ全てがボス級の強さまたは難易度を持っている。マコトならば、単独でも『2番目の大陸』までのボスならばギリギリ倒せるが、カオリにはまず無理だ。そもそもボスはレイドを組んで始めて挑めるものであり、カオリにはそれだけの実力があるとは思えない。
マコト自身、『2番目の大陸』に来た目的の一つはキャンペーン・クエストの受注であったが、数少ない友達が単独ではクリアできないとしつこく言ってきたので、とりあえずは下見という意味で来たのだが、非常にマズイことになった。
「つまりカオリは仲間と合流したいんだよな?」
「はい。その通りですけど・・・」
口ごもりなら微妙な表情を浮かべるカオリに首を傾げていると、
「私は高校生ですよ?」
「っ!?」
思わず口に含んでいた水を吹き出しそうになる。
「年上っ!?」
「その反応からするとマコトさんは、中学生でしたか〜」
中学生のマコトに高校生のカオリ。
面倒くさい展開になってきたな。
「だったら私のことは『カオリさん』って呼んで下さい。私は『マコト』って呼びますから」
「馴れ馴れしいな・・・」
「『カオリさん』がですか?」
「『マコト』がだよ!!」
いつの間にか、カオリのペースに呑まれている自分に気付き、心を落ち着かせる。しかも彼女は悪意なしで言っているので余計にタチが悪い。
「それじゃあ『マコトくん』はどうですか?」
「・・・・・もうそれで良い」
年下扱いすんなっと言いたかったが、これ以上話を脱線させるのも面倒くさい。
「それで協力してくれないでしょうか?」
「無理」
彼女の言葉に即答すると、マコトは席から立ち上がる。これ以上ここで時間を潰したくなかったからだ。
ここに来た目的の一つはキャンペーン・クエストの下見だったが、決してそれがメインではない。『2番目の大陸』の一つ《フレイミーアイランド》、この大陸で達成していないクエストは残るところ後4つ。
あわよくば明日にでも自分の本来の目的が果たせるのかもしれないのだ。
「そ、それじゃあ、せめて明日の正午に北西にある《王族の墓地》に来てください。そこで私が今いるギルドがフィールドボスに挑むのでそれを見て決めてくれませんか!?」
「気が向いたらな」
背後からの声に手を振って返すとそのまま酒場を出た。
もちろん、行く気などない。
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