手回らぬ建設業界 特需に対応できず 震災前の体制スリム化影響
「とても手が回らない」。県発注工事の入札不調が続く中、県内の建設業界からは悲鳴が上がっている。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故前の公共事業の大幅縮減で、建設各社はぎりぎりまで体制をスリム化しており、復旧工事や除染など急増した復興需要に対応できないのが現状だ。「雇いたくても人が集まらない」「特需が終わるのが心配で、事業拡大に踏み切れない」…。経営者らは受注したくても請け負えない苦悩を抱えている。
■復旧の遅れ
安達太良山の中腹を走る県道岳温泉・大玉線。大玉村の区間では、震災から2年4カ月が経過した今も、約40メートルにわたって路面がひび割れたままだ。
復旧に向け、昨年の7月と10月の2回、別のひび割れ区間を含めた舗装工事の入札が行われたが、いずれも応札者は現れなかった。今年5月に3回目の入札が行われ、ようやく落札された。
別の区間の復旧は終えたが、大玉村の区間はこれからだ。利用者からは一日も早い復旧を望む声が上がっている。
県によると、県内では入札不調のため、進捗(しんちょく)が遅れている復旧工事が相次いでいる。道路の路肩が崩落したり、段差ができたりしたままの箇所や、津波で一部の護岸が崩れたまま手付かずのケースもあるという。
■技術者が不足
南相馬市原町区の石川建設工業社長の石川俊さん(52)は「技術者が足りない」と嘆く。
市内では震災と原発事故を受け、今も多くの住民が市外に避難している。建設業界も例外ではなく、人材難は深刻だ。建設業法が各工事現場に配置を義務付けている主任技術者らが不足する状況が生じている。復旧工事で需要が高まっている生コンや砂利などの資材不足も受注できない一因になっているという。
石川さんは「地域の建設業者は復興を担う使命感を強く抱いている。行政は現場の声にもっと真摯(しんし)に耳を傾け、対策を講じるべきだ」と訴えた。
県建設業協会長を務める小野利広さん(63)=福島県南土建工業社長=は「主任技術者をはじめ現場管理者の配置条件の緩和など、行政側の一層の対応が不可欠だ」と強調する。
協会によると、県内では住宅などの除染作業が本格化しており、建設会社の作業員も多くが投入され、人手不足に拍車を掛けているという。
■簡単に雇えない
「復興特需はいつ終わるか分からない。簡単には社員を増やせない」。いわき市の建設会社の役員(50)は、業界の現状を説明する。
社員数はバブル景気時代と比べて3分の1程度に減った。一方、仕事は震災前には想像もつかなかったほどの多さだ。「現在の需要に合わせて社員を増やしたら、また仕事が減った時に大変なことになる」
作業員を新たに雇ったとしても、育成するには最低1~2年の期間がかかる。「ようやく一人前に育ったころに特需が終わっていたらと思うと採用に二の足を踏んでしまう」と話す。震災前の社員数を維持し、その範囲内の受注に抑えるつもりだ。
■手詰まり感
11日に県庁で開かれた県入札制度等監視委員会では、委員から入札不調の抜本的な対策を求める意見が相次いだ。県の担当者は「引き続き、受注機会を拡大するための可能性を検討する」と答えるのがやっとだった。
これまで県は、入札の要件緩和など、業者が応札しやすいよう各種の制度改正に取り組んできた。だが、現時点で大きな改善は見られていない。「対策の効果が出るのを待つしかないが、県レベルの対応では限界もある」。県関係者の一人は手詰まり感を口にする。
入札不調を解消するには、県内の建設業者に応札できる態勢づくりを求めざるを得ない。しかし、県の別の担当者は「県の立場として、民間の経営に立ち入って社員の数を増やしたり、設備投資を拡大したりするようにとは強くは言えない」と打ち明けた。
背景
福島労働局によると、「建設などの職業」の5月の有効求人数は4186人。これに対し、有効求職者数は1360人で、有効求人倍率は3・08倍に上っている。昨年同期の2・34倍より0・74ポイントアップした。県によると、県内の建設業者数は公共工事の減少などを受け、平成12年度当初の1万1235社をピークに減少し続けている。震災前の22年度当初は9398社となり、原発事故に伴う避難などの影響で、25年度当初には8682社まで減っている。特に下請け業者の減少が目立つという。
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