好きにしていいって言われて、本当はむちゃくちゃにしてやりたかった。
許して、って言われるくらいまで追い詰めて…そしてその言葉を撤回させたかった。
でも出来る訳が無かったんだ、だって愛しているから。

「一緒に寝ても、いい‥?」
「…あぁ」

もうその台詞を聞きたくなくて、俺はベッドへと潜り込んだ。
すると千賀が躊躇いがちに聞いてきたから、一瞬迷ったけれど迎えいれてやった。
疑って掛かっている訳ではなかったけれど、千賀の言葉を100%信じている訳じゃなかった。
何処かに嘘が混じっているんじゃないかって、それを必死で探そうとしていて。
でも見つける事なんて出来なかった、相手の顔に探さないでって書いてあったから。
しかし同じベッドで眠って、身体を重ねなかったのなんて一体いつ振りだろう。
ひょっとしたら付き合う前まで遡らなければならないかもしれない…流石にそれは言い過ぎか。
でもそれくらい俺は千賀を求めていたんだ、千賀だって恐らくは求めてくれていたはず。

「‥、ん…にか」

全く眠れない俺に対して千賀は暫くすると寝息をたて始めて、おまけに寝言で俺の名を呼ぶ始末。
本当に別れを決めたカップルなのか…と思われるかもしれないが別に嫌いになって別れた訳じゃないし。
寧ろお互いの気持ちは通じ合っているのに、世間はそれを認めてはくれないだけ。
別に認めて欲しいなんて思わない、俺達はただ一緒に居たかっただけなのにそれさえも奪おうとするなんて。
元は俺の不注意から始まった事だけに千賀を責める権利は俺にはない、でも一言くらいは相談して欲しかった。
一人じゃどうにもならない事も二人だったら…ひょっとしたらこんな結末にはならずに済んだかもしれない。
事務所に楯突いてどうなるかなんて言うまでもない、だから千賀は一人で何とかしようと思ったのだろう。
俺の性格を、分かっていたから。
何度か目を覚ましながらも数時間は眠って、浅い目覚めると腕の中にあったはずの温もりは消えていた。
眠気なんて一瞬に吹き飛んで反射的に起き上がると、眩しいくらいの朝日が目に染みた。
何も言わずに先に帰ったのか…と思っていると奥のドアが開いて髪を拭きながら千賀が姿を現した。

「あ…おはよ、」

どうやらシャワーを浴びていたらしく、心成しか寂しそうな笑顔を向けられて返答に困ってしまう。
笑い掛けてくれる千賀はいつもと変わりないのに、歯車はほんの些細な一瞬で狂ってしまうんだ。
ベッドから起き上がって黙ったまま千賀に近付く、引き寄せてキスしようとさえ思ったがそれは叶わなかった。

「ニカ」
「…わかってる、ごめん」

俺達はもう恋人じゃない…ただの、友達。
友達同士でこんな事はしない、寧ろしてはいけない。
直ぐに気持ちを切り替える事なんて出来ないだろう、相手の気持ちが自分にあると分かっているのだったら尚更。
それでも現実を受け入れて前に進まなければならない…時間は止まってくれないのだ。
傍にいると又変な気を起こしてしまいそうで、背を向けようとすると今度は千賀に引き寄せられて。

「俺は、ニカの事大好きだよ。今も、そしてこれからも…」

怖いくらい綺麗な笑顔を向ける相手に掛ける言葉なんて見つからず、俺はただその身を抱き締める事しか出来なかった。







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