ホームルームが終わってすぐ。
「ねぇ……さっきのなに?」
ちょいちょいと手招きされて廊下に行ってみれば、開口一番、陽子は不満げな顔で呟いた。
「ビンタ?」
「そうだけど、なんで龍也がビンタされなくちゃいけないのかってこと」
「それだったら、俺に聞くより本人に聞けば?」
廊下から教室を見ると、杼口紗耶香は大人しく席に座っているようだった。
担任も絶対に気づいたはずだが――とくにおとがめはなかった。
だが、明らかにクラスの中に壁は生まれた。
誰一人として、杼口紗耶香に近づこうとする人間はいない。
公平無私を座右の銘として掲げる学級委員長の柴田でさえも、遠巻きにどうしようかとうろうろしているだけで、切り込むことは出来ないようだった。
「聞けるわけないから龍也に聞いてるんでしょ!?」
「俺の方が聞きたいよ、そんなの!」
「例えば、えーっと、知り合いだったりとか!? なんかトラブってるとか!? そういう心当たりは!?」
「全然無いよ! だって見たこともないし! 本当に今日初めて会ったんだぞ!? ――大体、俺の人間関係なら陽子だってよく分かってるはずだろ?」
「でも! ビンタだよ!? それも転校初日に!? なんで知らない人にそんなことするの!?」
「だから俺に言うなって! 俺がビンタしたわけじゃないんだから!」
陽子は両腕を組んで、眉をひそめてうーんとうなった。
「これは何かしら。事件が起こる予感がするわ」
「いやいや。もう事件は起きたから。教室の中で」
「……ほっぺたは大丈夫? 保健室行く?」
龍也の頬を遠慮がちな手が優しくなでてきた。
「別に。音は大きかったけど、痛くはないよ。あれくらい、先生に毎日殴られてるし」
「そうかもしれないけど……本当に冷やさなくて平気?」
「心配ないよ。これでも鍛えてるからね」
龍也は余裕を見せたつもりだったが、陽子の心配そうな瞳が変化することはなかった。
「でも、なんで? 龍也、殴られるようなこと言った?」
「初めまして、葛城龍也です――これで、陽子は俺を殴りたくなる?」
さあ 手をつないで 僕らの現在が 途切れない様に――
どこからともなく、龍也のよく知っている歌が聞こえてきた。
陽子の一番好きな歌であり、着メロとして設定してある歌だった。
「先輩だ。お昼一緒に食べようだって」
陽子は携帯電話を見て、メールの着信を確認していた。
陽子が見せてくれた携帯電話の画面には、生徒会長のお堅いイメージからはとても想像出来ない、ピンク色のポップで可愛らしいスタンプのついたメールが映っていた。
小説家になろう 勝手にランキング
面白かったらクリックお願いします!
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。