プロフィール最終更新日:
- はてなID
- lkhjkljkljdkljl
- ニックネーム
- MK2
- 自己紹介
-
俺の名はMK2。某ムラではコンビニ店長としてちったぁ名前の通った男だ。しかしそんな俺もリアルじゃしがないコンビニの一店長。それも店長とは名ばかりで、実態はバイトの犬である。
「てんちょー、またあの仕事忘れたんですかー? ほんっと使えないクズですね」
「店長、こっち見ないでもらえます? お客さんの前じゃいちおう店長扱いしてあげますけど、バックルムーで私のほう見るなって言いましたよね?」
「あー雨降ってきて、ブーツ汚れちゃったー。店長、足拭きマットになってもらえます?」
こんなものだ。
そしてうちの奥さまがマルボロをふかしながら言った。
「はたらけ」
「はい……」
「うう。もういやだ……俺の人生はいったいどこでまちがったんだろう……」
家に帰るまでのあいだだって油断できないのだ。等間隔で家の前にはばばあが配置されており、それらの人々に対する愛想だって欠かすことができない。
帰る道の途中に、薄暗い金物屋がある。ふと、店である備品を切らしていたことを思い出して、俺はその店頭へと近づいた。ホコリをかぶった5個1パックのティッシュペーパーの上に、妙なものを見つけた。
「……カード?」
複雑な紋様をほどこされた、ちょっと高そうなカードだ。好事家のコレクションになりそうなくらいの、凝った作りである。
「なにそれ」
「うわあびっくりした」
気がつくとうちの奥さまが後ろにいて、一緒になってカードを覗きこんでいた。
「私も仕事終わったから帰ってきたんだけど。なに、またヲタくさいコレクション始めたの?」
「金物屋にそんなもん置いてねえだろ……」
なにか言葉が書いてある。
「汝、解放せよ……?」
その瞬間だった。直視できないほどの光の奔流がカードからあふれでた。
「うわ、なんだこれ!」
その光が俺を包んだ。
あとになってみるとバカな話なのだが、そのとき俺が最初に思ったのは「火傷する」ということだった。
気がつくと俺の体は宙に浮いていた。慌てて手足をバタバタする。
「ちょっと! なに浮いてんの!」
「俺の意志みたいに言うな!」
「あんた、服……」
「え?」
Tシャツにジーンズだけのどうでもいい俺の服がどんどん脱げていった。俺はうまれたままの42歳のおっさんの肉体を晒したまま空中にホバリングしていた。
「うわー醜い」
「ほかに言いようねえのかよ!」
ひときわ眩い光が俺を幻惑した。
声が聞こえる。
なんで直腸! なんか生きて腸まで届いたの!?
「あなたは……前世からの宿命により選ばれた聖なる戦士……あなたはこれから、魔法コンビニ幼女店長として、世界を救うのです……」
すごい。なんだその……なにそれ……アイコン……?
「ただし、3つのルールがあります……あなたは、これを破ってはいけない……破ったそのときには……」
あーあーよくあるよねー、超越的な力を手に入れると同時に禁忌事項あるの。
なになに。聞いてやるから。
「死にます」
「えー」
身も蓋も逃げ場もなかった。
「まずひとつめ……鏡に向かってオナニーしてはいけません……」
「ゲャーーーーー」
生きてる甲斐が消えた。
「みっつめ……変身したっきりで元に戻れません」
「ちょっと待てよ! 俺の人生返せよ!!!! そもそもそれ禁止事項っつーか決定事項じゃん!!!」
「まあがんばれ」
不意に、俺を包んでいた光が消えた。
体に重力を感じた、と思ったら、俺は地面にぺたんとしゃがみこんでいた。もちろん女の子座りだ。
「……」
うちの奥さまが俺を見下ろしていた。
俺は冷や汗を流しながら言ってみた。
「お、おはよう」
幼女声俺から出た! なにこれ! 試したことないけどヘリウムガス吸ったみてえ! いま俺斎藤千和!? とりあえずせんせいなんだからなーとかゆってみる!?
