経済【ネットろんだん】金子勇さん死去 再浮上する「ウィニー」の革新性と功罪2013.7.12 14:30

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【ネットろんだん】
金子勇さん死去 再浮上する「ウィニー」の革新性と功罪

2013.7.12 14:30
控訴審で逆転無罪となり弁護団とともに会見する金子勇さん(中央)=平成21年10月、大阪地裁

控訴審で逆転無罪となり弁護団とともに会見する金子勇さん(中央)=平成21年10月、大阪地裁

 ファイル共有ソフト「ウィニー」開発者として知られる東大情報基盤センター特任講師、金子勇さんが6日夜、急性心筋梗塞のため42歳の若さで亡くなった。ウィニーの公開によって著作権法違反幇助(ほうじょ)罪に問われながら、最高裁で無罪を勝ち取った金子さん。天才プログラマーの突然の死は、ネットの世界に衝撃を与えている。

                 

 「暇なんで(中略)2chネラー向きのファイル共有ソフトの一つを作ってみるわ」

 平成14年4月1日、巨大掲示板2ちゃんねるに書き込まれたこの一言から、ウィニー劇場の幕が開いた。約1カ月後に公開されたのは、利用者のパソコン同士を匿名性を保ったままつなぎ、直接データをやりとりするソフト。先の書き込み番号が47番だったことから開発者は「47氏」と呼ばれ、その技術力と発想力が称賛された。それが金子さんだった。

 だが、一時は数十万人が利用したとされるウィニーは、違法ファイル流通の温床となり、ウイルスに感染した利用者のパソコンからの情報流出も相次いだ。ウィニーでゲームや映画を違法流通させた利用者が有罪となり、金子さん自身も公開から2年後の16年5月、逮捕された。

 ◆“包丁”開発者の責任

 「この人を絶賛してるやつ一杯いるけど、この人のせいで人生棒に振ったひともたくさんいるよな」

 「この人のせいじゃないだろ。包丁使って通り魔殺人があったとしても、悪いのは通り魔犯であって、包丁を作った職人さんじゃない」

 「包丁は99%普通に使われる。ウィニーは99%違法行為に使われる」

 「アメリカでは銃は100%人を傷つけるために使われるが、銃の製造者自体は犯罪者ではない」

 これは、金子さんの死を受けてネット上で交わされた議論の一部だ。

 金子さんは「ソフト開発が罪となると技術者の大きな足かせとなる」として徹底的に争い、無罪を確定させた。ただ、長い裁判に伴い、ウィニーの開発は完全に止まった。

 「日本のインターネットの父」といわれる慶応義塾大の村井純教授(58)=情報工学=は、本紙の取材に「ひょっとしたらウィニーがビジネスの基盤に育っていた未来があったかもしれない。ただただ残念だ」とかみしめるように話す。

 P2Pと呼ばれるネットワーク技術を使い、大規模な利用にも耐えて作動するウィニーは革新的で、学術研究としても優れていたという。

 「ウィニーはソフト的にも社会的にも改善すべき点はあったが、世界で5本の指に入る大ソフトだった。金子さんは脂が乗っていた時期に改善に携われず、歯がゆかったろう」

 ◆プログラムは自己表現

 金子さんはウィニー開発以前から、個人サイトで数多くの実験プログラムを公開していた。

 自著「ウィニーの技術」(アスキー)では「キーボードを抱えたまま就寝、起きてまたキーボードに向かう。そのため電動式の起き上がりベッドを常用している」と暮らしぶりを明かしている。考えついたアイデアをすぐにプログラムして生活していたのだという。「私にとって、プログラムは表現手段」とも。金子さんには、プログラムは言葉を話すように、人生の一部だったのだろう。

 6月8日に更新された個人サイトに、新たなプログラムが加わることはもうない。一つの才能が失われた意味はあまりに大きい。(城)

                

【用語解説】「ウィニー」事件 

 ファイル共有ソフト「ウィニー」公開によりネット上での違法コピーを手助けしたとして、金子勇さんが平成16年、著作権法違反の幇助(ほうじょ)容疑で京都府警に逮捕された事件。1審は有罪、2審は「違法使用をすすめていない」として逆転無罪。最高裁は23年12月、「著作権侵害を手助けしようという故意はなかった」として検察の上告を棄却し、金子さんの無罪が確定した。

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