初めてだった、何かに興味を持ったのは。
別の案件で下界に降りた時に健永には出会った、その大きな瞳には光を全く映していなくて…何故か興味が沸いた。
それから俺は、彼をずっと見ていた。
飽きっぽい俺が何かに執着したのは初めての事で、仲間は皆驚いていた。

「死神の禁じて、分かってるよね?」
「お前俺の事馬鹿にしてんの?」

数年しても彼を観察する事を止めない俺に不信感を抱いたらしく、同じ種族のユータが聞いてきた。
俺だってだてに生きてない、禁止事項くらいは知ってる。

「それなら、いいけど…」

煮え切らない様子だったが、それ以上聞かれる事は無かった。
死神の禁じては、大きくは二つだけ…勿論細かく言えばキリが無い程存在する。
だがその二つの内のどちらを犯しても…それは死神の死を意味する。
死神にだって、寿命はある。
その寿命が終わる頃、下界に下りて仕事をして…その人間の残りの寿命を貰う。
だから若いのを相手にすれがする程仕事は少ない、持ってる寿命が長いから。
老人ばっかり相手の奴はやたらとサイクルが短いから俺の事を羨ましがるけれど、若いって事はそれだけ未練があるって事。
泣かれるのなんて当り前…それでも少しでも悔いを残さない様に死ねるように俺は早めに告げてやる。
それが俺に出来る最大限の同情だから。
そしてそんな俺の気配りを完全に無視する様にやってきたのが、次の仕事。
まだ寿命はあるはずなのに…そう思いながら記された名前を見て、愕然とした。

「…せんが、けんと」

同姓同名じゃない事は、住所を見れば分かる。
彼の事は調べて全てを知っていた、俺が出会う前どんな人生を送っていたのかも。
敢えて俺にやらせる辺りが、大魔王なりの優しさなんだろうか…それとも。

「タカシ」

部屋を出ると待ち構えていたかの様に立っていたので、思わず睨み付けてしまった。
遣り切れない気持ちだけが先行して、無表情のままの相手に構う事なく歩き出す。

「代わってやろうか?」
「…自分でカタつける」

誰かにされるくらいなら自分で殺る、そうじゃないと俺に未練が残る気がしたから。
眺めてるだけで良かったのに、なんて綺麗事で、俺は既に禁じてを侵してしまっていたんだ…。

「そっか。でも、」
「分かってる、馬鹿な事なんてしねぇから」

何を云わんとしてるかなんて容易に想像出来た、多分相手ももう気付いていたんだろうに。
それ以上は何も聞かれず俺も何も話さなかった…それから許可が下りて直ぐに下界へと向かった。
直ぐ近くで見た彼の瞳は、相変わらず光を写してはいなくて。
上から見ていた以上に荒んでしまっているのに少し戸惑ったが、何時もの様に淡々と喋った。
人間に触れる事も、心を詠み取れる事を伝える事も禁止事項の一つ。
此処にいる間に幾つ罪を犯すんだろうか、なんて考えると笑えてきて。
どうしたら彼が心を開いてくれるだろう…と寝室から出て一人になってから、ぼんやりと考えた。







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