01
樹々が生い茂り、フィールド全体に光が届かない森林エリアで、輝く軌跡が頬を撫でる。
視界の端に表示されているHPバーがわずかに減少する。
内心毒づくと、装備している大剣を振り下ろす。
今しがたの攻撃で一時的な行動不能状態に陥っていた亜人モンスター《ゴブリン・ナイト》のHPが一気に3分の2程減る。
そもそもレベルの差が圧倒的であるため、何度攻撃されようと、HPは微々たる量しか減少しない。
「らあぁぁぁっ!!」
行動不能状態が解除され、動き出す《ゴブリン・ナイト》に追撃を加える。
亜人モンスターは断末魔をあげる余裕も与えず、ポリゴン片となってその身を四散させた。
その直後に地響きをたて、今回のクエスト目標である《ジェネラルゴブリン》が現れる。
「やっとかよ」
そう呟くと、レベル56魔剣士マコトは自分の倍ほどの巨体を誇る《ジェネラルゴブリン》に向き直り、大剣を構える。
暗いフィールドに光が瞬いた。
《フォーマメント・オンライン》。
天空に浮かぶ10の大陸を攻略していくそのVRMMORPGの存在が知れ渡ったのは、夏の残暑が残る9月半ばのことだった。
誰が作成したかは不明だが、気付けばオークションに約3万ロッドが出品されていたのだ。
それを落札した人物から人物へと情報が出回り、気付けば人気ゲームとしてその名を博していた。
落札値段は13万円と高校生には到底払えない値段だったが、マコトの場合は特別なケースだった。
送られて来たのである。落札したわけでも、譲ってもらったわけでもなく、唐突に送られて来たのだ。
差出人は不明。唯一の手がかりは《フォーマメント・オンライン》の小包に同封されていたメッセージだった。
『これをプレイし、私を見つけてみたまえ。
さすれば、君の将来は変わる』
うん、何かの勧誘メールみたいな文面だな。
謎でしかないそのメッセージだったが、マコトはその世界へログインした。
謎の誰かからの挑戦状を受けるために。
そして、その日この世界は脱出不能のデスゲームへと変貌した。各プレイヤーに通知メールが送られ、当時は大変な騒ぎになったものだ。
そんな中、プレイヤー達は何の確証もない噂を信じ、『10番目の大陸』であり最後の島である《アルグライド・アイランド》へと向かう。
辿り着けば、どんな願いも叶えられるという噂を信じて…。
「やあっ!!・・ってあれれ?」
体重を乗せた斬撃が避けられ、身体が前のめりに倒れる。
慌てて体勢を立て直すも、目の前のモンスターはその隙を利用し攻撃を仕掛けてくる。
レベル12 獣モンスター《レッド・テイル》。
紅蓮の尾が特徴的なトカゲを大きくしたようなモンスターはその尾をカオリに打ち付ける。
「きゃぁっ!?」
HPが二割ほど減少し、半分以上が失われていたHPが黄色く染まる。それと同時にカオリのHPバーの隣に炎を模したアイコンが表示された。
一秒ごとに一定ダメージを受ける状態異常《火傷》だ。
「そんな・・」
絶望的になりながらも、《レッド・テイル》の二度目の尾攻撃を左手首に装備した盾で防ぐ。押し問答になりながらも、上から押さえつける形で少しずつ、相手を後退させる。
「これなら!!」
利き手に持つ片手剣が光を帯び、スキル発動の準備が整う。
「これで終わりです!!」
しかし、スキル発動の直前に背後からの衝撃でスキルが中断され、地面に頭をぶつける。
見ればHPは危険領域に到達していた。
ぼやける視界の端に《レッド・テイル》の他に大きな巨大のモンスターの影がうつる。
死ぬ。
そう知覚したさなか、《レッド・テイル》そして、自分を背後から襲ったモンスターはポリゴン片となって四散した。
「・・へっ?」
予想外の展開に頭がついていかないない中、大量のポリコン片が舞い散るその中心に、白のマフラーに黒の革装備をまとった少年がいた。
大剣を軽々と片手で持つ少年の髪は身にまとう装備と同様に黒く、顔は女性と見間違いそうになるほど美しく見えた。
「生きてるか?」
そう言って差し出された手に自分の手を重ね
る前に、カオリは意識を失った。
「はぁ・・・」
髪をグシャグシャと掻きながら、マコトは大樹の幹に身を預けた少女を見やる。
話は数分前に遡る。
戦闘開始から、わずか数分でそのHPを赤く染めた《ジェネラルゴブリン》は持っていた大斧を地面に叩きつけ、視界が砂煙で阻害された隙に逃亡した。
それを追って、森奥深くに入り込めばマコトが残り数ドットまでおいこんだ《ジェネラルゴブリン》とHPを3分の2程度まで減らした《レッド・テイル》が1人の女性プレイヤーを襲っているのを目撃した。
