「俺達がいたら邪魔だろうから帰るけど、ちゃんと話しろよ」

そう言い残して北山くんと藤ヶ谷くんは帰ってしまって、俺はベッドへと腰を下ろした。
あれから俺達は直ぐに楽屋を後にした、誰か来ても困るし此処で騒ぎを起こしても面倒だからって。
そして連れて来られたのは何とビジネスホテル、代金は二人持ちだから有難いと言えば有難いかもしれない。
ホテルなんてどうかと思うけど、何時までも楽屋にはいられなかったし家とかだったら近所迷惑になるかもしれない。
奇声を発したり取っ組み合いの喧嘩をする訳じゃないが、何が無いとも限らないし。
平日だし駅から遠い所を選んでくれたのでそんなに人は泊まっていないはず、何とか話をつけなければ…。
ちらっと二階堂を見やれば俺に背を向けたままベッドに座っていて、重々しい雰囲気だけが流れていた。
二人っきりにされるのは本当言うと恐かった、自分が押し負けてしまいそうな気がして。
だって二階堂の事は好きなんだから、嫌だって強く言われたら本心を話してしまうかもしれない。
嘘を吐き通せたら良かったのだが性格上それは難しかったらしい、とは言え今更引き返しも出来ないんだ。

「いつから、そんな風に思ってたんだよ…」

何から切り出せばいいのかと悩んでいる間に二階堂が先に口を開いて、顔を上げればこちらを見つめていた。
自分の言ってる事が矛盾している事くらい己が一番よく分かっていた、だがそれを無理にでも押し通すしか無かった。
皆を、二階堂を守るためには。

「…別れたい、って、こと‥?」

聞き返しても返答は無かった、だが目を逸らされる事も無く真っ直ぐ俺を見つめたままで。
どうしようかと思ったけれど目を見たままでは流石に無理そうだったから、俺は笑って顔を二階堂から背けた。

「きっかけは飽く迄も事務所に言われたからだよ、それまではそんな事考えもしなかった。ニカの事大好きだったから」

そして事実を述べる、その発言だけは本当に心からの言葉だった。
そう…俺は二階堂が大好きだった。
勿論今も大好きだけど、寧ろ愛してるって言った方がきっと正しい。
ずっと一緒に居たいって思ってたんだ、まさかこんな形で壊される事になるなんて夢にも思わなかったが。
責任を二階堂一人に押し付けるつもりは無かった、俺がもっとしっかりしていればこんな事にはならなかったのだから。

「さっきも言ったけど、気持ちは変わってないよ。あの日部屋で言った事は全部嘘」

軽い口調で言い放つと眉を顰められて、それでも俺は笑っているしか無かった。
一生懸命お芝居して騙そうとしたのに無駄だった、こんな事だったら最初から全部話すべきだったのか。
でも言ったら二階堂は責任を感じてしまうだろうし、これからは気を付けると言って押し切られそうだし。
だから99%の真実で1%の嘘を隠すんだ、見破られる事は絶対にない。
だって俺が述べている事の殆どが本当の事だから、ただほんの少し、ほんの少しが偽りなだけ。
その部分が一番大切だって事は分かっているけど…それを晒したら俺はきっと二階堂から離れられないから。

「そんなんで、俺が納得するとでも思ってんのかよ…」

何が相手を駆り立てたのかは分からないけれど、急に声色が変わったかと思えば姿が見えて。
言葉を発する前に肩を押されそのままベッドに押し付けられた、視界には勿論天井と二階堂。
だがこうなるだろう事はホテルに来てしまった時点で予想出来ていたから、そう動じる事は無かった。

「…好きにして、いいよ」

そう言って笑い俺は目を伏せた、この状況での抵抗が無意味だと言う事くらい分かっていたから。







back