時節を少し遡っての引用です。「日本経済がバブル崩壊後の長い低迷を抜け出し、強じんさを増しながら新たな成長軌道に入ろうとしている。雇用回復や所得増加で個人消費が勢いづき、企業の設備投資とかみあってきた。景気回復のすそ野は全国各地に広がり、デフレ脱却も近づいている……留意すべきは、今の景気回復が日銀の量的緩和など非常手段の下でようやく実現した点だ……」
実はこれ、今から約7年前、第一次安倍政権誕生半年前の2006年3月27日付け日本経済新聞朝刊1面トップの記事(大見出し『日本経済「強さ」増し成長へ』)の引用です。表現の仕方を少し変えれば、現在でもそのまま使えそうですね。
ちなみに、この日曜(14日)の日経新聞朝刊トップ記事は、『景気 動き出す歯車』と題し、「景気が浮揚してきた。円安・株高を好感して消費者は財布のヒモを緩め、企業は生産を増やし始めた」の一文で始まっています。
FPの手になる『アベノミクスと資産運用』なんていう連載も出てきて、またかとうんざりしています。「心のバブル」は脈々と生き続けていました。
アベノミクスは「異次元」の経済・金融政策という話ですが、筆者にはそのようには見えません。似通った事象は、筆者のそう長くはない経験でも過去20年ほどの間に、少なくとも3度ぐらいはあったような気がします。
やや変則的な言い方をすると、お風呂の古い残り湯をやたらに熱している印象。当初から空疎さを感じています。「異次元」と豪語するくらいですから、がんがん焚き付けるわけで、湯温(株価や地価など)だけは当然上がりますが、そこに浸かっていれば身体が暖まるかというとそうでもない。暖かさや熱を感じられるのは、元々土地や株式やゴルフ会員権などをたくさん持っていらっしゃる、いわゆる富裕層と呼ばれる方々でしょう。あまり、あるいはまったく持っていない人がこの高揚感についていこうとすると、たぶん借金をするしかない。また借金地獄に陥る人が増えそうな気がします。
政権の目標通りに物価が上がってきて、消費税率も予定通り切り上がると、恵まれた人は収入も増えるのかもしれませんが、そうはならない人々が確実に居ます。例えば年金は、過去の物価下落調整分は仕方がないとして、今後、物価や現役世代の収入が2%上がっても、1.1%しか増えないことになっています。
もっと辛いのは生活保護を受けている世帯でしょう。生活扶助分が8月から10%も引き下げられるというのですから……。これって一種の苛めではないかと思います。
現役世代の方々でも中小・零細で働く人、非正規の方々はどうでしょう。格差の拡大や生活困窮がさらに極まった時の具体的な対策は、何か考えられているのでしょうか。まさか、上層が儲かれば下層にもおこぼれが式のトリクルダウンなんていう古めかしい与太話じゃないでしょうね。
最近読んだジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(ハヤカワ文庫)から、主人公ジョージ・スマイリーの科白の一節を最後に。「政治家の手にかかると、どんな大計画も古い悲惨をあたらしい形にする以外、なにひとつ成就しない」