「こっちこい」
問答無用で引っ張られた。
「ちょ、いででで」
「なんでだよ」
「なんでもなにもないだろ! 通勤路で光に包まれて幼女に変身したおっさんを世間の耳目に晒しとけるわけねえだろ!」
-------------------------------
「ほれ、鏡」
うちの奥さまに手鏡を渡された。
というより、さっきから猛烈な違和感だ。身長が低くなっていることによる景色の見えかたの変化は、家に帰る途中でも充分にわかったのだが、家のなかに入ると、これまた強烈だ。すべてのものが、大きく、高く見える。
ところで、鏡のなかには幼女がいた。服装はピンク色基調で、あちこちにひらひらのついた例の感じのやつ。髪がピンク色でないのが救いだ。そしてかなりかわいい。キャラデ的にはヒロインタイプだ。あ、アホ毛ある。そして手にはご丁寧に魔法のなんちゃらっぽいアイテムを持ってるが、どう見ても発注用端末で絶望した。
「これでなにを発注するんだろう……」
「私に聞いてなんか答えが返ってくると思ったのか……? つーかあれだな、口調がふだんのあんたのままで、外見と声がそれって、本当に気色悪いな」
どうしてこの人は、ネットのどこかで聞きかじってきたどうでもいいネタを使いたがるのだろう。
「それにしても、驚いてないよね」
「あーうん。あんたの人生、このままで終わるわけないと思ってたから。絶対どこかでおかしいこと起こると思ってて、日頃から、なにが起きても驚かないように心胆を練ってた」
「参考までに聞くけど、どのへんまで覚悟固めてたの?」
「触手生えるところまでは」
「触手店長! レジ早そうだな! おでん入れながらレジ打って、別の触手がフェースアップ!」
「使えねえ……」
そういう問題ですらなく、それはもう人間とは呼びがたい。
「ってそうだよ、仕事だよ!」
俺はがばっと立ち上がった。
「うっわ動きかわいいちょう腹立つ」
「なぜむかつかれなきゃなんねーんだよ。つーか仕事どうすんだよこれ。そもそも店に行って俺が店長でございますって言ったってだれも信じねえだろ!」
「いやー、平気だと思うよー?」
「いったいなにを根拠に……」
「えー、まあいいじゃん。行ってみればわかるよ」
すごい投げやりだった。
「あー、あとさすがにそのコスチュームはまずいから、服どうにかしなね。通販かなんかで」
かわりに買いに行ってはくれないらしい。うちの奥さまは筋金入りの引きこもりであり、仕事以外では外出しない。それはこんなときでも変わらなかった。
こうして俺は、泣く泣く魔法幼女のコスチュームのままで、近所の洋品店まで衣類一式を買いにいったのだった。
------------------------------
「あー、なんか店長ってそのままで人生終わりそうな気がしなかったし、いわれればなんか納得です」
「外見が見苦しくなくなっただけ、まわりは助かりますね」
「いてもいなくても同じですし、だったら外見だけでもかわいいほうがいいですよね」
フリーターの女の子からパートのおばちゃんまでこの言い草だった。
「ほら、だから言ったじゃん」
「俺の存在ってなんなんだよ……」
そこからの話は早かった。自慢ではないが、うちのバイトは優秀である。まず俺専用の踏み台が用意された。制服は、パートのおばちゃんが家にいる娘に電話して、似たような柄のものを持ってこさせていた。名札の写真が問題だったが、フリーターの女の子がイラストを描いてくれた。
「うーん……」
「なんだよ」
「一人称が問題だと思うんですよね」
「俺は本部の会議に行ってもどこでも、ずっと俺っていう一人称で通してきたよ」
うーん……Sさんはまだ唸っている。ひらめいた、とばかりに人差し指を立てて言った。
「そうだけど」
「MK2たんで」
「時給255円にすんぞ」
「あ、GS美神ですね」
Sさんはオタだった。
「あ、そうだ店長、せっかくそんな姿になったんだから、ピピルマピピルマプリリンパって言ってみてください」
「おまえいくつだ」
俺の記憶では23歳だったはずだが、バイトの年齢詐称の疑いまで出てきた。
-------------------------------
「幼女らしく振舞えよ。一人称はわたし、だ。口調には気をつけろ。足をおっぴろげたり貧乏ゆすりするのも禁止だ。くしゃみはしていい。いまのあんたの体からはかわいらしいくしゃみしか出ない」
そう言うなり、鼻の穴にティッシュペーパーをつめ込まれた。
「くちゅん」
「許可する」
なぜ許しが必要なのか。
この段階になると俺はもう、万物生々流転とかそんな気分になっていた。世は無常である。口開く前と後に源氏パンザイとつけたほうがいい。
俺は言われたとおり、セールストークをした。
「はい! ただいま好評発売中、店内で揚げたできたてのおいしい鶏のからあげはいかがですか? 1個40円、10個買っても400円、財布にやさしくおなかにおいしい、◯ーソンの鶏のからあげ、ぜひおためしくださーい!」
「ちっげーーーーー」
すぱこーん。
殴られた。
うちの奥さまだった。
「幼女がそんなクソ流暢なこなれたセールストークかますわけねえだろ! もっとたどたどしく、人の心にせつせつと訴えかけるようにやるんだ!」
「どうしろっつーんだよ!」
「あるだろ……あんたの頭のなかに……無数の幼女データベース……それともなにか、ハードディスクのどこにあるか説明したほうがいいのか……」
周囲の気温下がった。
俺の体温も下がった。
「はい……」
俺は頷くしかなかった。それ以外の反応は許されていなかった。
そう。自分を信じるんだ。いまの俺の外見はかわいい幼女。魔法の発注端末でかれいなるせいちょー……はしないが、魔法幼女だ。そういえば俺なんの魔法使えるんだろう。端末に完璧な発注予測が出る魔法の計画発注? 絶対外れない魔法の天気予報? 俺自分がファンタジーなことになってるのに、なんで仕事から離れられないの? この制服が悪いの? 7の字のついてる制服着ればいいの?
