コラム    
中田徹
スポーツナビ

VVV本田「僕らが総合的に相手を上回っていた」
〜オランダからの叫び〜

2009年12月5日(土)

■本田の勝ち越しPKにスタジアムは熱狂

ビレムII戦で1ゴール、1アシストの活躍を見せたVVVの本田
ビレムII戦で1ゴール、1アシストの活躍を見せたVVVの本田【写真は共同】

 VVV対ビレムIIの戦いは1−対1のまま大詰めを迎えていた。89分、カラブロが倒されてVVVはPKを得た。転がるボールを拾い上げた本田圭佑がペナルティースポットへと歩いていく。チームのオーダーではPKキッカーは本田と決まっている。しかしカラブロがストライカーの本能で「俺が蹴っていいか?」と尋ねてきた。本田がそれを拒絶するとカラブロはすぐに観念し、「お前に任せた」と大事なPKを任せた。

 スタジアムの視線が本田1人に集中する。「あの瞬間」と本田は振り返る。
「スタジアムのみんなや選手からの期待というものが含まれた瞬間だった。その瞬間のすべてを肌で感じることができたので、それが少し自分をナーバスな気にもさせた。でも、『おれならやれる』と言い聞かせながらしっかりとボールを置いて、後ろへ助走した感じでした」

 こうして決めた本田の勝ち越しPKにスタジアムが熱狂した。ロスタイムに入ると、ファン・ダイク監督は今季初めて本田をベンチに下げてスタンディングオベーションと時間稼ぎの2つを狙った。
「事故が怖い。それだけが不安だった。みんなのモチベーション、ボールへの寄せというのはまったく問題なかったので崩される心配はなかったけど、あのピッチ、時間帯、雰囲気の中、何か滑るとか、事故があってもおかしくない状況だった。やはり油断できなかったので、最後までハラハラしてました」

 3分のロスタイムが過ぎ、タイムアップの笛が鳴ると、本田もベンチでハイファイブを繰り返し、さらにピッチで仲間と抱き合った。順位を争うチームとの直接対決の勝利は「“勝ち点6”に匹敵する」とよく言われるが、ビレムII、RKC、ヘラクレスとの大事な3連戦の初戦をVVVは見事に2−1で飾ったのだった。

■「VVVはポジティブな驚き」と敵将も評価

 前節、VVVはAZに0−2と完敗していた。スコアはともかく、内容がVVVらしくなく、試合後のファン・ダイク監督は珍しく選手をかばう発言をせず、不機嫌だった。
 VVVらしさとは何か。それは4−3−3システムを貫き、正確なポジショニングでピッチを有効に使い、ボールポゼッションを高め、両ウイングを生かし、ボールを奪われたら敵陣ですぐにプレスを掛けて奪い返し、ショートカウンターで相手を脅かすことだ。VVVは勝てそうな試合も勝ち切れず、引き分けばかりが続いていたが、それでも「VVVは今季のポジティブな驚き」(VVV戦目前のAZのロナルト・クーマン監督)などとそのサッカーコンテンツは高い評価を得ていた。自分たちのサッカーを迷いなく貫いたからこそ、前々節のスパルタ戦のような5−0の大勝劇をVVVは演じたのである。

 しかしAZ戦のVVVは精彩を欠いたまま90分間を終えた。そのふがいなさはファン・ダイク監督のみならず、選手たちも感じていたはずで、本田もビレムII戦までの準備に個人としてもチームとしても手ごたえを感じていた。
 試合開始直後から本田は相手と激しい競り合いを見せ、時にゴール裏の看板に体をぶつけたほど。チームとしても、コンビネーションプレーに加えて、縦やサイドへのシンプルなロングパスを組み合わせ、クロスも数多くペナルティーエリア内へ入れて、ダイナミックなサッカーを具現化した。その成果がビレムII戦の逆転勝利だったのだ。
「今日までの自分たちの準備は非常に気迫溢れるものだった。監督中心に今日の試合がどれだけ重要なのかを1人1人がきっちりと認識して、試合に挑んでいたと思う。それが相手にすきを与えなかったこと、再三チャンスを作れた理由だったと思う」

 気迫のサッカーをピッチの上で表現した1人が左サイドバックのフルーレンだった。「今日はニルス(フルーレン)が(レギュラーを)外れる前のプレーより良く、それこそ気迫溢れるプレーが多かった。レギュラーを1回落ちて、自分が何をしないといけないのか見つめ直したプレーでした。守備だけじゃなく、攻撃にもどんどん参加していく。そういうプレーが今日のニルスはすごく多かった。あそこは今日のターニングポイントだった」

■勝利を呼び込んだ1週間の準備

 アウアサルは81分、本田からの横パスから同点となるドリブルシュートを決めて、スタジアムの重苦しい雰囲気を解放した。「あれは僕のパスがいいというよりは、やはり決めた選手のクオリティー」と本田はアウアサルをたたえる。前半は右サイドでスハーケンと何度かコンビネーションを見せ、後半は左サイドでアハハウイやビアナとの連係を取り続けた本田の布石が、アウアサルへの一見単純な横パスによる崩しのプレーへとつながっていた。
「僕は相手DFを見ながらいつもプレーしています。何が嫌かなと」と本田。「真ん中でボールをもらうのは非常に厳しかった。後半は左に流れた方が相手も嫌がっている雰囲気だった。あと、ルベンと一緒にプレーするより、ジオゴ(ビアナ)とプレーする方が感覚が合う。ジオゴはタイミングよくおれのことを見るし、おれがドリブルをしていたらジオゴがいいところへ走り込む。そのすべてのおとりがアディル(アウアサル)のフリーシーンを作り出したと思う。仕掛けると相手もおれに引き付けられる。仕掛けると見せかけて何気ないパスを真ん中に入れると、ああいうふうにポカーンとスポットが空いてくる」

 アウアサルはスパルタ戦に続き今季2得点目。この日はけがでいなかったもののファン・デッセルもスパルタ戦で珍しくゴールした。こうしたバイプレイヤー(脇役)たちのゴールは、カラブロや本田といった最前線の選手たちにスペースを与える役目も帯びた。
「彼らが決めることによって僕らへのマークが緩くなる。シーズン開幕直後は僕らが決めていて、その後相手によって簡単に決められなくなった。今度はファン・デッセルが決めて、アディル(アウアサル)が決めた。後ろから上がってくる選手が限りなくフリーに近い。そこは非常にチャンス。そして今度は(相手が)そこを抑えないといけないと、次は僕らにスペースができる。そこは僕らの見せどころですよね。常にバランスだと思う。今日はいろいろな意味で僕らが総合的に相手を上回っていたと思います。今週の準備は非常にチームとして個人として成功したと思う」
 1週間の準備の濃さが伝わってきた、そんなVVVの勝利だった。

<了>

中田徹

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。メキシコW杯を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。2002年、06年、10年ワールドカップ、ユーロ2004、08をはじめ、オランダリーグのコラムなどをリポートしている

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