もちろん当初の目的通り、《ジェネラルゴブリン》を倒し、襲われているプレイヤーを見て見ぬ振りをし、その場をあとにするという非人道的行為も出来たのだが、そんな度胸がある筈もなく、結局助けることになってしまった。
「めんどくさいことになったな・・・」
自分と同じくらいだと思われる少女の寝顔を見つめるのにも飽き、システムウィンドウからプレイヤー間の情報会得手段の一つである掲示板を閲覧する。
掲示板には他プレイヤーの集めた有益な情報が稀に転がっていることがある。しかし一部のアレなプレイヤーが何処のギルドの副団長が可愛いだとか、■■■■したいだとか、目を覆いたくなる書き込みをするため、閲覧には十分気をつけなければならない。
掲示板の卑猥な書き込みを無視し、スクロールさせていくが、有益な情報は見つからなかった。
タブを閉じ、隣に立て掛けてある大剣に手を伸ばす。
漆黒の刀身が光沢を帯び、手に持った瞬間ズシリと重みがかかる。
知り合いの鍛治屋を営むプレイヤーにオーダーメイドして手に入れたその大剣には希少な素材が惜しみなく使われている。
『7番目の大陸』までなら使うことの出来る大剣を持つマコトは既に現在いる『2番目の大陸』をクリアしていた。
《フォーマメント・オンライン》は『1番目の大陸』から『10番目の大陸』まであるが、決してフィールドが10しかないわけでは無い。
この10の大陸は、フィールドの数を示すのではなく、その空域を示すのだ。
『1番目の大陸』を始めとする島の周囲には小島が数多く存在する。『1番目の島』の周囲だけでも、50はあるらしい。しかも、一つ一つが緻密に作られている。
《フォーマメント・オンライン》を作った奴はどれだけの時間をかけてシステム設計したのか、考えるのも恐ろしい。
その中で上の大陸まで行く手段は大きく分けて2つある。
1つは、その大陸にいるボスモンスターを倒すこと。ボスモンスターは一度の挑戦の後、数分で再び湧出する。しかしその特性故にレベル上げに利用されないようにと、一度クリアしたプレイヤーが再び赴いたところで戦闘にはならない。最低でもパーティメンバーの半数以上を初心者にしなければ戦闘は開始されないのだ。
2つ目は、3ヶ月に一度だけ『7番目の大陸』より下の各大陸にある港を訪れる飛行定期船だ。その船に乗りさえできれば、次の大陸に安全に辿り着くことができる。しかし乗船チケットは目が飛び出るほどの重税を週に一度、滞在している街に支払わなければ入手出来ないモノであり、この手段を使うプレイヤーは少ない。しかし、全くいないわけでもない。
そう、《フォーマメント・オンライン》とは一度取り残されれば、次の大陸に辿り着くことはほぼ不可能、言ってしまえばレベルが本当の意味で運命を左右する、超高難度のゲームなのである。
マコトのレベルは56、各大陸の安全レベルはその大陸の数字×10だ。つまり、マコトは現在『5番目の大陸』までなら危なげなくクリアすることが可能だ。
最前線プレイヤーと同程度のレベル(つまり最前線は『6番目の大陸』)であるマコトが『2番目の大陸』を訪れたのには理由がある。
『2番目の大陸』…、正確にはボスモンスターの存在する大陸 《フレイミーアイランド》の街であるクエストが受注できるのだ。
マコトはそのクエストを受けにきたのだが、そのクエストの派生条件が大陸中にある全てのクエストのクリア…ととんでも条件だったため、必死でクエストをクリアしている道中、モンスターに襲われ(下手したらマコトのMPKによって)命を落としかけている女性プレイヤーを見つけたというわけだ。
「う、うぅぅん」
握っていた大剣を再度木に立て掛け、目覚めた少女を見やる。
自分がどうなったのか覚えていないようで、周囲をキョロキョロと見回し、マコトを見た瞬間その動きを止める。
その視線にマコトは嫌な予感がした。
「・・・み」
「み?」
「見つけたぁー!!」
そう叫ぶとその少女はマコト向かって飛び掛かってくる。反射的に彼女の突進ルートから身を退け、マコトのいなくなった場所を彼女は通り過ぎ、マコトがつい先ほどまで身を預けていた大樹の幹にぶつかる。
「・・・・・・・」
「・・・・大丈夫?」
一応、木に立てかけていた大剣を背負い、いつでも抜剣することが出来る様にしておく。
木に突っ込んだ彼女は素早く、マコトの正面に座り込み土下座する体制をとる。
そのあまりの速さに呆然としていると、彼女はよく澄んだ声で頭を下げた。
「私をあなたの弟子にしてください!!」
「・・・・・・・・はい?」
何の脈絡もなく言われたその言葉に、ただマコトは困惑した。
これが、マコトとカオリの出会いだった。
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