バルサルタン:臨床試験疑惑 元社員、大阪市大調査も拒否 データ解析担当
毎日新聞 2013年07月12日 東京夕刊
降圧剤バルサルタンに血圧を下げる以外の効果もあるとした臨床試験疑惑で、京都府立医大の試験に「大阪市立大」の肩書で加わり、統計解析していた販売元製薬会社ノバルティスファーマの社員(既に退職)が、過去に非常勤講師を務めた大阪市大の調査にも応じていないことが分かった。大阪市大は、疑惑が表面化した5月以降の調査で、元社員に大学での勤務実態がほとんどなかったことや、大学としては試験に一切関わっていなかったことを確認している。元社員は府立医大の調査への協力も拒んでおり、真相究明の大きな障害となっている。
大阪市大によると、元社員には2002年から今年3月まで1年ごとの更新で非常勤講師を委嘱していた。この間、講義は1〜2回程度しかなく、勤務実態も報酬もなかったが、大学側は「統計解析のアドバイスができるので担当してもらっていた」と説明する。
大阪市大は、バルサルタンを巡る5大学の臨床試験に、元社員が関与していたことが明らかになったことを受けて調査を開始。大学によると、ノ社に協力を要請したが、「既に退職している。居場所を把握していない」などの理由で取り次いでもらえなかったという。その後も大学は、元社員と連絡が取れず、聴取のめどは立っていない。
ノ社の調査によると、元社員は一連の臨床試験が行われた02〜07年、循環器マーケティング部門の学術企画グループに所属していた。医師に学術情報を提供して支援する部署だった。研究チームにはノ社の別の社員が「統計の専門家」として紹介していた。
◇元教授、人心掌握狙う?
一方、府立医大の調査では、試験を実施した研究チームとノ社との関係も明らかになった。研究を主導した松原弘明元教授(56)は03年4月に関西医科大から府立医大に赴任。今回の臨床試験はその3カ月後に企画された。11日の会見で伏木信次・府立医大副学長は「松原元教授は外から来たばかりで、(循環器内科)全体をまとめたい意向があった。一方でノバルティス側も大規模臨床研究をする意向があり、(思惑が)一致した」と説明した。
府立医大の調査関係者は「研究者が企業に依存した結果、答案作成者が自分で採点するような構図となった。科学的な臨床試験ではなくビジネス試験。企業の企図と、論文で名誉を得たいという研究者の野心の結合の産物だ」と厳しく批判している。【八田浩輔、河内敏康】