俺の思考は炎天下で、どんどん逸れていった。
いやそうじゃない。いまの俺は幼女だ。ボイスは斎藤千和だ。たいていのことは許されるはずだ。恥は捨てろ。なりきるんだ。そう、これが俺のメタモルフォーゼ。42歳の夏にして訪れた、真正のメタモルフォーゼ。いま、おっさんは体脂肪率25%の肉体を脱ぎ捨て、加齢な蝶になる……!
「え、えっと、みなさーん」
呼びかけた。
道行く人が足を止める。みなが俺に注目している。そうだ。俺は、俺こそが幼女。夏に弾けろ!
しかし幼女の肉体はすごい。みんな不審がるどころか、なぜか和やかな視線になっている。
「今日は、えっと、お店においしいからあげがあるので、みなさん、食べてくださいっ」
昨日までの俺相手に「おいタバコだ」と怒鳴っていたじーさんが、猫なで声で言った。しかもカンロ飴だ。さすがじーさん。イーマのど飴とかは出てこねえ。
人がどんどん集まってきた。行ける。これなら行ける……!
「とりのからあげ、おいしいもなー。たくもおよばれしたい、おいしいからあげやー」
だんだん設定混じってきたが気にしない。たぶんベッキーつながりで出てきた。
誘客効果がすごい。立ち止まる人の何割かは店内に入る。自分では確認していないが、おそらく鶏のからあげは相当な数を売っているはずだ。俺は自分のこの幼女の姿をマグネットとして使って実行しうる戦略について考えながら、果敢に幼女を演じ続けた。
-------------------------------
異変に気がついたのは、1時間くらい経ったころだったろうか。
あいかわらず俺は人の輪の中心にいた。しかし、その輪を構成する人種が変わってきた。
しまった。
背筋に冷たい汗が流れたが、そのときにはもう遅かった。群衆から漏れ聞こえる恐ろしいセリフの数々。
「見るだけなら犯罪じゃない」
「風下にいればにおいだけでも」
差し出されたハンカチ。おまえあとでそれ絞って飲むだろ! 俺にはわかるんだよ!!
「着替えはここだよぉ……」
ぬっと突き出されるこどもぱんつにこどもランニングシャツ。そして上着はスモックだ。
そう。考えればわかることだったはずだ……後悔してももう遅い。
俺は、大きなおともだちに囲まれていた。
もしこいつらが俺と同類なら、俺のこの肉体に直接触れることは絶対にしないだろう。そういう意味ではやつらは信用していい。しかしだ。あそこでスマホ持って下向いてなんかやってるヤツ。あれが、ツイッターに投稿してないと断言できるのか? 俺の頭のなかに「RT拡散希望」「コンビニにて幼女店長発見」のおそろしき文字列が浮かぶ。短縮URLもだ。そしてトゥギャッター。まとめだけは、まとめだけは勘弁してくれ……!
俺は言った。
「あ、あのね、お兄ちゃんたち」
どよぉ。
俺がその言葉を発した瞬間、精神の奥底、イドから流れ出たような粘着質のどよめきがお兄ちゃんたちからわき起こった。
やばい。思考法が大きなおともだちに同調していたため、つい「望まれる幼女」をやってしまった。そうじゃない、そうじゃないだろう俺。こうなったらヤケだ。やれるとこまでやってやる……!
「あのね、わたし、その、おしっ」
ぐぬ゛に゛。
殴られた。
「コカ・コーラのペットボトルの底の固い部分でなかっただけありがたく思え。なにやってんだあんたは」
うちの奥さまだった。
うちの奥さまは、周囲から見えないように俺の後頭部をいろはすでどつきまわしながら言った。
問答無用で引っ立てられた。
-------------------------------
こうして紆余曲折はあったが、俺の魔法幼女コンビニ店長としての第一日目は終わった。
俺はひたすら疲れた。
くたびれきった体をひきずるようにして家に帰った。いつもどおりPCを立ち上げて、ツイッターやらタンブラーやらをひととおり眺めた。ウィキペディアの新着もチェックしてから、はてなのトップページを開いた。そのときの俺は、疲れきっており、かつ騒動続きだったため、すっかり忘れていたのだ。
即死した。
-------------------------------
というわけで、このブログは、生まれ変わった幼女店長であるMK2さんがお届けしております。次回「悪質クレーマー対幼女店長!」お楽しみに!
……続かねえからな。