プロフィール最終更新日:
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「店長!!」
「なんだよでけえ声出すなよ……」
俺はもみじのようなちっさな手で自分の耳を覆った。前回までのあらすじとしては、いろいろあって42歳のおっさんだった俺が幼女になった。いまの俺は、定位置のバックルームの事務机に向かって座っている。かつての座面の高さでは事務机に手が届かないので、店長専用クッションが登場した。ほかにも店長専用踏み台とかいろいろある。店のたいていの箇所は大人用のサイズにできているので、俺はどこに行くにも踏み台を持って移動する羽目になる。しかも踏み台には「てんちょうの」と左手で書いたみたいな字で書いてあるが、それは断じて俺が書いたわけではなく、バイトの高校生がおもしろがって書いたのだ。
小さくなった肉体でどこまで以前の業務がこなせるか、これはかなり疑問だったのだが、慣れればなんとかなるものだ。筋肉の制御やらなんやらはおっさんとしての俺の脳がまだ生きているのか、字もふつうに書けるし、たいていのことはこなせる。ただし発注の端末とかがやたらに重たく感じられるので、膝の上に置いて、店長専用踏み台に座って発注するのだが、その姿が大変に愛らしいと好評である。
あと嬉しいんだか悲しいんだかぜんぜんわからないが、この肉体になってからというもの、腰が痛くない。身軽である。店内を走って仕事をすることもできるが、それをすると常連から「店長さん、お店のなかで走ると危ないよ」と注意されてなんともいえない気分になる。
いまも俺は、とうてい床まで届かない足をぶらぶらさせている。自分の肉体が幼女のそれである、という状況に慣れてきており、さらにそこに、かつてのロリコンとしての自分の脳がなせるおかしい自己演出が浸透してきており、このままではいつ道ゆくロリコンのおっさんに「おじちゃん、おとなのあそび、おしえて……?」とか言い出さないか気が気ではない。
「で、なんの用だよ」
相手は店内で唯一の男子アルバイトの男だった。都心部のとある企業で営業をやっていたらしいが、中高大と柔道部、さらに入社した企業は体育会系で男ばかり(男しか残らない)という境遇のせいか、非常に野郎くさい。一人称「自分」はテン年代にまれに見る珍種だ。実家(このそばにある)で一人暮らしの母親が体調を崩したとかで、仕事をやめて戻ってきたらしい。
「……」
休憩中、とつぜんの告白。
じわりと汗が滲んだが、そこは42年の人生経験にものを言わせて、つとめて表情を殺して返事をする。
「中身はおっさんだぞ」
「知っております!」
「外見幼女ならなんでもいいのか」
……なるほど。
俺は両手を胸の前できゅっと握ってみた。
「ふみゅぅ~」
「ハァァァァァァ!!」
次に足をぶらぶらさせて、机に頬杖をついて言ってみた。唇はちょっと突き出すのがポイントだ。
「おうちつまんなーい。おそとであそびたいよう」
「ヒョォォォォォォ!!」
いちいち悶えるバイト。お兄ちゃん大好きなんて言ったら壁に頭突きとかしそうである。
俺は遠い目をした。
俺にもそんなころがあった。郵便配達のバイトでいつも通りがかる幼稚園。ふにふにとした手足で駆けまわる園児たち。見ているだけで性的な気分になれた。まちがえた。幸福な気分になれた。ああ、あの内部に郵便物を届けに行けたなら。
遠くから見るだけで、実際に話すのは初めての年長さんの女児。赤い自転車で颯爽とあらわれた俺を見て、女児ははしゃぐ。
「うわー、ゆうびんやさんだー」
「うん。ゆうびんやさんだよ」
俺はやさしくほほえむ。そしてちょうやわらかくてふわふわな女の子の頭のうえに手をのせて、なでなでする。
「うぅーなでなでくすぐったいよぉ」
「はは。くすぐったがりやさんなんだね。ようし、じゃあくすぐりっこだー」
「えー、だめだもん。わたしよわいもん。ねえねえ、ゆうびんやさん、おてがみ、くださいっ」
「そうだったね。僕の仕事は郵便屋さん。君のために、特別なお手紙を持ってきたんだよ」
「とくべつー?」
「そう、特別」
そう言って俺が差し出したのは、かねてからしたためてあったラブレターだった。もちろん年長さんでも読めるようにすべてがひらがなだ。
「これはね、ラブレターっていうんだ」
「らぶ……れた?」
「そう。僕が、君のお兄ちゃんになりたいっていう、そういうお手紙だよ」
「ふぇ……?」
女の子は小首をかしげて俺を見る。なんという愛らしさだ。ほっぺたにぺんてるのサインペンで「ふにふに禁止」とか書きたいくらいにかわいい。そして俺はその禁止マークの前でおあずけ感に悶絶しながら七転八倒して、最終的にペニパンを装着してほっぺをつつくという異常な解決策を思いついて罪悪感から自殺する。死んじゃだめだ。
「ゆうびんやさん、お兄ちゃんになってくれるの……?」
「ああ、君だけの、お兄ちゃんだよ」
「ほんと……?」
「ああ」
「わあ……うれしい……ずっとほしかったんだ、お兄ちゃん……」
淡い、夢だった。
現実の園児たちは、俺の夢をカケラも満たさなかった。夢砕かれた俺は、もうロリコンは廃業すると誓い、小学校の卒アルを取り出し、女子の写真のひとつひとつに「本当は足のにおいがけっこう強い」「意外に毛深いので、冬とかけっこう油断しててワキの下がちょっと危ないよ☆」「朝起きたときに、口がちょっとくさい」などの架空の個性をメモするという修行を開始したものだった。その結果、俺のストライクゾーンはフタケタまでなんとか到達した。
