そのスピードで

去年のクリスマスイブに判明した、飯島愛の不可解な死について、
その知人が、余計なことをくちばしったり、沈黙したりしている。
なかでもアダルトビデオの監督で、ビデオ会社の経営者、
村西とおるがかたる逸話が興味ぶかい。
十五、六年まえに飯島は、村西とともに新潟のテレビ番組に出演。

一回分の収録が終了しますと休憩タイムとなります。

約一時間ほどの時間ですが
セクシー系の女性の共演者たちは一団になって囲みをつくり、
飲んだり喰べたりお喋べりをしたりして過ごしておりました。

愛ちゃんだけはその輪の中に入らず、
男性スタッフや男の出演者の居る場所で休憩時間を過ごしていました。

男性スタッフや男の共演者に笑顔で話しかけ、
自分が買ってきたジュースやお菓しを配ったり、
先輩の広告代理店のお偉いさんの肩をモんだりと
サービスに努めていました。
『帝王村西とおるの今日もナイスですね。』

共演のむすめたちからは、さぞかし悪口をいわれたろう。
なにあのコ。
たいしてかわいくもないのに、ごますりばっかり！
でも背後からきこえるささやきなど、飯島は屁ともおもわない。
いまの状況からぬけだしたいのは、あんたたちも一緒でしょ。
そこでおしゃべりしてて、いいしごとがもらえるとおもう？
つくりわらいの肩もみが功を奏したのかどうか、
たしかにかの女は、どんぞこからはいあがった。
過去のビデオ出演などの脛のきずも、
ゴーストライターによる「自伝」である『プラトニック・セックス』で、
おもしろおかしく商品化。
ただ大久保松恵（実名）は、
あまりに熱心にわが身をうりすぎたかもしれない。
自己同一性の在庫ぎれ。
現時点で死因についての報道はなきにひとしいが、
オレは、緩慢で消極的な自殺だとおもう。
睡眠導入剤やアルコールなどを併用、過剰摂取して中毒をおこしたのでは。
根拠はまったくない。
東京でひとりぐらしをおくる三十男の直感だ。
一方、飯島愛にだしぬかれたむすめのおおくはいま、
平穏でそれなりにしあわせな生活をおくる。





大石あやかは、平成十四年に登場したアダルトビデオ女優。
二か月のあいだに、
KUKIから『記憶』『性的モノローグ』という二本の出演作が発売され、
それきり彗星のようにきえた。
オレは、ヤフーオークションでかった『記憶』だけをもっている。
フランス映画からまよいこんだような、かぎりなく異質な個性。
ある種の運動選手的能力が必要なポルノの世界にそぐわない、
自重すらささえられずに、くだけそうな痩身。
色素を調合しわすれた肌は、白磁よりもしろい。
絹織物がてあらい愛撫にたえられるはずもなく、にえたぎりあからむ。
AV制作者は、世間しらずのわがままむすめを料理するのはお手のものだが、
あやかだけはもてあました。
性器をみて「おおきすぎるから無理」と真顔でおこり、男優を狼狽させる。
それでもあやかはポルノ職人のえじきとなり、
品のよいことばにしづらいあれこれの行為にまきこまれる。
しかし大のおとこが、フランス人形で不器用なままごとをする光景は、
苦笑せずにみることはできない。
飯島愛にとってAV出演は立身出世の第一歩だったが、
大石あやかのそれは、偶発的な事故。
ふたつの失敗作をのこし、流れ星は神話になる。



二年まえ、あやかはふたたびおおやけの場にあらわれる。
クラシックのピアニストとして。
「大石あやか」は、本当は■■■■という名で、
演奏家をめざす音楽大学の院生だったのだ。
競技会や演奏会への出場が、ウェブ上の掲示板で取り沙汰される。
うすぎたないポルノから、みやびなるクラシック音楽へ。
なんという栄転、そしてなんというおろかさ。
人間の記憶容量をあまくみつもりすぎだ。
とりすました音楽関係者は、うわさに敏感に反応する。
演奏会への出演がとりけされ、
競技会の受賞者の一覧からなまえをけされる。
あやかは、どれだけみづからの過去をのろったろう。
対抗措置なのかどうかしらないが、
あらゆるウェブページから、かの女の画像が削除されはじめる。
篠山紀信による写真までけされた。
再編集されたDVDは販売停止。
しかし法律をたてに圧力をかけたところで、
ひとの記憶をかきかえることはできない。
ピアニストとして世にでたいけれど、むかしのことは一切詮索しないでくれ？
そんな道理がとおるわけがない。
かの女にとって「大石あやか」は、おぞましい屈辱。
なかば無法地帯である『２ちゃんねる』で、
きょうもあやかのことを熱くかたりあうおとこたちは、
一度のあやまちをしつこくせめる、地獄の羅卒にしかおもえないだろう。
でも、ちがう。
あやか、きみがおかした唯一の罪は、うつくしすぎたこと。
だからきっとそれは、ほこるべき、かがやかしい記憶なんだ。
きみの前途が、どんなものであるにせよ。

---

ちなみに、事実関係にまつわる内容は、
『２ちゃんねる』の「AV女優」板に投稿された情報を参考にした。
ウェブ上で入手した二枚の画像をのせたが、
出所はうえが『G-AREA』、したが『XCITY』だとおもわれる。
ただ、どちらも説明なしに情報がけされているので、確認できない。


［二月二十六日追記］
今月四日、飯島愛の死因は「肺炎」だと、警視庁渋谷署が発表した。
とはいえ、経済的に時間的に余裕のある人間、
しかも三十六歳の女性が、肺炎であっさり亡くなるものだろうか？
しらべると肺炎の分類や、その影響は複雑で、警視庁の説明は要領をえない。
死因は、もっと複合的なものだろう。
したがって、一月にかいた記事はそのままにしておく。

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タグ: 女優  娼婦 

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ふむ、たしかに肉食獣がリピーターになりそうな類ではなさそうで(　･∀･)ｱﾋｬ
この世のどこかでこの名前を検索するってのは、それだけのインパクトをこの方が世に残したっていう証左なんでしょうなぁと。

欧米だったらどうなんだろうなぁ…と。あっちでもそーいう履歴のピアニストさんは消されちゃうんでしょうかね。そーいう履歴を踏んだからこそできる表現、というのもありそうな気がするのに。

いらっしゃいませ。
堂々の検索順位一位でしたでしょう？

皆さん朝昼晩と、「大石あやか」で検索して来られます。
新情報なんてあるわけないのに。
とっくに消えた流れ星を、探さずにいられないみたいです。

＞欧米だったらどうなんだろうなぁ…と。
＞あっちでもそーいう履歴のピアニストさんは消されちゃうんでしょうかね。
＞そーいう履歴を踏んだからこそできる表現、というのもありそうな気がするのに。

その発想はなかったな〜。
よく考えてみれば、ポルノもクラシック音楽も、
どちらも西洋起源の文化ですね。
人前で美を表現する活動に違いないわけで、
やっていることは大差ないかもしれません。
まあ西洋では、住み分けはキチンとなされてそうですけど。
やっぱり大石あやかは、特別な存在だと思っています。