アシアナ機事故:機内にシューター展開 乗務員7人気絶 責任者が証言
毎日新聞 2013年07月09日 東京朝刊
【サンフランシスコ堀山明子】米西部カリフォルニア州のサンフランシスコ国際空港で起きたアシアナ航空機の着陸失敗事故で、最後まで機内に残り乗客を救出した客室乗務員の責任者、イ・ユンヘさん(40)が7日、サンフランシスコ市内のホテルで韓国メディアと毎日新聞など一部外国メディアのインタビューに応じた。機体が炎上するまでの脱出劇について「消火器で火を食い止めながら、時間との闘いだった」と振り返った。
6日午前、衝撃と同時に機体が左右に揺れ、機体右側前方の脱出口のシューターが機内に広がった。「一般的な緊急着陸ではない」とすぐに感じた。機体が完全に停止した後、機長に乗客を避難させるか聞くと「待て」と指示された。一度は乗客に落ち着いて席にとどまるよう促した。
しかし、機内は悲鳴が響き、すでに動揺が広がっていた。「緊急脱出」。機長の新たな指示が聞こえ、脱出の機内放送をかけた。
シューターは外へ広がるよう設計されており、その前提で訓練を重ねてきた。機内ではじけたのを見たのは初めてだった。12人の乗務員のうち7人が動転して気を失い、残る5人と機長ら操縦室の4人が脱出を誘導した。
後方にいる乗客の救出を機長に頼み、イさんは前方から2番目の左側脱出口付近で、足をけがした女性客を救助しようとした。その瞬間、機体中央部で火が上がり、同時にそれまで開いていなかった右側のシューターが機内に展開。後輩の乗務員の体がシューターに挟まれ、身動きできなくなった。
「火がシューターに燃え移ったら大惨事になる」。イさんは消火器を取り出し、副機長とともに消火作業に当たった。脱出した副機長もナイフを手に機体に戻り、シューターを切り裂いて乗務員を救助した。
乗客が残されていないことを確認し、最後に脱出した。その時、尾てい骨にひびが入った。運ばれた病院で、乗客に死者がいることを知った。「機体が傾いていて、最後尾まで行けない状況だった。尾翼がないのは、気づかなかった」。イさんは重苦しい表情で、後方を確認した時の状況を語った。