別れなければならない理由を知りたかったのは確か、だがそれは思ってもいないものだった。
蹲る千賀を見てまず思ったのは、どうして隣にいるのが自分ではないのかという事。
俺が恐らく千賀と一番付き合いが長く隣にいた期間も長い、でも今千賀が頼っているのは俺じゃない。
それが許せなかったのと同時に、自分の腑甲斐なさにどうしようもない遣る瀬なさを感じた。
好きじゃなくなったと言う言葉を、全く信じなかった訳ではないんだ。
己が如何に自分勝手だと言う事は分かっていたから、愛想を尽かされたって仕方ないと思う自分もいて。
それでも千賀を手放す気なんて更々無かった、もう独占欲は相当なものだったから。
ゆっくりと話し出す様を俺達三人は黙って見ていた、急かしたらかえって話しにくいだろうし。
とは言え見つめられて余計に困ってしまったらしく俯いてしまって、千賀が口を開いたのは暫くしてからだった。

「写真を撮った人は俺達だって知らなかったみたいで…事務所の人は嵌められたって…」

まだ涙声だったため聞き取りにくい箇所もあったが、言いたい事を理解するには十分だった。
事務所が絡んでいる事にはまず驚かざるを得なかったが、千賀な話にはそれ以上驚くもので。

「つかそれってさ、事務所が馬鹿なんじゃねーの?」
「そうだって、まぁ…そんな写真いきなり見せられたら吃驚もするだろうけど」

もう黙って入れないと言った感じに北山が口を挟み、藤ヶ谷の痛い視線が一瞬こちらに向けられた気がした。
まさか写真を取られていたなんて夢にも思わなかったんだ、一応人通りは確認したつもりだったし。
普段二人になる事なんて珍しくないし別にその辺りを彷徨っているくらいだったら特に何も思われなかっただろう。
結局は俺の行動が軽率だったと言う事だろう、まさか誰も見ていないだろうと思っていたんだ。

「別れろって言ったのは、向こうだろ?それよりもうそーゆう関係だって事前提で話し進められた訳だ」
「…最初は、誤魔化そうって思ったけど…向こうはネガ持ってるし、写真は一枚じゃなかったから…」

呼び出された時の恐怖が蘇ってきたのか、肩を震わせる千賀に思わず眉を寄せた。
千賀が一人呼び出された日があった、そしてその後俺は別れを告げられたんだ。
どうしてあの時に気付いてやれなかったんだろう…微妙な変化は感じていたがこの事態は流石に予測出来なかった。
それよりも何故千賀だけに言ったりしたんだ、俺だって列記とした当事者のはずなのに。
どうせ俺より千賀の方が言う事を効くとでも思ったんだ、俺はあまり事務所から良い様には思われていないみたいだったし。
だったら一言相談してくれたっていいだろう、俺には言うなと言われたのかもしれないが。
何にせよ思惑通り事が運んで、さぞ事務所の人間は安心しているだろうに。

「もし雑誌になんて載ったら…このグループ自体駄目になるって思って、俺、そんなの嫌だって…」
「だから、言われるがまま別れようって…?」
「だって仕方ないじゃんっ!いやだったけど、っ…そうするしか‥ッ」

藤ヶ谷の言葉に大声を上げると我慢していたものが噴出してしまったのか、又泣き出してしまって。
隣でオロオロする藤ヶ谷を見かねて北山が席を立って千賀を宥める、その様には年上の威厳を感じた。
俺の不注意により写真を撮られ千賀は別れろと上から命令された、そしてそれを受け入れるしかなかった。
話を纏めればそんな所だろう…噛み砕く必要なんて無いくらいの茶番劇に隠した拳を握り締める。
俺の不注意で結果的に千賀を苦しめる羽目になって、その事実さえ話して貰えない俺は。
一体何のために千賀の傍にいたのだろうか。
その辺りの事はまだ問い詰める必要がありそうだが、概要が知れただけでも今は十分だった。
それに千賀の気持ちが俺から離れた訳じゃないって分かった事は…俺としては一番の大きな収穫だった。
事務所の言葉に素直に応じるつもりなんて更々無かった俺は、だったらまだやり直せるって思ったから。
この時は思いもしなかったんだろう、それが如何に安易過ぎる考えであるか、なんて。







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