本日はラジオの収録が最後の仕事で、毎月雑誌に掲載しているのだがそれの取材の日でもあった。
だから記者とかカメラマンとかもいて…何故か俺の大嫌いな奴もその中には紛れていた。

「二階堂、顔怖いんだけど」
「…あ?」

玉森曰く般若の形相だったらしい、だがそんな顔にもなってしまう…アイツは相変わらず健永にベッタリだったから。
今は宮田も一緒なので睨むだけで済んでいるが、それこそ二人だったら俺の機嫌はMAXに悪くなっていただろうに。
今でも十分に悪いので周りのスタッフは些か不安な面持ちでいるみたいだが、俺だって一応プロなので私情を持ち込んだりはしない。
勿論時と場合によっては状況は変わってくるが。

「本当、藤ヶ谷くんの事嫌いだよね、お前」
「だってアイツ、マジうぜぇし」

実際の所藤ヶ谷の事なんて何も知らないし興味もない、ただ健永に構うので腹が立っているだけで。
別の形で出会っていれば友達になれたかもしれないが、今は憎むべき対象でしかない。
健永は藤ヶ谷の事をお兄ちゃん程度にしか思っていないのだろうが、相手はどうか分からないし。

「まぁ仕方無いんじゃない?付き合い長いんじゃ、どう頑張っても勝てないじゃん」
「んなの分かってるけど…」

昔の事なんて知らない、勿論知りたくないと言えば嘘になるが聞いても答えてくれるとは限らないし。
でも今一番健永の近くにいるのは俺で、自覚が芽生えた今近付く存在全てが鬱陶しい。
仕事を経て親しくなるのは仕方ないと思うし、俺だって親しいスタッフはいるからそこまで制限するつもりはない。
だが藤ヶ谷みたいに必要以上に絡むのは許せない、だって健永は俺の…。

「ちょっ、二階堂っ!?」

玉森の声は最早届いてはいなかった、アイツに髪をくしゃりと撫でられて嬉しそうに笑う姿を見た瞬間身体が勝手に動いていたから。
自分にも必要最低限の自制心くらいは備わっていると思っていたが、健永相手ではそれは無意味だったらしい。
髪に触れたままの手を力任せに掴んで、二人の間に入り後ろの人物には見られない様にして睨みを利かせる。

「俺のに馴れ馴れしく触ってんじゃねぇよ‥」

相手は思っていた以上に大人だったらしく鼻で笑われてしまい余計にムカついて、健永の腕を引いてブースを後にした。
収録が始まるまではもう少し時間があった事もあって、誰も引き止める者はおらず。
最も健永は何が起こったのか分かっていないらしく俺に引き摺られるままに歩いていたのだが、やっと状況が掴めて来たのか制止の声を掛けられる。

「にか、ねぇ…ねぇってば」
「んだよっ!」

怒りが頂点に達していた事もあって返答は禄なものではなく、いつもならば絶対に喧嘩になってしまっていただろう。
だが原因が分からなかったためか困惑した様な表情は変わらずで、それが余計に拍車を掛けた。

「なんで怒ってんの?俺、何かした?」

分かっていなくても仕方ない、俺が勝手に好意をを寄せて勝手に怒っているだけなんだから。
分かって欲しいなんて思わない、でも嫌なんだったらきちんと拒絶して欲しい。
俺が付け上がる前に。

「お前は俺んだろ?他所の男にヘラヘラ媚売ってんじゃねぇよ」

自己中もいい所だ、健永は俺のマネージャーってだけであって何でも言う事を聞く召使いではないのに…。
当の本人も流石にその台詞にはムカついたらしく眉を寄せて、掴んでいた手を離された。
はっきりとした態度を取って欲しいと思っていたはずなのに、拒絶を露にされて俺の中で何かが切れてしまった。

「そんなこっ…、やっ、ん…ぅ、」

壁に押し付けて足を膝で割り開き唇に噛み付いた、誰が何時通るとも分からないスタジオの廊下で。
何を云わんとしていたかなんて大体検討が付いた、だからこそその口を塞いだ。
そんな事してない、それにニカには関係ない…多分それに似たような事を言うつもりだったのではないだろうか。
薄く目を開けば、固く目を閉じたまま逃れようと身を捩る健永の姿が目に入って。
膝で開いた足の中心を刺激してやればビクリと反応して、次の瞬間口内に痛みが走った。

「…って、」
「は…ぁ、っ…なに、な‥で…」

舌を噛まれて思わず身体を離してしまった、じわりと広がる錆の匂いに眉を寄せて目の前の相手に目を移せば大きく肩で息をしていて。
又やってしまったと思ったけれど今更悔いても何にもならない、口元に手を当てたまま見つめる事しか出来なかった。
戸惑いなんて通り越えて、俺の存在さえも拒絶したかの様に目も合わせてくれない。
藤ヶ谷と仲良くしたお前が悪いなんて言った所で伝わるはずもない、だが気持ちを伝える程の勇気がこの時の俺にあるはずもなかった。

「けん、と、俺…」
「ッ‥大っきらい!」

そう叫ぶとブースとは逆方向へ走って言ってしまった、止める事なんて出来るはずが無かった。
言葉が胸に突き刺さってショックだったのと、追い掛ける資格が己にあるはずがないので踏み出した足が先に進む事はなくて。
張り詰めていた糸が切れたかの様にその場にしゃがみ込んで、今までで一番の後悔に頭を抱えた。







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