俺は咄嗟に逃げ道を探した、でもそれは思いもしない人物によって塞がれてしまって。
目の前で繰り広げられる会話を黙って聞いている事しか、俺には出来なかった。
自分達の関係に気付かれていた事に激しく動揺して、でも二階堂は誤魔化すどころか認めてしまったんだ。
二人の関係を。
別れたんだから隠す必要はないと言ったが、何処か様子が可笑しかったんだ。
無駄に一緒に時を過ごしてきた訳じゃない…でもそれが何なのか分かる前に北山くんが俺に矛先を向けてしまった。

「健永、お前はどうなんだよ」
「っ…ぇ、‥なに、が?」
「ニカの言った事、本当なのかって」

話を聞いていなかった訳じゃない、寧ろ何を言うんだと真剣に聞き入っていたつもりで。
所詮それはつもりで、思考は別の方向へといってしまっていたから急に話を振られても応えられないのは当然の事。
三人の視線が一斉に俺に集まって、居心地の悪さから俯いてはみたが逃げられないのは分かっていて。
どうせ真実なんて分かるはずがないと高を括って、俺は口を開いた。

「…本当だよ。俺が、ニカを振った…」
「どうして?」
「ぇ、どうしてって…」
「だってお前等あんなに仲良かったじゃん、それがどうして急に別れ話になるんだよ。可笑しいだろ、そんなの」

二階堂にも別れを告げた時似た様な事を言われた、どうして急にって。
だってそんな簡単に割り切れる訳がなかった、じわじわと距離を置いたのではいつまでも進めない気がして。
だからこそ後腐れがないように開き直ったんだ、それが返って怪しまれる事くらいは予期していた。

「…そんなの俺の勝手じゃん、ゆっくり距離を取らなきゃいけない理由でもあんの?」

俺は余り嘘が上手くない、吐いたって二階堂にはいつも直ぐに見破られていて。
今回の事も納得してないんじゃないかってずっと思っていた…ううん、そう期待していたんだ。
もしずっと俺の事を想ってくれていたら、熱りが覚めれば又元の関係に戻れるかもしれないって。
自分から振っておいて馬鹿げた妄想だとは思うけれど、それは俺の本心では無かったし。
今はそんな下らない事を考えている場合ではないのに…願わずにはいられなかった。

「第一俺達が別れようが付き合おうが北山くんや藤ヶ谷くんには関係ないじゃん、放っておいてよっ」

付入る隙を与えたらお終い、それを分かっているから俺は懸命に凛とした態度を貫いた。
本当は直ぐにでも本当の事を話してしまいたかった、何とか事務所を誤魔化す策はないかと縋りたかった。
今でもニカの事が好きだって、そう皆の前で大声で言ってしまいたかった。
そんな事したら俺や二階堂だけじゃなくて皆にも確実に迷惑が掛かる…そんな事は絶対に駄目だ。
苦しむのは俺だけでいい、永遠の別れになる訳ではないし友人としてだったらずっと傍にいられる。
それでいい、それで十分だ。
そうとでも思わなければ心が折れてしまいそうだった、もう別の意味で必死さが滲み出ていたのではないだろうか。
そして…まるでそれを汲み取ったかの様にその人はゆっくりと口を開いた。

「何か、言われたんだろ?‥事務所から」
「っ!??」

シーンとした空気を一瞬で壊したのは北山くんで、まさかの言葉につい勢いのままに顔を上げてしまって。
ヤッてしまったと直ぐに思ったけれど、既に遅かった。
北山くんはやっぱりって顔をしていて、藤ヶ谷くんは心底驚いているみたいで。
ちなみに二階堂の方は…怖くて見る事が出来なかった。







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