政府・自民:尖閣受け「海兵隊」構想浮上-離島防衛で日米共同訓練も
7月11日(ブルームバーグ):6月後半に米カリフォルニア州で実施された米軍と自衛隊などによる離島奪還訓練「ドーン・ブリッツ(夜明けの電撃戦」。陸、海、空の3自衛隊から約1000人が参加したが、東アジア情勢が緊迫化すればこうしたスキルがいつか実際の離島防衛に必要になる可能性も否定できない。
「島しょ防衛を念頭に緊急事態における初動対処、事態の推移に応じた迅速な増援、海洋からの強襲着上陸による離島奪回等を可能とするため、自衛隊に『海兵隊的機能』を付与する」-。自民党国防部会と安全保障調査会が5月末にまとめた提言は、政府が年内に策定する新たな「防衛計画の大綱」で尖閣諸島などの離島防衛を充実強化するよう求めた。
昨年9月に当時の野田佳彦政権が尖閣諸島の魚釣島などの国有化に踏み切って以来、日本領海内への中国公船の侵入など尖閣周辺で中国側の活動が活発化している。離島奪還訓練への参加と自民党安保調査会の提言は尖閣をめぐる中国とのこうした緊張が背景にある。
プリンストン大学のアーロン・フライドバーグ教授は、日本にはこれまでなかった中国への恐怖感がある、と指摘する。日本は、中国の指導部がどのような軍事力を増強しているかを、またそれが脅威となっていることを認識しているという。
政府が年末にまとめる新たな「防衛計画の大綱」は長期的な日本の防衛力整備の方向性を示す重要文書。連立政権のパートナーで防衛力の増強には伝統的に慎重姿勢を示してきた公明党との調整が控えているほか厳しい財政事情もあり、安倍晋三政権の大きな政策課題の一つとなりそうだ。
自民党安保調査会などの提言はこのほか、北朝鮮のミサイル開発を念頭に置いた敵基地攻撃能力の保持について検討することや自衛隊の人員・装備・予算を大幅に拡充することも求めている。
中国中国の軍事費は米国に次ぐ世界第2位。3月の発表では今年の軍事費は約7406億元(約1208億ドル)まで増える。これに対し、今年度の日本の防衛費は安倍政権の誕生で11年ぶりに増額されたがそれでも4兆6800億円(462億ドル)だ。
自民党で提言取りまとめの中心となった岩屋毅安保調査会長は6月のインタビューで、今後の防衛力整備について「中国の軍事力の増強は着実に進んでいるので、ある程度それに対応できるような防衛力はしっかりと充実させておく必要がある」と強調する。中国の軍事力とのバランスが崩れると「日米同盟の抑止力は相対的に低下する」との危機感があるという。
日本政府も7月9日に公表した防衛白書で、尖閣周辺での中国の動向について「不測の事態を招きかねない危険な行動を伴うものがみられ、極めて遺憾であり、中国は国際的な規範の共有・順守が求められる」と指摘。自民党は参院選の公約で自衛隊の人員・装備の強化を明記した。
ドーン・ブリッツただ、岩屋氏は今回の提言の狙いについて「陸、海、空のほかに海兵隊をつくれといっているわけではなくて、そういう能力を持った部隊をしっかり錬成した方がいいと言っている」と説明。具体的には、日本と台湾との間に点在する島々を防衛するために2002年に創設された陸上自衛隊の西部方面普通科連隊などの充実強化が選択肢になるとの見通しを示している。
実際、日本政府は今年度予算で水陸両用車4両の参考品購入費として25億円を計上したほか、米海兵隊が利用しているオスプレイのようなティルト・ローター機の調査研究費も計上。島しょ防衛態勢の充実に動き始めている。
米軍のジョン J. ブロードメドウ准将は日米共同訓練後に行った海兵隊基地キャンプ・ペンドルトンでのインタビューで、日本は隊員数人を船に乗せて水陸両用作戦だと言っているだけのレベルよりかなり先を行っている、指摘する。
ブロードメドウ准将は日本は統合運用についても学んでいるという。ドーン・ブリッツ作戦の期間中、日本の陸と海の隊員が船上のコマンドセンターでひざを突き合わせて座っていた。同准将はこうしたやり方は、この上なくいいことだと振り返った。
公明防衛大綱に向けては公明党も参院選後に独自の提言をまとめる予定だが、防衛力の増強については自民党安保調査会などの提言よりも慎重な対応を求める可能性がある。
山口那津男代表は6月のインタビューで、自衛隊の海兵隊的能力の保持について「米軍の持っているような能力を想定することではない。近隣諸国に過大な脅威を与えないよう、あくまで防衛の範囲内で保持するという範囲でどこまで許されるかというところは今後、慎重な検討が必要だ」との見解を示す。
敵基地攻撃能力についても「慎重な多方面からの議論が必要だ」とクギを刺した。
秋元千明・英国王立防衛安全保障研究所アジア本部長は「海兵隊的なスタイルの部隊を持つことが、上陸作戦を展開できるということを意味するものではない。適切な装備を持たなければいけない。ただ、コストがかかるため単純に解決できる問題ではない」と指摘。日本には水陸両用作戦で米海兵隊と緊密に連携することでうまく展開できる部隊を持つことがより現実的かもしれないとの考えも示している。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 広川高史 thirokawa@bloomberg.net;東京 Isabel Reynolds ireynolds1@bloomberg.net;サンフランシスコ Aki Ito aito16@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net;Rosalind Mathieson rmathieson3@bloomberg.net
更新日時: 2013/07/11 08:19 JST