先達として、俺はこの若造になにかアドバイスできることがあるのではないか。
柄にもなく、俺はそう考えた。
「なあ」
俺は声をかけた。
顰め面をしたり、遠くを見るような目になっていた幼女の俺を、なんかまずい目薬ても注入して神経系がパワーアップした人のような顔で見ていたバイトは、その表情のままで返事をした。
「御意!!!」
「いや、そのキャラよくわかんねえし」
「はぁ」
「おまえさ……青いんだよ」
そう言われて、バイトはようやく人間らしい表情になった。そして怪訝そうな顔で俺を見る。
つかみとしてはこんなもんだろう。
「なあ、ロリババアってわかるか」
「もちろんであります!」
「俺ぁな、ありゃあ違うと思うんだよ」
「と、申しますと……?」
異論や反論があることは承知している。これはあくまで42年の歳月をロリコンとして生きた一人の男の信念に過ぎない。そして、信念というものは往々にしてただの思い込みの別の謂でしかなかったりもする。
それでもいいさ。
古い観念を押し付けて反発されるのも、大人ってやつの役目なんだろうから。
こうして、外見7さいの幼女が、ロリコンについて語るという地獄のような絵が出現した。
「そもそもおまえはなぜロリコンなんだ。肉体か? 肉体だけが目的なのか?」
「失礼な! 自分にもロリコンとしての矜持があります! ふにふにした手足、ちっさいボディ、こどもおなかの中心的存在であるおへそに舌を突っ込んだところなどはもちろん想像もします。しかし天真爛漫な精神、なかんずく羞恥心がないところ、それなくしてなんの幼女と申せましょうや!」
「よく言った」
俺は腕を組んで頷いた。
そして、ぎろりと目をむいて、バイトを見た。というのは俺の主観の話で、実際には上目遣いで「きっ」という感じでにらんだもん、という感じになっているものと思われる。
「ならば、外見だけの俺の姿に興奮するおまえは、いったいなんなんだ?」
「……!」
はっとした顔をした。そして、その表情が見るみるうちに苦悩の色彩を帯びてくるのを俺は確認した。
「くっ……」
「なんなら俺が演じてやろうか。俺にはそれができるはずだ。わーいおにいちゃんだーおにいちゃん椅子でテレビ見たいなー、なんてな」
「……」
押し黙っている。
いま彼のなかでは、かつての自分の信念と、あらたに突きつけられた現実とが壮絶な格闘を繰り広げているのだろう。悩め。なにものも持たぬ若者が唯一自分のものとして持っている特権は、悩むことだ。
「なんなら、えっちなこあらさんだっこを懇願してやってもいい。しかしそれでおまえは満足なのか? ただの幼女の皮から生み出された、偽りの幼女。そんなもので……」
俺は机をバシンと叩いた。客観映像としては、机をぺちぺちしてぷんぷんしている。
「そんなもので騙されるほど、貴様のロリコン魂は安いものだったのか!!!」
バイトは椅子を倒しながら立ち上がり、叩きつけるように叫んだ。
どうでもいいけど、こいついいリアクションするよね。ふつう出ねえだろ、断じて否。
俺はバイトの表情をじっと見た。昂っていながらも、どこかすっきりとツキモノの落ちたような顔。どうやら、ひとつの気づきは与えることができたか。
ここでさらに追い込んでもいいことはない。
あとは、さりげなく場の空気をほぐして、前向きに仕事をさせてやることだ。
俺は苦笑して見せた。
「俺だって、真夏の幼女の足の指のあいだにたまった成分を集めて、それを凝縮し、全身に塗って転がりまわる、というような想像をしたことがないわけじゃない」
「人は理屈どおりには動かないってことさ。こうした矛盾もまた人間の一面だ、さあ仕事だ」
コンコン。
そのとき、開けっ放しになっていたバックルームのドアがノックされた。
「ふーん……あんたそういう趣味があったんだ……」
ギギギギギ、と油の切れた機械のように俺は振り向いた。
うちの奥さまが、ドアに寄りかかってドアをノックしていたのだった。
「ちょうどよかったじゃん。自給自足できてさ」
「こ、これはもののたとえというやつで……」
「もののたとえでそういう妄想が瞬時にして出てくるあたりで、私にはもうふつうの人間には見えないんだけどねえ……」
自分休憩上がるっす。
バイトは逃げた。
うちの奥さまは、にっこり笑って言った。
「神の河の720ビンと、ミツカン酢のビン、どっちがいい?」
「そ、それ、どっちもビンだよね? 殴ったら人死ぬよね?」
「まさか、ビンで人殴るわけないじゃん。バカだなー」
「そ、そうですよね……」
「間をとってこのへんで」
ガギン。
「しごと、しろ」
「ふぇい……」
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というわけで、幼女の姿にだいぶ慣れてきたMK2さんがこのブログを書いております。まだ魔法は使っていません。本当の魔法はね、君と、私の小指を結ぶ、赤い糸に流れてるんだよ。次回「初恋!? 不倫!? 幼女店長の危険なアバンチュール!」をお送りします。自分で書いてて、タイトルがびっくりするほど80年代センスで死にそうになった。アバンチュールて……。