一層の事切り離してくれた方がまだ良かったかもしれない、どうしてそこまで一緒にいなければならないのか。
神様を恨んだ、どうしてこんな仕打ちを受けさせるのか。
暫くしてその理由は分かった、だがそれは一瞬の喜びだった。

「ニカ、顔怖いんだけど」
「…あ?元からだよ」

玉森が眉を顰めて言うもんだから喧嘩越しにそう言って、俺は鏡を向き直す。
デビューってものが決まるとそれなりにやる事もある、忙しいと言えば忙しい。
俺なんてまだ他のメンバーよりは楽な方だけど、気持ちが焦っている方が他の事を考えなくて済んだ。
だってちょっと周りを見渡すだけでも千賀の姿は視界に入る、両方が気を遣っていたとしても。
最低限度の絡みは用意されているし、元々必要以上に一緒にいた俺達だ。
表向きはちょっとは大人になったって事にしておいて貰っているけれど、この不自然さは拭い切れない。
普通に考えて俺が手を差し伸べてやるべきなんだろうが、出来なかった。
きっと手を差し伸べるだけで済まないのが分かっていたから、そんな事をす れば又千賀を困らせてしまう。
アイツは俺が傍に居てくれるだけでいいと言っていたが…俺が傍にいる事がアイツを苦しめているんじゃないかって。
そんな風に考えてはいけないのかもしれないが、だったらどうして千賀に引き攣った様な笑みが増えたのか。
無理矢理笑わないとならない笑顔、それを以前よりもずっと多く見るようになった気がする。
思い切って、何事もなかったかの様に接してみようかとも思った。
でもそんな事して…その後余計にぎこちなくなったら困るから結局前にも後ろにも進めない状況だった。

「にか」
「…なに、宏光」

帰り支度をのろのろとしていると北山に呼び止められて、手を止める事はせずに生返事を返す。
気持ちが宙ぶらりんだからって仕事は真面目にしているつもりで、でも一度楽屋に戻ってしまうと張り詰めた糸は切れてしまう。
こんなに尾を引くなんて正直予定外だった…自分が考えている以上に俺は千賀に掘れていたらしい。
周りはその事に付いては触れてこない、千賀が何か言ったのかもしれないがそれが有難い事には変わりなかった。

「お前、千賀の事好き?」
「…は?何だよ、いきなり」
「いいから、答えろよ」

振り返ってみると既に楽屋には俺と北山しかおらず、相手からは妙な気迫さえ感じられて。
普段だったら聞かれたって答えたりはしなかった、時と場合には寄るが殆どが交わすばかりで。

「好きだよ…当り前じゃん、そんなの」

恥ずかしいって言うのが一番だが、言わなくても千賀は分かってくれているだろうというのが念頭にあったから。
本人以外にはこんなに簡単に言えるのに…どうしてもっと付き合っている時に言ってやれなかったんだろう。
終わってから後悔したって本当に遅いけれど、あの時もっとこうしてやれば良かったとか思う事はしばしば。
俺って最後まで自分勝手だったんだなって改めて思ったりして、もうどうにもならないけれど。
そんなちょっと、と言うかかなり凹んでいる時に背後から露骨過ぎる溜息が聞こえてきて。
犯人が誰なのか分かっているだけに流石に苛々を隠す事は出来ず、眉を顰めて今度は身体ごと振り向いた。

「…なんだよ」
「じゃあ、それちゃんと言ってやれよ、アイツに。じゃないといつまで経っても前に進めねーぞ、お前ら」

千賀はお前から言ってくれんの待ってんじゃねーのかよ、そう威張って言われてムカつかなかった訳じゃない。
知った様な口を聞くなって、そう言いそうになって思わずその言葉が咽喉に引っ掛かった。
あの時、写真を撮られた時も俺が大丈夫だって言って迫ったんだ…千賀は外だから危険だって言ったのに。
もっと千賀の言葉に耳を傾けてやって、そしてもっと大事にしてやればこんな風にはならなかったかもしれない。
もう終わったんだから仕方ないって、ずっとそう思うようにしてきたけれど実はまだ終わってないのかもしれない。
どちらかが決めた事でもなく不可抗力によって俺達はバラバラになっただけで、それも見た目だけ。

「っ…、宏光、ありがと」

だとしたらこんな事してる場合じゃない、俺は荷物を掴んで直ぐ様楽屋を飛び出して。
何処か寂し気に見えたその背中を呼び止めた。







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