アイドルのインタビューで多いのが恋愛関係の質問、所詮形式だけのものなので深く考えたりもしない。
今までは事務所に言われるがままに答えていたが、今は自由に答えていいと言われている。
だが今の俺にとってそれは…大問題以外の何物でも無かった。

「じゃあ有りがちなんですけど、好きなタイプの女性は?」
「あー…そうですね、」

彼女と何処へ行きたいとか、何をして上げたいとか…そんなの知ってどうするんだと思ってしまうのだが、ファンは知りたいらしい。
今までは適当に答えていたが、最近は悲しいかな無意識の内に健永を思い浮べてしまう。
今好きな相手が直ぐ傍にいるのだ、考えずとも答えられるだろうと思うかもしれないが逆に難しかったりする。
四六時中一緒にいるから色んな面を見てはいる、だからって変に詳しく詳細を話せば怪しまれる可能性だってあるのだ。

「瞳が大きくて綺麗で、料理が上手い子…ですかね」
「やはり料理は必須ですか?」
「俺が出来ないから、上手い子の方がいいですね」

苦笑いを零せば相手も笑って次の問いへと進んで、内心ホッとしながら回答を続けていく。
性格なんて適当に言えばいいが外見はそうはいかない、その時々で違う事を言っていたりするので後から記事を読んで焦る事も屡。
気付かれる事なんて無いとは思うが…もしかしたら、と期待しない気持ちがない訳ではない。
最も、昨日の電話でそんな可能性は微塵もない事を痛感させられた所だが。
正直あそこまで鈍いとは意外だった、同姓の壁は仕方ないにしても少しくらい考えてくれてもいいのに。
キスされている理由が分かっているのに、どうして自分がその対象だと思ってくれないのだろうか…。

「じゃあ…もし玉森くんと同じ人を好きになったとしたら?」
「ぇ‥玉森と?」
「そう、飽く迄も架空の話で」

架空と言えど有り得ない話だ、確かにタイプは似ていると思うが二人が同じ人を好きになる事はまずないだろう。
根拠は何もないので何となくとしか言えないが、今まで無かったのでこれからも被る事はないと思う。
寧ろそう願いたい、今回の事を踏まえるとライバルなんて居たら自分を保っていられる自信が全くないから。

「…負けませんよ、勿論」
「お、強気ですね」
「譲ったり諦めたりしたら、そこで終わりですから」

そう言いながら自分に言い聞かせていたんだ、諦めたらお終いだと。
いくら鈍くても気付かない可能性はゼロじゃない、最もそれは千賀も俺の事を好いてくれていた場合の話だが。
それこそ気持ち悪い、なんて言われるかもしれない訳で…同姓を好きになるというのはリスクをそれくらい背負うと言う事。
でも好きになったのだからもう後戻りは出来ない、この気持ちを無かった事にする方法は一つしかないのだから。

「インタビューは以上になります、有難うございました」
「ありがとーございました」

一礼して席を立つ、次の仕事は確か急ぎだと健永が言っていたのを思い出して小走りに楽屋へと戻ったのだが…。
先程から姿が見えないとは思っていたものの、まさかの展開に思わず脱力してしまった。
いくら仲直りしたとは言え所詮電話越し、まだ怒っているのかと心配していたのだがそうでも無かったらしい。
机に寝そべる様にして眠っている相手に安堵して歩み寄る、起きる気配は全く感じられない。
昨晩は余り眠れなかったのだろうか…俺は寝不足には慣れているし、それなりにプロ意識もあるので多少平気な部分もある。
でも凡人や不規則な生活に慣れていない人には厳しいだろうに、どちらかは分からないが。

「なぁ健永…お前さ、」

どうしたら俺の気持ちに気付いてくれんの?
声に出せない台詞は何時も咽喉奥に突っ掛かったまま、聞いた所で天然な上に鈍感じゃあ無意味に等しいだろう。
片思いなんてガラじゃない、欲しいモノは割と強引な方法で手に入れる…躊躇うのは何時もと勝手が違い過ぎるから。
行動の意図は通じているのに、その対象に自分を含めてくれないのはやはり。

「俺は所詮、同居人ってだけなんだろーな…」

恋愛対象に普通だったら見てくれるはずはない、でも俺はそれなりにアクションは起こしてきたつもりだ。
それでも無理なのだから…もう玉砕覚悟で気持ちを伝えるしかないのかもしれない、結果は見えているにも関わらず。
潔く諦められるならその選択も有りだが、如何せん俺は欲求に関しては諦めが悪いので関係を壊すだけの告白なんてする気はない。
こんなに近くにいるのに誰かに横から攫われるなんて絶対に避けたい状況、取り敢えず今は守りを固めるしかないのだ。
顔を覆っている長い前髪を分けてやると一瞬身動いで、でも瞳が開かれる事は無くて。
玉森が楽屋に怒鳴り込んで来るまで、俺は健永の寝顔を見つめていた。
後に同居している事を気付かれて大喧嘩をする事になるんて、思いもせずに。







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