「今の電話、二階堂だったよね…?」
「そうだけど、なに?」
「いや…別に」

俺が二階堂との電話を切った直後だったか、後ろからのそんな問いの後宮田の盛大な溜息が聞こえたのは。
正直電話を拒んでいないと言われれば嘘になる…でも反省している感じはしたので許してはみたものの。
ずっと言わないといけないと思っていた台詞を言った後の二階堂と宮田の反応は、呆れた様な感じだった。

『キスは、好きな子とだけするものだよ』

ぶっちゃけもう三度もされていたので今更だったが、次があっては困るので言ったのだが。
相手の反応は大変薄く俺の方が困った、三回目は舌まで入れられたのに…って思い出しそうになって思わず頭を左右に振った。
ファンの子や一般の人からすれば羨ましい限りかもしれない、俺だって気持ち悪いとかは思わないけれど…。
外国人じゃないのだから挨拶代わりで済まされる訳もないし、意味の無いキスなんて無意味。
隙を見せない様にしないと、と意気込んでいると不意に宮田に聞かれた。

「千賀って、友達多いタイプ?」
「え?んー…少ない方だと思うけど、どして?」
「いや、そーだろうなっと思って」

勝手に納得してしまった相手はそのまま俺に背を向けて眠ってしまったために、俺も仕方なく眼を閉じた。
学生時代は確かに友達が多い方では無かった、寧ろある程度仲良くなると皆離れて行ってしまうのだ。
自分に否があるのかと聞いたが、皆口を揃えて千賀は悪くないと言っていたので謎は深まるばかりだったのだが…。
その日は、久々に学生時代の友人が夢に出てきた。

***


「せーんがっ」
「っわ、玉ちゃん。びっくりしたぁ…」

一緒に行こうと言う宮田の言葉をやんわり断って、置きっぱなしだった車を取りに行ってから一人スタジオ入りした。
だから顔を合わせる時間が無くて、取材を受ける二階堂を見つめていると背後から衝撃を受けた。

「二階堂とは、口きいた?」
「ううん、まだ。俺さっき来たばっかりだから」
「そ。アイツ昨日マジで大変だったんだから…よっぽど千賀に大嫌いって言われたのが堪えたみたいで」

確か宮田にも同じ事を言われた気がする、どうして被害者の俺より加害者の二階堂が凹むのか…。
凹むのだったらしなければいいのに…と思わずにはいられないのだが、時に感情で動いてしまうみたいで。
普段無表情な事が多いので何を考えているのかさっぱり分からない、これだけ一緒にしても分からないのだから相当だ。
玉森が言うには、以前よりはずっとマシになったらしいのだが…正直いつになったら理解出来るか不安なくらいだった。

「俺って、二階堂にとって何なんだろ…」
「ん?どーゆう意味?」
「これと言って何の役にも立ってないのに、どうしてマネージャーやらせてるのかなって」

今では私生活の面も面倒見ているとは言え、飯炊きをしているくらいで別に全ての面倒を見ている訳ではない。
クビにするなと社長に根回ししたり俺をマンションに住まわせたり、かと思えばいきなりあんな事をしたり。
何がしたいのかさっぱり分からない、寧ろ二階堂自体が俺にとってはまだまだ謎な存在。
多分お互いに言いたい事を全部言えてない所為もあるのではないだろうか、俺の場合は聞いたってきっと答えて貰えないから問わないが。

「そんなの、千賀の事好きだからでしょ」
「…‥はぃ?」
「じゃないと、キスなんてしないよ」
「え、それ…っ玉ちゃん!」

聞いた相手を間違っただろうか、昨晩言った台詞を知られていた事に吃驚している間に逃げられてしまった。
勿論玉森の言葉に動揺した事もある、でも意味を穿き違えて貰っては困る。
俺が言ったのは恋愛感情って意味、二階堂が俺の事好きって言うのはそうゆう意味ではないだろう。
寧ろそうゆう意味なはずがない…だってこんな華やかな業界にいるのに、俺みたいな一般人を好きになるはずがないから。

「ニカが俺を……ないない、有り得ない」

俺だって一応は一流企業の社長の息子だが、そんな事実は誰も知らない。
だから俺なんて相手にするはずがない、というのが自分なりの見解で、まさかの事態は考えもしなかった。
それから数時間後、同居が玉森にバレた事で又喧嘩をしたためにこの会話は脳内から直ぐに抹消されてしまったのだった。







back