「「生活保護は働くよりラク」という神話」につづき、再び書籍「生活保護」より印象的な主張をご紹介。
ブラック企業が生活保護バッシングを生む
「生活保護」はブラック企業問題に取り組むPOSSEの今野さんが書かれた一冊。労働相談の中で目にしたケースを中心に、生活保護の恐ろしい実態が切り取られています。
なかでも得心がいった主張が「ブラック企業が生活保護バッシングを生む」というもの。
正社員であっても、年功賃金や終身雇用を与えない「ブラック企業」が社会問題となっている。企業が十分な企業福祉を行わないのであれば、彼らも当然ワーキングプアとならざるを得ない。
企業年金や住宅、家族手当など支払われるはずもない。賃金にしても、最低賃金ぎりぎりの会社も多い。たびたび例に挙げている外食大手企業では、月給に80時間分(過労死水準)の残業代が入って、19万4500円となっている。
(中略)福祉の不在ゆえに、働いていても貧しいのだ。だからこそ、多くの人は「自分たちが苦しいから」と、生活保護の引き下げを求める声に同調してしまう。生保受給者はずるをしている、甘えているといって、結局は、「福祉の切り下げ」を主張してしまうのだ。
貧困に陥っている(けれども身を削って頑張っている)人たちが、自己責任では耐えきれなくなった貧困者を叩く、という図式が描き出せます。汚い言葉でいえば、「弱者の妬み」といってよいでしょう。自分たちの首を自分たちで締めている、とも。
興味深いことに、この構造はブラック企業のなかでも見られると著者は語ります。
数年でうつ病など、体を壊して「自己都合退職」するような職場でも、実際に残っている者がいある。かれらは「脱落」した元同僚を批判する。ともすれば、「ブラック経営者」と同じ論理で、彼らをさげすむのである。
いわく、「あいつは甘い」「どんなに厳しくてもついてこれない人間はクズだ」「会社の利益にならあない人間は生きている価値がない」等々。
…めまいがします。こういう状況は、一刻も早く打開すべきです。
まず行うべきは、日本の異常な労働に対して意義を唱えることでしょう。
日本の「働く」は壊れています。一人ひとりが「自己責任」を引き取りすぎず、勇気を持って「会社のせい」にしなければなりません。だって、経営者でもなく、ただの社員じゃないですか、あなた。何様ですか。
関連記事:職場に責任感など感じるな。あなたがいなくても仕事は回る
より倫理的なアプローチでいえば、「ぼくらは一人ひとり、根本的に「弱者」であること」を理解すべきでしょう。
「オレは自分の力だけで生きていける!自立しているんだ!」というのは、大変傲慢な態度です。そんなわけないじゃないですか。色々な存在の力を借りて、あなたは生きているんですよ。極論、山ごもりして誰の手も借りず生きていたとしても、「自然」の力を借りてしまいます。「自分の力だけで生きていく」というのは、原理的に不可能なのです。
「働いて生計を立てている」という意味で「自立」しているとしても、その「自立」がいつ崩れさり、「依存状態」に陥るかは、誰にも予測できません。かくいうぼくも、今は自立していますが、事故や病気、天災にあったらすぐに「弱者」になってしまいます。そのくらい、人は脆いものなのです。
そういう「根本的な弱さ」を肌感覚で理解できれば、「あいつらはずるい!甘えている!」という嫉妬を抱くこともなくなるでしょう。「彼らはぼくらであり、ぼくらは彼らである」という、大げさにいえば「人類皆兄弟」的な境地です。セーフティネットの維持は、自分のためだと考えられるようになるのです。
「弱者が弱者を叩く」のは実に不毛な状況で、誰も救われないので、早くこれを転換させたいですね…。これからの世の中を作るヒントに溢れた一冊ですので、ぜひ手に取ってみてください。