2013-07-13 (土)
■今のアニメ視聴者は時間軸を崩す手法に不慣れな人が多い? − 視聴者のイメージ補完とネガコメと
ニコニコ動画でアニメを見ていたら、気になるコメント群を目にしたのでちょっとはてダに書いてみる。なお、自分はアニメや小説といったような創作物について語るのは初めてなので、書いている内容が頓珍漢かもしれない点はご容赦を。
「ハヤテのごとく! Cuties」での反応
「ハヤテのごとく! Cuties」が前期の春番組期間に放映されていた。この作品の11話と12話がこれまでの放送内容(ハヤテと女の子キャラとの掛け合い)とは毛色の違ったものとなっており、ハヤテがナギに掛けられた黒椿の呪いを解くために誰かとキスをする必要に迫られて色々と奔走するという話になっていた。
この話では意図的に時間軸を崩したシナリオが取られており、過去、現在、未来が入り混じった展開となっている。これが視聴者の一部にとって困惑の元となってしまったらしく、時系列を崩したことについて言及したコメントの多くは否定的な内容のものであった。そこで、11話と12話に投稿されたコメントの中で時系列の件について言及したものを抜粋してみた*1。
ハヤテのごとく! Cuties 第11話「ドアをノックするのは誰だ?」 ‐ ニコニコ動画:Q
- 時系列をバラバラにする必要性・・・
- 時間軸www
- 時系列がイミフだ
- 時系列どおりの方がおもしろそうなんだが
- 時間がいったりきたりだな
- 時系列さえまともなら面白そうなのになー
- 時系列ぶれすぎてわけわかめ
- 時間軸が、中学生の書いた漫画みたいになってる
- わかるけど解りにくいな・・・時系列普通でもいいだろこれ
- えっ 時系列わかりづれえ
- 時間順にやらない意味があるんですかねえ……
- 誰かこの回の時系列ちゃんと並べたの作ってくれ
- 時間軸が・・・
- 時系列の演出滑ってるぞ
- 時系列うううう
- なんか時系列おかしくね?
- この時系列バラバラ演出には何の意図があるんだ?
- 時系列がバラバラwww
- なるほど、時系列がこんがらがってるな
- この時系列どういう意味
- 無駄に時系列がw
- なぜ時系列で並べんのだ
ハヤテのごとく! Cuties 第12話「愛し愛されて生きるのさ」 ‐ ニコニコ動画:Q
- 誰か時系列を揃えたバージョンを頼む、俺は考古学者じゃないんだ・・・
- 時系列まとめろよ
- 時系列ぇ・・・
- 時系列バラバラすぎるだろ。演出ってレベルじゃねぇぞこれ
- 時系列バラした意味が分からん
- なぜ時系列ばらした
- 時系列wwwwwwww
- これ時系列ムチャクチャにする必要全くないじゃん
これらの反応から、時系列を崩したことでストーリーの把握に難が生じた様子や、ストーリー展開は追えるものの時系列を崩すという手法を採用したことに対する懐疑心が読み取れると思う。後者のような演出を理解した上でその必要性に疑問を覚えることに関しては特段言及しようとは思えなかったが、前者のような「時系列がイミフだ」「この時系列どういう意味」「誰か時系列を揃えたバージョンを頼む、俺は考古学者じゃないんだ・・・」という反応についてはやや気になってしまった。
さて、このように時間軸に沿わない演出が混乱を招いたという他の事例として、今期放送される別の作品を挙げようと思う。
「空の境界」での反応
今期から「空の境界」がニコ動等で放送されるようになった。ここでの反応を取り上げる前に、今回放送される空の境界はどのような作品なのかを軽く説明しておく必要がある。
まず、原作では全3巻が刊行されており、その中で第一章から終章までの計8章で構成されている(境界式といったエピソードも含めるとさらに細かく分けることもできる)。そして第一章 俯瞰風景が1998年8月の出来事、第二章 殺人考察(前)が1995年3月の出来事、第三章 痛覚残留が1998年7月の出来事、第四章 伽藍の洞が1998年6月の出来事…といったように、時系列が揃えられていない。この原作は読んだことがないのだが、このような順番にすることで伏線を張ったりというようなことが行われているのだろう。
この空の境界は2007年から2010年までに8本のアニメーション映画という形で劇場版「空の境界」として放映され、その時は原作の章立てそのままの構成でアニメ化された。
