触れたのは歯止めが効かなくなってしまったから、疾しい気持ちは恐らく無かった。
俺が想像してたよりも傷はずっと酷くて、余程な目にあった事は容易に想像出来た。

「やだ…っん、あっや…っ」

吐息と一緒に零れる拒絶の言葉には一切耳を傾ける事なく、行為だけに集中する。
掴まれた腕は微かに震えていて、恐怖を与えてしまっているのは分かっていたが今更引き返せなかった。

「はっあ、あっ…やあぁっ…!」

胸元をまさぐって手の中に収まっているモノを扱き上げると、甲高い声と共に達して。
衝撃が有り過ぎたのか健永はそのまま水中で意識を飛ばしてしまった。
くたりと前のめりになる身体を抱き寄せて、伏せられた瞼に唇を落として風呂から上がる。
誰にも見られない様に部屋へと戻れば既に床の準備がされていて、寝かせてやって目覚めるのを待った。

「…ん、‥っ!?」

意外にも目を覚ますのは早かったが、直ぐに先程の事を思い出したらしく身を引かれてしまって。
手を伸ばせば威嚇でもするかの様に勢いのまま払い退けられ、どうしていいのか分からなくなった。

「近寄んな…もう、俺に触んな‥」

肩を震わせながら涙目で睨まれて、それでも俺の心は折れるという事を知らなかった。
この上なく脅えているのは伝わってくる、逃れられなかったのも身体が竦んだからだったとは思うのだが。
健永の身体は俺の指に素直に反応した、人間ってゆうものは恐怖を忘れないなら快感も忘れないらしい。
勿論、当時の健永がその行為に感じていたなんてとてもじゃないが思えないけれど。

「なんで?気持ちよさそうだったじゃん」
「‥っ!?」

でも先程は確かに刺激に身体を震わせて身悶えていた、絶頂を迎えたのが何よりの証拠。
かぁと頬を染める姿に加虐心を煽られて、一瞬のスキをついて手首を掴み布団へと沈める。
乱れた浴衣から覗く紅潮したままの肌も濡れた髪も…全てが誘っているようにしか見えなかった。

「やっ…はなせ、っやだ、」
「離したら逃げるだろ?」
「、んなの、当たり前…っ」

全部を言う前に唇を塞いでしまった、触れるだけではなく半開きだったそこに舌を差し入れて。
脚を割り開き中心部を刺激する、浴衣を羽織らせただけだったので無防備なそこは直ぐに反応し始める。
押さえ付けた腕が暴れていたが、俺にとってはそんなの拒んでいる内にも入らないものだった。
こんな事するために来たはずじゃなかったはずなのに、思っていた以上に俺は健永を欲していたらしい。

「っは、ぁ…んっ、ぁ…」
「嫌がってる割には身体は素直だよな」
「ふ、ぁ…っあ‥やめっ、や、だぁっ…」

火照った身体は何処に触れても過剰なくらいの反応が返ってくる、拒絶の言葉を吐いても本心とは思えない程。
一度果てたにも関わらず前のモノは少し扱いただけでも勃ち上がって、手を止める事は出来なかった。
肩を掴まれ爪を立てられて一瞬痛みが走った、痛みは感じなくする事も出来たが敢えてそうしなかった。
全部の感覚をきちんと覚えておきたかったから、少しの間しか一緒にいられない分一分一秒無駄にしたくなくて。

「ゃぁ‥んっ、あ、たかっ、し…っ」
「、ッ‥」

目を瞑っても雫が頬を伝っていて、不意に意識が遠退いていくのを感じた。
俺は一体何をしようとしていたんだろうか、こんな事するために来た訳じゃないのに…。
掠擦れた声で名を呼ばれて、相手が自分だと認識されている事に喜びを感じてなんかいけないのに。
一瞬力を抜いた隙に健永は俺の下から抜け出して、上手く力が入らないのか少し離れた所で蹲ってしまった。

「…ごめん、」

これじゃあ死んだ健永の父親と何も変わらない、寧ろ確信犯な分その時より酷いかもしれない。
ただ、こんな感情を抱いたの自体久し振り過ぎてどうしていいか分からなかったんだ。
一緒にいられる時間は後少しなのにも関わらず、どうなりたいという具体的なものもなくて。
ただ傍にいれたら、最初はそう思っていたはずなのに時間が過ぎていく内に抑えが効かなくなっていた。
触れたいと思ったのは事実だがこんな形ではなくもっと別の形…健永がきちんと受け入れてくれるような。
…そんなの無理に決まってるのに。
そんなの俺の妄想以外何物でもない、健永にとって俺なんて何でもない…寧ろ邪魔な存在。
今ので完全に嫌われただろう…傍に寄るなとまで言われてしまったのだから。
震える身体にそっと手を伸ばしたけれど、これ以上触れる事は躊躇われて俺は身を翻した。







back