友達と恋人の違いって、一体何だろうか。
身体を重ねるか重ねないかの違いなんて、そんな単純な事じゃない。
相手に対して抱く感情が全く違う…友達の事を愛しいなんて思ったりはしないし。
アイツの事をいつからそんな風に思うようになったのなんか、もう覚えてないくらい昔の事に感じる。
さして前の事でもないはずなのに…今更千賀を友達として見るなんて到底無理な話だった。
何でもない振りをして今まで通り振舞えば、全部が元通りになったのかもしれない。
千賀はそれでもいいから俺の傍に居たいと言った…俺もそれを受け入れてやるべきなんだろう。
だが自分を押さえ込める自信なんて無かった俺は、必然的に避けるしか無かった。

「ニカ」

あの日から多分十日程経った頃だろうか、不意に藤ヶ谷に呼び止められたのは。
今まで何も言って来なかったのに、どうせ千賀から話を聞いて一言文句でも言いたくなったのだろう。
北山が一緒だと言いたい事が言えないから…藤ヶ谷は鬱陶しいくらいに千賀の事を可愛がっていたし。
俺も鬱憤は溜まっていたから普通に受け答え出来る状況じゃなかったが、止めた足を再び動かすのも躊躇われて。

「何だよ、太輔…」
「お前さ、まだ健永の事好き?」
「…は?」

不機嫌丸出しで問い掛ければ意味不明な事を聞かれて、眉を顰めずにはいられなかった。
一体何を思ってそんな事を聞くのだろう、聞かなくても見れば分かるだろうに。
もし俺がもう千賀の事の事を何とも思って無かったら、こんな風に擦れたりなんかしない。
いつも通りに笑いあって絡んで、馬鹿みたいに空き時間も過ごしているはず。
それが出来ないのは俺が千賀を友達として見れないから…我儘以外の何物でもない事くらい分かってるけど。
簡単に割り切れる程軽い気持ちじゃないんだ、相手の気持ちを知っているからこそその想いは強まるばかりだった。

「…訳わかんねぇ事言ってんじゃねーよ」
「好きなんだったら、諦めんなよ」

捨て台詞にも似た言葉だけを置いてその場を去ろうとすると、返ってきたのは貶しでも慰めでも無くて。
まさかの同調とも取れる言葉に歩を止めて顔だけ振り向けば、相手は笑っていた。
引き攣った笑顔で。

「今はさ、離れるしかないのかもれないけどきっと又来ると思うから。お互いの気持ち、受け入れられる日が」

どうしてそんな辛そうな顔をするんだろうか、これは飽く迄も俺と千賀の問題なのに。
部外者を巻き込もうとしたのは俺、だが深入りを望んだ訳ではなく第三者が入れば何かが変わるかもしれないと思ったんだ。
そんな単純じゃない事くらい分かっていたはずなのに、そうしてでも千賀の真意を確かめたかった。
結果相手の気持ちは分かったけれど自分の望む未来にはならなかった…だったらもう知りたくなかった。
俺から徐々に気持ちが離れていく様なんて、近くで見たくなかった。

「俺は、ずっと好きだと思う、アイツの事。でも千賀は…」
「きっとその時は健永だって好きだよ、まだお前の事」

千賀は言った、俺の事が好きだって。
でもそれがいつまでも続くなんて思ってない、寧ろ思えない。
押さえ付ける事でした愛情を表現出来ない俺が、近くで見守ってやる事なんて出来るはずがないだろう。
だがそんな事知らない藤ヶ谷は余り見せない笑みを浮かべて言ったんだ、何処にそんな自信があるのかは分からないが。
その自信の理由をこの時に聞いていれば又、違う未来も待っていたのかもしれない。







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