しかし、ニコニコ動画等で放送される1クール13話のアニメ版*2では、原作の4巻目に相当する伽藍の洞から1話目が開始される。これは原作の刊行された順番でもなければ、時系列順に並べられたものでもない(時系列順であるなら、第二章 殺人考察(前)から開始されなければならない)。この点が一部の視聴者に疑問や困惑をもたらしている*3。そこで、この第一話「伽藍の洞 ?」に投稿されたニコニコ動画のコメントの中で時系列の件について言及したものを抜粋してみた。
劇場版「空の境界」 第一話「伽藍の洞 ?」 ‐ ニコニコ動画:Q
- やっぱこれ2章先にやっといたほうが良かったんでない
- いきなり四話目とかわけわからんだろうなw
- ってか時系列順なら殺人考察先じゃね
- せめて殺人考察前からだろう。。。
- TV放送は再編集して時系列順に並べてるよ
- この前の時系列の話はいらないとわからん
前に挙げたハヤテのごとく! Cutiesよりは目立たない数の反応ではあったが、少数ながらこのような時系列を崩す手法に対して戸惑いや疑問のコメントが見られた。
時間軸を崩す手法自体は珍しいものではないはず
個人的には、時間軸を崩したり、統一させない表現方法にはある程度慣れていたために、これらの反応に対して違和感みたいなものを感じてしまった。自分が今までに見聞きした作品の中でも、時間軸を崩す構成・ストーリーはいくつか存在した。ここではそれらのいくつかを思い出せる範囲内で思い出して書いてみる。
自分はアニメをそんなに数多くの作品を幅広く見てきた訳じゃないけど、その限られた作品群の中でも「ひだまりスケッチ」が時間軸を崩す作品として印象に残っている。ひだまりスケッチの1期から3期までは、放送順と時間軸が一致しておらず、日付が時系列的に前後していることが基本だった。これによって、ひだまり荘の住人が「あの時は面白かったね‐」というような感じで話を唐突に始めて、次話以降にその過去のエピソードが取り上げられるという形で伏線回収が行なわれたりすることがあった(1期の沙英の妹、智花に関する話題など)。*4
アニメ以外でぱっと思い出せるのは、ライトノベルの「キノの旅」だろうか。キノの旅は1話完結型の短編がいくつも連なってできている作品であるが、そこでは登場人物や時間軸がバラバラに取り上げられる。主人公であるキノの話だけに絞っても、短編の時間軸は統一されていない。例えば、短編を読みながら、「師匠と暮らしている時の話なのか、フルートを入手する前の話なのか、シズと会った前の話なのか…」といったようなことを脳内の片隅で一瞬推測しながら、「あ、ここでフルートを出すということはあの話以降の内容なのね」と脳内で一瞬で整理しながら短編のひとつひとつを読み進めたものだった。キノの旅は1話完結型の短編集であるために、このようなことを考えなくても内容把握はできるのだけど、それでもこのことを意識しながら脳内年表に照らし合わせて読み進めていくのも面白いと感じていた。
他のライトノベルだと、「ラグナロク」が思い出された。長期シリーズ化した作品だと追加で外伝が出されることがあり、その外伝内で本編作品から見た過去の話や、主人公が活躍してる裏で発生していた事件といったようなエピソードが存在した。ラグナロクも例外ではなく、各エピソードを読み始める度に、このエピソードは本編の中でどの位置にあるのかを考えて読んでいた。
時間軸を崩すという表現や過去の回想といったエピソードを挿入するという手法は特段珍しい方法ではないし、アニメやラノベに限らず古今東西の様々な作品でこのような演出が行われているものと思われる。逆に、そのような古今東西の作品の影響が現在のアニメやラノベに反映されているとも言えるのではないか。まぁ、この辺に関しては自分の教養の無さのせいで断定は難しいのだけど…。
とはいえ、冒頭に挙げたハヤテのごとく! Cutiesの11話や12話のように、1話の中で時間軸が細かく前後するというちょっと作品は思い出すことができない。しかし、テレビアニメ作品を制作する人らだって誰にも理解されないようなストーリーを世に出すとは考えにくいし、ある程度は理解されるための配慮を行なうだろうから、理解する気持ちがあれば作品のストーリー等を理解することは困難ではないのではないか?
