木語:朴大統領の抗日史観=金子秀敏

毎日新聞 2013年07月04日 東京朝刊

 <moku−go>

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が中国を訪問した。中国語で演説したり京劇を鑑賞したり、親中国をアピールした。

 なぜ朴氏はこれほど中国に傾斜するのか。その背景には韓国版の歴史見直しがあるのではないか。

 朴氏は中国に対して、亡命韓国人部隊「光復(こうふく)軍」の記念碑を陝西(せんせい)省西安(せいあん)に建てる許可を要請した。光復とは独立回復を意味する。1919年の3・1独立運動が失敗に終わると、金九(キムグ)ら韓国の独立運動家は中国上海に亡命し、「大韓民国臨時政府」を作った。

 臨時政府は、金九自身が「乞食(こじき)の巣窟(そうくつ)」と言った(「韓洪九(ハンホング)の韓国現代史」平凡社)ほど弱体なものだった。臨時政府を支援した中国の国民党政権は、金九に軍隊を作るよう勧めた。こうして40年、国民党政権の臨時首都、四川(しせん)省重慶(じゅうけい)で光復軍が発足した。後に部隊は西安へ移動した。

 45年、日本が降伏すると、朝鮮半島の38度線以北はソ連軍が占領し、平壌(ピョンヤン)には中国共産党軍と連合軍を作っていた金日成(キムイルソン)の抗日パルチザン軍が進駐した。

 南は米軍の占領下に入り、ソウルには臨時政府幹部とともに光復軍も戻った。だが48年、初代韓国大統領には米国亡命から戻った李承晩(イスンマン)が就任し、金九は暗殺された。

 韓国憲法の前文には、韓国国民は大韓民国臨時政府の法統を継承すると明記されている。韓国の独立は、臨時政府の運動によって勝ち取ったものであるという宣言だ。

 北朝鮮は、抗日パルチザンの金日成神話がある。それが政権の正統性の根拠になっている。一方、韓国には日本と戦ったという痕跡が憲法に書いてあるほどない。それが「韓国の独立は米軍から与えられたにすぎない」という韓国版自虐史観を生み出している。

 朴氏が光復軍に歴史のスポットライトを当てたいのは、韓国人の軍隊による抗日闘争史という歴史を書きたいのだ。それには抗日戦争の本家である中国から光復軍に関する歴史の証言がほしい。

 だが、歴史の見直しはそれほど容易なことではない。金九は西安で光復軍の訓練視察中に日本の敗戦を知り、韓国人の軍隊が日本軍と一度も戦わないで戦争が終わったことを涙を流して嘆いたという。

 中国にとっても微妙な問題だ。光復軍を保護したのが国民党政権であって共産党ではなかったからだ。朴大統領の要請に対し中国政府はあまり明快な返答をしていないらしい。共産党と国民党の関係についての歴史の見直しになったら面倒だからだろう。(専門編集委員)

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