言いたい事だけを巻くし立てた後、藤ヶ谷に痛い所を突かれて思わず眉を顰めた。
今回の件については完全に俺の落ち度だ、それは認めるを得ない。
だが事実とは言え部外者は引っ込んでて欲しい、これは俺と千賀の問題だから。
二人の力を借りようとしたのは俺だけど原因が分かった今はもう口出ししないで欲しい、理由が理由なだけに。
自分が間違った事を言っているつもりはなかったし、事務所の人間だってずっと見張っている訳じゃない。
見た目だけ普通を装えば大丈夫だって、俺は事の重大さに気付かず簡単に考えすぎていたのだろう。
不意に千賀が溜め息を吐き出して、あの時同様に冷めた瞳を俺に向けたからそう思った。

「俺はもう、やり直すつもりなんてないから」

又か、そう思わずにはいられなかった。
瞳を向けられた瞬間から自然と予感めいたものはあった、そして期待は見事に裏切られる事も無かった。
北山と藤ヶ谷は驚いている様だったけど、千賀の余りの変貌振りに。
コイツはいつもふわふわしているし危なっかしいし、だからこそ藤ヶ谷とかは無駄にちょっかいを出したがる。
でも千賀だって列記とした男だし、こうゆう面だってある。
普段と違いすぎる分困惑は避けられないが、一度目にしてしまえば特に気にはならない。

「もう騙されねぇよ、どうせまた嘘だろ」

一度吐かれた嘘、まさか二度吐かれるとは思ってなかったが。
先程の涙が本心だと考えるのならばとんだ茶番劇だ、こんなの。
しかも一度使った手が二度も通じるはずがない、幾ら俺が馬鹿だと言ってもそれくらいは見破れた。
千賀だってそれくらい分かるだろうに…だが敢えて同じ手を使った事にはそこまで深入りはしなかった。

「お前が俺の事嫌ってないなんて事わかって、」
「ニカの事はまだ好き、好きだよ。大好きだよ。でも…」

もう疲れたんだ、そう言った悲しそうに笑う千賀は本当に参っている様に見えた。
演技だって分かっていても言葉に詰まってしまう、自分の所為でこんな事を言わせているのかと思うと。
しかも気持ちを認められた上で別れたいなんて言われたら、どう反論していいのか分からない。
好きなのにどうして別れる必要あるんだって怒鳴れば、きっと千賀はそれが俺達にとって最良の選択だからって言うんだ。
でもそれは事務所に言われた事で、心の底から思っているかどうかなんて定かではない。
もしそれが本心だと分かれば…俺だって覚悟を決めなければならないかもしれないし。

「隠さなきゃいけない恋愛なんて、楽しくないじゃん?ただ辛いだけでさ」
「そんなの…最初から分かってただろーが、それに普通にしてれば気付かれるわけ、」
「でも、バレちゃったしさ」

それを言われると辛い、自分の所為だからこそ。
千賀が何を言おうと俺に別れる気は更々ないが、間違いなく周りは俺を責めるだろうし。
無理矢理引き離される可能性だってある、この場には二人も証人がいるのだから。

「いつかこうなる事は分かってたんだからさ…いい機会だと思うんだよね。だからもう」
「千賀」

開き直ったかの様によく喋る千賀を止めたのは、暫く黙っていた北山で。

「‥なに、北山くん」
「それが、お前の本心なのか?」

何を言うのだろうと内心かなり動揺してしていたが、それは真意を確かめるもので。
俺はただ静かに、拳を握り締めたまま千賀の答えを待った。







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