患者を欺くだけでなく、日本の臨床研究への信頼を揺るがす極めて重大な事態だ。
製薬会社ノバルティスファーマ(東京)が販売する降圧剤「ディオバン」を使って京都府立医大の松原弘明元教授が実施した臨床研究について、府立医大は、論文に使われた解析用データに人為的な操作があり、「結論に誤りがあった可能性が高い」と発表した。
薬を服用した高血圧患者について、脳卒中や狭心症を減らす効果があったようにデータが改ざんされていた可能性が濃厚だ。
府立医大の検証チームは、他の降圧剤と比べ「発症率に差はない」と優位性を否定した。事実なら薬効を捏造(ねつぞう)するにも等しい行為と糾弾せざるを得ない。
この臨床研究では、5月に退社したノ社の社員が患者データの解析を担当したが、関連の論文に名を連ねる際、所属を明示していなかったことも判明。ノ社から松原元教授の研究室には大学を経由し、1億円超の奨学寄付金が提供されていたことも分かっている。
研究の中立性に疑義が持たれていたことに加え、今回のデータ不正だ。だが、2月に退職した松原元教授は、大学側の調査に「操作はしていない」と説明しているほか、ノ社は「大学の報告だけでは、恣意(しい)的なデータ操作があったとは確認できない」とする。いずれも説得力を欠き理解不能だ。
日本で2000年に発売されたディオバンの年間売り上げは1千億円以上で、ノ社の売上高の約3分の1を占める看板商品だ。改ざんされたデータが販売促進に利用されてきたことは否定できまい。
ノ社と府立医大は、具体的な責任の所在をはじめ真相を究明する責務がある。強制力のない調査に限界があれば、刑事告発なども含め疑惑の解明に手だてを尽くすべきだ。同様にノ社の社員が関与した臨床研究が実施された東京慈恵医大など4大学も、それぞれの調査結果の公表を急いでほしい。
再発防止に向け、データ解析など公的な監視機関の必要性が指摘され、法整備による罰則の強化を求める声もある。国も検討作業を加速すべきだ。
一方、臨床研究に対する公的支援が乏しい中、医薬分野の産学連携が滞ることがあってはならない。企業と大学の共同研究の在り方についても、透明性の高い公正なルールづくりが急がれる。
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