■1995年、原発を巡る事実
Football Weekly発行人の刈部謙一です。このたびの東北関東大震災で犠牲になられた方々とご遺族に心から、お悔やみを申し上げます。被害に遭われた皆様にもお見舞いを申し上げます。
こうしたメッセージをお出しするのに、少々時間がかかったことには申し訳なく思いますが、理由がありました。単にお悔やみやお見舞いの言葉だけを送るだけでは、話はすまないと思っていたからです。
というのも、私がFootball Weeklyを始める以前に取材し、「問題提起」していたことが現実になったからです。
その当時の掲載誌を探し出すのに、時間がかかってしまったこともありましたが、こうした事実を改めて指摘することがこの状況下で適切かどうか迷ったこともあります。ただでさえ、風評被害が蔓延しているときに、さらにこうした「事実」を提出することで、新たな問題を引き起こさないだろうかと考えたのです。
ですが、あるアイデアを思いついたことで、書く勇気がわいてきました。さらに幸い、わがFootball Weeklyの読者の方々はそうした風評や混乱に拍車をかけるような方々ではなく、逆に適切な行動を取っていただける方々だと思い、意を決しました。
その記事とは、1995年に『週刊プレイボーイ』(集英社)の3月7日、14日発売号に2回にわたって掲載された調査レポート『サッカーW杯誘致と原発の談合構造』と題されたものです。
以下に当時の記事を簡単に要約して掲載します(太字部分は抜粋)。現物をご覧になりたい方は大宅文庫にはありますし、国会図書館にもあります。
Football Weekly発行人の刈部謙一です。このたびの東北関東大震災で犠牲になられた方々とご遺族に心から、お悔やみを申し上げます。被害に遭われた皆様にもお見舞いを申し上げます。
こうしたメッセージをお出しするのに、少々時間がかかったことには申し訳なく思いますが、理由がありました。単にお悔やみやお見舞いの言葉だけを送るだけでは、話はすまないと思っていたからです。
というのも、私がFootball Weeklyを始める以前に取材し、「問題提起」していたことが現実になったからです。
その当時の掲載誌を探し出すのに、時間がかかってしまったこともありましたが、こうした事実を改めて指摘することがこの状況下で適切かどうか迷ったこともあります。ただでさえ、風評被害が蔓延しているときに、さらにこうした「事実」を提出することで、新たな問題を引き起こさないだろうかと考えたのです。
ですが、あるアイデアを思いついたことで、書く勇気がわいてきました。さらに幸い、わがFootball Weeklyの読者の方々はそうした風評や混乱に拍車をかけるような方々ではなく、逆に適切な行動を取っていただける方々だと思い、意を決しました。
その記事とは、1995年に『週刊プレイボーイ』(集英社)の3月7日、14日発売号に2回にわたって掲載された調査レポート『サッカーW杯誘致と原発の談合構造』と題されたものです。
以下に当時の記事を簡単に要約して掲載します(太字部分は抜粋)。現物をご覧になりたい方は大宅文庫にはありますし、国会図書館にもあります。
***
まだ2002年のW杯の誘致をめぐって、韓国と激しい戦いを繰り広げている95年のことだ。4月に福島県の楢葉町にナショナルトレーニングセンター(以下NTC・現Jヴィレッジ)が着工されることになった。
建設予定費130億円。完成すれば、世界に誇る巨大なサッカー施設となり、2002年W杯を招致するためにも説得材料の目玉になると言われていた。
このNTCは、実は東京電力の提案で実現できたものだった。
「東京電力は福島県の福島第一原子力発電所に、原発2基(現在の5、6号機)を増設する計画を発表した。見返りの地域振興策として提案されたサッカーナショナルトレーニングセンターは電力丸抱えの新しい地域振興策として注目を集めそう」(「94年8月27日読売新聞より」)
福島に原発を2基増やしたいから、OKしてくれれば、地域振興として130億円をかけた施設を建設してあげようというのが東京電力の申し出であった。
94年11月の時点では、建設費130億円について、東電の荒木清社長が朝日新聞の取材に答えて、「『最終的には首都圏の消費者の方にご負担していだくことになるであろう』と述べ、電気料金に上乗せする考えを示した」とあり、また、「東電の幹部は、『130億円は発電所を作るために必要な金額だった。わかりやすくいえば地域対策費ということになる』と話す」と報じられている。その後、東電はこの談話を否定することになるが、当初ははっきりと「見返り」であることを認めていた。
当時、日本サッカー協会の事務局長T氏は、「原発と絡めるとややこしくなると思っていましたけど、東電からは原発の増設とは関係なくやりますと聞いています。とにかくNTC建設は、ひたすら我々の悲願なんです」と答えている。
当時の協会としては、2002年W杯招致に向け、とにかく一つでも有力な材料がほしかった。しかしお金がない。そこで出てきた東電のNTC構想に、乗ったということである。言い方を変えると、サッカー、あるいはW杯の人気が原発増設の見返りとして利用された、ともいえる。
この構想を受けて、過疎と地域振興に悩む地元は、賛成派と反対派が入り乱れる大騒ぎとなった。