今のアニメ制作者は「視聴者のイメージ補完」に頼れない? - 演出の体験とネガコメ
ハヤテのごとく! Cutiesや空の境界での反応を見てみると、時系列を崩されるという演出に対して率直に受け入れられない趣旨のコメントが散見された。このような演出は他の作品を見聞きした人であればいつかは出会う演出であり、徐々に慣れていけるような表現方法なのではないだろうか。しかし、作品を見た後で脳内でストーリーを整理して咀嚼する作業というのは不慣れな人には混乱の元になりやすいのも、また事実であろう。
ここでふと脳内に浮かんだのは、「時間軸を崩されると理解が困難な人が増えているのではないか?」という仮説だった。正確には、「時間軸を崩されると理解が困難な人でも様々なアニメを見るようになった」と言うべきか。また「その上、気軽・手軽にコメント等を残せるようになったために、そういう層の意見がニコニコ動画上で可視化された」という面もありそうだ。
この文章を書いている途中で、「serial experiments lainのシリーズ構成や脚本を手掛けた小中千昭氏のインタビューを思い出した。このインタビューはフランスで発行されているアジア映画専門誌 HKによるもので、serial experiments lainの企画全体に関することから、アニメ内のシーンの狙いや解説が詳細に語られている。そこで、アニメ serial experiments lainにおける時制について話が及んだ。
HK 作品の中で時制のスイッチ(切り替え)が随所にみられ、過去と現在が混在して描かれる。現在なのかと思って見ていると、実は過去だったとか、そういう描写が随所に出てきますね。これもアニメならではの演出のように感じられました。
小中 実写でやったら、もっと根性がいりますよね。というより、もうちょっと工夫しないとうまく表現できないんです。それがアニメだと、多少の省略や飛躍をしても、見る人の方で(イメージを)補完してくれる。
HK INTERVIEW
ここで小中氏は、アニメでは視聴者のイメージ・脳内補完の力によって実写とは違う表現を行なうことができるということを語っている。
この作品は今から15年前の1998年に制作されたものであるが、当時はネット上で意見を投稿する機会は今よりはずっとずっと少なかったし、アニメを見ている人も今よりは多くなかっただろう。それから15年経った今、様々な人がネットで当たり前のようにアニメを見、当たり前のようにコメントを残すようになった。
ネットが普及して、その上にアニメも普及したというのはいいことなのだけど、その結果、小中氏の言う「アニメだと、多少の省略や飛躍をしても、見る人の方で(イメージを)補完してくれる」という前提が崩れかかっているのではと思わずにいられない。本記事で指した時間軸を崩すという手法を用いたことで戸惑いのコメントが可視化されたのも、この視聴者の方でイメージ補完してくれるはずだという前提が崩れてしまっているためと思えてしまうのだ。
この視聴者の戸惑いというのが、単に「様々な作品を体験していから」という理由だけで引き起こされるのであれば「じゃあ、様々な作品を見ましょう!」と言えば済むのだろう。しかし、これから様々な作品を見始めて様々な演出を体験しようとした(初心者的な)人がいた時に、初めて体験した表現がネガティブなコメントと一緒に体験してしまったら、その表現は良くないものとして刷り込まれてしまうのかなと想像してしまう。この想像はあまりにも悲観的だけど、ハヤテのごとく! Cutiesの演出とその反応を目の当たりにしてしまうと、どうしてもいい印象は抱けない。
もし、アニメの製作者がこのような反応を恐れて表現の幅を狭めてしまうことがあるのだとしたら、それは長い目で見ると損失に当たるんじゃないのかな?突飛な表現を抑えた無難な作品ばかりになるのは避けて欲しいと願っている。
まとめ
ハヤテのごとく! Cutiesや空の境界に投稿されたコメントにおける時間軸を崩した演出に対する否定的な反応を見て、今まで様々な作品で行われてきた演出や手法が一部の視聴者に率直に受け入れられていないようだと捉えつつ、小中氏の言葉である「アニメだと、多少の省略や飛躍をしても、見る人の方で(イメージを)補完してくれる」という前提が成立していないじゃないか?と考えた。
そして、突飛な表現・演出に対するネガティブな意見が演出に対する評価として固定化されて、その結果初めてその表現・演出に触れた人の考えまで固定化させてしまうようなことがあれば、それは悲しいことだと思う。そして、このようなネガティブな意見を恐れるあまり、製作者が冒険を恐れてしまうのもあってほしくないとも思う。初めて出会う演出を、ネガコメと共に体験するのは悲しいものがあるのだけど、しかし、これは誰でも参加できるインターネットの宿命なのだろう。
こんなアニメに関しては素人である自分がこんなことを考えるくらいなので、アニメ制作に携わる方々は、この視聴者とアニメの距離感みたいなものについてずっと深く長く議論してきてるだろう。それでも、素人なりに(長くはなってしまったけど)ない知恵絞り出して書いてみたのでありました。
*1:コメントの抽出 - ニコニコ動画やニコニココメントリーダー
でコメントを抽出して、それを検索にかけて一気に抽出…というのを試みたものの、どちらのサイトでもうまくコメントが取得できなかった・取得できたものの一部しか抽出できなかったために、ニコニコ動画に投稿された動画から直接手作業でコピペした。めんどかった(小並感)
*2:これも劇場版「空の境界」と名して放送されるようなのでややこしい
*3:空の境界公式サイトの放送情報内では「劇場版「空の境界」全七章のうち、式と幹也の物語を中心に、時系列順に放送。」と記述されているが、厳密な時系列順ではないために、混乱をやや加速させている面もある。<「放送情報 | 空の境界」
*4:下記のWikipediaのリンクを参照して頂けると、放送順で見ると時間軸がバラバラになっているのがお分かり頂けると思う。「各話リスト - ひだまりスケッチ (アニメ) - Wikipedia」
- 1995 http://b.hatena.ne.jp/
- 972 http://www.hatena.ne.jp/
- 801 http://t.co/LtDwhwOr63
- 636 http://twipple.jp/
- 572 http://b.hatena.ne.jp/hotentry
- 440 http://www-ig-opensocial.googleusercontent.com/gadgets/ifr?exp_rpc_js=1&exp_track_js=1&url=http://www.hatena.ne.jp/tools/gadget/bookmark/bookmark_gadget.xml&container=ig&view=default&lang=ja&country=US&sanitize=0&v=be492d2e094fbd26&parent=ht
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