如何なる環境でも仕事は待ってくれない、そして俺と二階堂の距離も変わらない。
決して近付くことのない距離を嘲笑うかの様に、仕事では常に一緒だった。
別れる=友達に戻る。
なんて都合のいい事不器用な俺達に出来るはずもなく、見えない溝は確かに存在していた。
お互いが一歩引いた感じでどこか余所余所しくなってしまって、でも仕事の時はそれを出さない様にして。
笑う事が辛いなんて、初めてだった。
北山くんも藤ヶ谷くんも心配してくれたけれど、こればかりはどうにもならない。
この道を選んだは俺自身だから、二階堂には結果的には押し付けた事になってしまったが。
それでも何処かへ消える事なく傍に居てくれた事には、凄く感謝していた。
そして、思いもしなかった話が舞い込んで来たのは別れてから三ヶ月程が経った頃だった。

突拍子も無く告げられた、デビュー話。

皆喜んでいた、俺だって嬉しかった。
事務所に入ったからにはずっとそれを目指していたし、夢が叶ったと言っても過言ではない。
望みを捨てた訳では無かったけれど無理かもしれないと思った事もあったし、だから本当に売れしかった。
あの瞬間だけは嫌な事全部忘れられた…落ち着けば又直ぐに現実に引き戻されたけれど。
一度落ち着いてしまうと、物事を自分の事ではないかの様に冷静に見る事が出来る。
だから思ったんだ…このために俺達を切り捨てる事もせず、離す事もしなかったのかと。
結局は事務所の手の中で踊らされているだけ、俺達は駒の一つでしかないのだから当然だろうが。
切り捨てられなかっただけ良かったと思った方がいい、そう思わざるを得なかった。

「健永」
「…なに、藤ヶ谷くん」

撮影終わりに呼び止められて俺は歩を止めた、最近は比較的忙しい日が続いていた。
俺なんかよりもっと忙しいメンバーもいるから、俺がこんな事言ったら怒られるかもしれないけれど。
色々あって疲れてはいた…だって疲れていてもやっぱり考えてしまうから。

「ニカとは、あれから」
「別に普通だよ。…だって俺達、友達だもん」

強がりとか痩せ我慢とか、俺が男じゃなくてメンバーじゃなかったらしなくて良かったのかもしれない。
だけど何も知らなかった時にはもう戻れない、自分達が大事な時期だって事くらい分かっているけれど。
だったらもう隠し続けるしかないだろう、何事も無かった顔して笑い合うしかもう出来ない。
そうしなきゃ、別れた意味がない。

「ニカはきっと、好きだよ…お前の事」
「…ありがと、」

気休めは逆に辛いだけ、笑って御礼を言ったつもりだけど笑えて無かったみたいで相手の顔が歪んだ。
心配してくれる気持ちは嬉しいけれど、どうにもならない事だから時間が経つのを待つしかない。
二階堂が俺の事なんて何とも思わなくなっても、きっと俺は二階堂の事好きなんだろうけど。
何れ想いは風化するかもしれない…そうあって欲しくないって心の何処かでは、思っていたんだろうが。

「千賀、」

だからその直ぐ後二階堂に呼び止められた時は、本当に吃驚した。







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