当時、「NTCを双葉町に誘致する会」のH会長は、「原発がウチにあって、NTCがよそに行ったら問題ですよ。おいしい話がいつも地元にこないのはおかしい」と語っている。
一方で「原発増設に反対する福島県民会議」のK議長は、「これまでも福島県の原発は事故が続いたから、もう作らないでほしいと思っている。原発そのものに不安が残るのに、福島県が後進県だから原発銀座と言われるような状態が続くのは困ります」と言っていた。
95年9月には福島県に建設構想検討委員会が発足し、その2ヵ月後には「トレーニングセンター構想は地域振興に極めて高い有効性を認める」として、異例のスピードで報告書が発表された。
W杯招致委員会の責任者でもあった小倉純二専務理事(現会長)にも、香港で行われたダイナスティーカップのさなか取材した。
「NTCは地域振興のためなんだ。我々としてもやりたいし、やらなければならないものですよ。アジアで初めてのNTCだし、(招致の)目玉になるんだから……」と小倉専務理事。そのため、招致活動に協力していたボビー・チャールトンを東京で東京電力に紹介するという話までしてくれた。香港から帰ったらまた話しましょう、ということになったが、その後会うことはできなかった。
私はレポートの中で、130億円といわれるNTCの建設費が東電の負担であること。そして、その建設費が前述したように「電気料金の値上げの材料」にされたりしていたことを指摘。さらに、建設費がいみじくも新しい原発建設費1兆3千億円のちょうど1%に相当しており、まさに『地域対策費』としての性格が明らかだと書いていた。
小倉さんにしてみれば、国を挙げて協力してくれていることに茶々を入れるなということのようだった。
しかし、私が言いたかったことは、果たして本当に原発は安全なのだろうか、そんなに簡単に東京電力の言うことに乗っていいのかという問題提起だったのだ。
実際にNTCを使う選手たちはそんな事実をまったく知らなかった。当時の日本代表キャプテンだった柱谷哲二も、強化委員長の加藤久も知らなかった。
加藤委員長などは個人的な意見としながらも「見返りに作ってもらうということなら考え直す必要があるでしょうね」とコメントしてくれている。
柱谷は、「こうした場所は国の税金で作ってほしいですね。国の税金を使ってこそ、日本を代表する選手が使える場所になるんですから。正直言って、まさかこんな形でやってくるとは思いませんでした。僕が考えているものは、一企業や一自治体だけでは運営も含めて非常に難しいと思います。だからこそ国にやってほしいわけです。こうした記事が出ることで、みんながこの問題を考えてくれるといいですね」と訴えていた。
他の代表選手たちも同様にそれぞれコメントしてくれたが、おおむね否定的なものだった。
だが、その後楢葉町にNTCは完成し、Jヴィレッジとして知られ、代表チームが時にはキャンプをし、2006年からはアカデミーが誕生し、全国から選抜されたエリート中高生たちが練習に励む施設となった。
そして、2011年3月11日午後2時46分までは、順調に活動をしていた。その後のことはもう誰もがよく知っていることだ――。
***
改めて言いますが、何故、16年も前の記事を引っ張り出してきたかというと、サッカー界は今回の事態に対して、他のスポーツ以上に無縁ではありませんよ、と言いたいからです。サッカー協会は、東京電力から提供された施設をこれまで甘受してきたわけです。さらに私たちも、Jヴィレッジに取材に行ったりしていますし、多くのファンも代表のキャンプなどで、これまでと違った選手たちの姿を見ることができたと思います。いわば、サッカー界全体が「お世話」になったのです。そのことを忘れてほしくないからです。
当時取材した中に、双葉町の農家のお母さんがいました。彼女は、「その施設ができることで、これまで逃げ道すらなかった私たちに、逃げる道を造ってくれることになるから、いいと思うけど」というコメントをしてくれました。
これは、非常に印象的なものでした。同時に、これこそが今、サッカー界に求められていることではないだろうかと改めて思ったのです。
■サッカー界が「借り」を返すとき
本題の提案です。
16年前、日本サッカー界は東電に130億円の借りができたのです。これは事実です。ならば、この130億円を被災者援助および、こらから始まるであろう、復興作業のための費用として、サッカー協会が責任を持って集めてはどうかと思うのです。
すでに、各クラブ、個人で募金作業をしているのは知っています。29日には、海外クラブ所属の選手も招集したチャリティマッチも行われます(この対応に関しては非常によかったと思います。海外組が日本で試合をすることは、海外にも情報が流れるからです)。ここをスタートに130億円プロジェクトを開始してはどうでしょうか。
義援金は組織的にきちんと行わないと、どう使われるのかも含め、無駄になることさえあります。協会は組織としての大きさがあり、一般企業のように、営利を目指さなくてもいいという利点もありますから、その利点を生かし、お金を集め、どう使うかを決める。それがサッカー協会の責任だと思います。そのためなら、少なくとも私は協力します。
