本日はファンクラブのイベントって事で朝から大忙し、何分トークが出来ない二人なので色々大変。
凄い激戦だったらしく入場口では顔写真入りの証明書と確認中、そこまでいないといけないなんて世の中本当大変だと思う。
そんなにあの二人が見たいのだろう…俺としては未だに不可思議だ。
とは言えファンはやっぱり大事なので二階堂もサービスしてる方、無表情のままだけど。
始まる前も始まってからも裏は大忙し、俺達マネージャーは特にする事はないので隠れて様子を伺っていた。

「千賀はさ、男同士の恋愛って有りだと思う?」
「…ふぇ?」

二人がファンからの質問に答えるって言うコーナー、こうゆうやり取りは人気があるらしい。
勿論質問は予め選んであって答えも用意してあるけど、やっぱり恋愛とかのは多いみたいで。
今も彼女が出来たら何をして上げますかって質問に二人が答えてる最中で…何気に聞き入っていたから妙な返答になってしまった。
いきなり何を言い出すのかと思えば、突拍子が無さ過ぎて逆に反応に困った。

「う、ん…別に恋愛なんて人それぞれじゃないかなって」
「偏見とか、ないんだ?」
「‥ない、かな」

偏見はない、と言うのも身近にそうゆう人がいるからなのだが。
聞いたのは極最近の事、気持ち悪いとかそんな感情を抱く以前に驚き過ぎてどうしていいのか分からなかった。
ちなみにその人は藤ヶ谷くん、平然と彼女と紹介されて俺は呆気に取られたし…彼女さんは躊躇いもなく鉄拳を浴びせていた。
違う一面を見せられた気はしたものの特に何とも思わなかった、そんなのも有りかなってくらいで。

「でも、どうしてそんな事聞くの…?」
「知りたい?」

いつもニコニコしてる宮田、でもこんな時の笑顔は正直イイ気はしない。
ふるふると頭を左右に揺らして再び視線を二階堂に戻すとマイクをくるくる回して遊んでいて、既に飽きているのが目に見えて分かった。
普段から割りと無表情なので顔には出にくいけれど態度には直ぐ出る、俺は顔に出やすいタイプなのだが。
今となってはどちらの方がいいのやら…似た者同士だったらもう少し気もあったのかと思った事もあるけれど。
何だかんだでやってきているのだから、俺達はこれでいいのだろうと思う事にした。

「にか、つまんなそー」
「‥だね、玉もおんなじ。にしても驚いたよ、二階堂と一緒に住んでるなんて」
「え‥あ、うん…家賃タダって言うのに負けて‥」
「…それだけ?」

今日は否に話題を変えられる、寧ろ話が常にぶっ飛び過ぎてて俺はあたふたしっ放し。
そして問い以上に宮田の返答が凄く気になる物言いなので、隠せない俺はどうにも顔が引き攣ってしまう。
最初は凄く親しみやすくて良い人だと思っていたし今も思ってはいる…でもそれは飽く迄も一面に過ぎないのかもしれない。

「宮っちさ、ちょっと玉ちゃんが移ってきたんじゃない?」
「そっかな〜…まぁずっと一緒にいるからね」

否定してくれると信じていたのに、真に受けられるとこっちがどんな対応していいのか困ってしまう。
年は二つしか離れていないと言うのに宮田は妙に大人で、俺は何時もテンパってばかりなのでその余裕が羨ましかった。
二階堂の一言一言にムキになってしまう俺はやはりまだまだ子供なのだろう。
向こうの方が数ヶ月と言えど年上なのだから少しくらい遠慮してくれてもいいのに、全くと言っていい程譲り合う精神が感じられないのだ。
自由奔放に生きてきた人の代表みたいな感じ、それでも最初よりはずっとイメージはよくなった方。
テレビの中でしか見た事無かった人気アイドルと今では一緒に居る所か、同居までしているのだから…。
昨年まで普通の高校生だった俺には考えられない話、もし家を飛び出していなければ普通にキャンパスライフを満喫していただろうに。

「俺も、いつかニカみたいになっちゃうのかなぁ…」

何気なく漏らした独り言に宮田はきょとんとしていた、少し言葉を省きすぎた所為かもしれないが。
朱に交われば紅くなると言う諺は満更嘘でも無い気がする、四六時中一緒にいるとそれが普通に思えてきてしまうから。

「千賀、二階堂みたいになりたいの?」
「…ちょこっとだけ」

そう答えると宮田は意外だったらしく、へー…と何処か興味無さ気に薄い反応を返してくれた。
あんなに言いたい事をはっきり言えたらすっきりするんじゃないかなっと思ったんだ、ただ単純に。
勿論言ったってどうにもならない事も多々あるだろうが、内に溜め込むよりはまだ発散出来る気がする。
別に俺だって言ってしまったっていい、でも言うと関係を修復出来ないような喧嘩になりそうで一瞬物怖じしてしまうんだ。
二階堂相手に遠慮なんてする必要ないのに…マンションから追い出される事を恐れてる自分がいる。
生活面での事は勿論あるけれど、それだけではない気もする。
まだそれが何なのかは俺には分からなかったけれど、頭の隅でぼんやりと考えながらヤル気が感じられないアイドルに再び視線を落とした。







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