具体的に考えると、29日の試合はいい試金石になると思います。ただ、今回の大震災では短期的ではすまないほどの甚大な被害が出ています。復興に要する金額は10兆円とも20兆円とも言われています。130億円という巨額な金額でも、1%にもなりません。しかし、まずはサッカー協会がそれを行えば、他にも波及効果を期待できるのではないでしょうか。サッカー協会が先頭に立ってやるのですから、他のスポーツにも大きな影響を与えることは間違いありません。
Jリーグの再開も遅れていますが、再開されるまで、Jクラブ同士の練習試合や代表チームのチャリティマッチを組めばいいのです。すでに九州では始まっています。それを組織だってやるべきです。
130億円というのは130万人が1万円払えば達成できる金額です。日本全国のサッカーファンには、不可能ではない数字かもしれません。でも、それだけでは意味がありません。まず、協会がどう集めるかを責任もって考えることで、「Jヴィレッジ」を建ててもらった地元福島への「お礼」ができると考えます。同時に、復興にはこれから何年もかかるのですから、その先のことも考えなくてはいけないでしょう。totoの運用方法を模索してもいいかもしれません。
また、サッカー協会には、Jリーグを始めとするあらゆるリーグの再開という大きな仕事があります。開幕を強行しようとしているプロ野球(ことにセリーグ)は、結局、営利団体の興行でしかないことが露わになりました。Jリーグの個々のクラブは当然、営利を追求しなくてはいけませんが、サッカー界は微妙に違います。サッカー「協会」という大きな傘があるからです。そのために、あるときは利益に直結しない「基本的な理念」も追求できます。それがサッカー界の良さです。
その良さを今回こそ発揮すべきでしょう。Jリーグの「百年構想」を実現するためにも、義援金プロジェクトはやるべきことなのです。
■クラブW杯は絶対に開催すべき
もう一つ提案したいのが、今年12月に日本で予定されているFIFAクラブW杯の開催です。これは、どんなことがあっても予定通り開催すべきだと思います。というのも、もうすでに、各国による日本からの「脱出」が「勧告」されていて、それが風評被害に拍車をかけています。クラブW杯の開催は、日本が安全だということを世界に証明するまたとないチャンスです。
大会が開催されれば、世界中から選手やプレスが来ますので、復興の大きな象徴になりましょう。試合会場は、東日本の安全性を示す上でも、これまでと同じように国立競技場や横浜国際競技場を使うべきです。仮にそれが無理でも、関西地区での開催は可能です。また、決勝戦の会場を、たとえばソウルにしたっていいと思います。02年の再現であり、まさに復興の象徴といえる催しとなります。
実際に開催するためには、放射能に関する正確な情報を用意することも必要です。政府発表だけでなく、協会独自に、あるいは、IAEAのような国際機関に依頼してもいいと思います。Jリーグの各スタジアムの放射能データを定期的に発表してもいいでしょう。そのためにも早く組織を立ち上げ、各国からやってくるクラブに安心材料を定期的に提供すべきです。
風評被害に巻き込まれないために、放射能に関して適切なtwitterアカウントを紹介しますので、ごらんになってください。
東京大学理学部 物理学科長
http://twitter.com/#!/hayano
東大病院放射線治療チーム
http://twitter.com/#!/team_nakagawa
■サッカーには、サッカーにしかできないことを
セルジオ越後氏も当サイトのコラムで書いてくれたとおり、被災を免れた人々は普段通りに生活し、お金を使うことが大切だと考えます。まず、自分たちがしっかり稼いで、義援に参加するのです。
サッカーの試合ではよく、120%の力を発揮しろと言われます。サッカーで育った人なら一度は聴いた言葉でしょう。それを今度は自分の仕事で発揮し、余った20%を復興支援のためにまわしましょう。そうすれば、目標は早く達成できます。サッカー界にできることを実現するために、力と知恵を出し合いましょう。
最後になりますが、本コラムは個人や協会、東京電力を非難するために、意図し、書かれたものではありません。今そんなことをするのは、まさに無駄なことです。小倉会長は本当に温厚な方です。いつも笑みを絶やさないと言ってもいいかもしれません。
大変な時期だからこそ、事実を見極めた正しい判断をしてほしいのです。そして、借りは返さなくてはいけないのです。それが、世の常ですから。
だれがも何の憂いもなく、今までどおりサッカーができる日は自分たちの力でしか取り戻せないのです。
サッカーがやるべきこと、やれることはたくさんあります。被災者の方々を励まし、勇気づけ、具体的な手助けになるアイデアはいくらでも出てくると思います。サッカーは、サッカーにしかできないことをやりましょう。(了)
まだ2002年のW杯の誘致をめぐって、韓国と激しい戦いを繰り広げている95年のことだ。4月に福島県の楢葉町にナショナルトレーニングセンター(以下NTC・現Jヴィレッジ)が着工されることになった。
建設予定費130億円。完成すれば、世界に誇る巨大なサッカー施設となり、2002年W杯を招致するためにも説得材料の目玉になると言われていた。
このNTCは、実は東京電力の提案で実現できたものだった。
「東京電力は福島県の福島第一原子力発電所に、原発2基(現在の5、6号機)を増設する計画を発表した。見返りの地域振興策として提案されたサッカーナショナルトレーニングセンターは電力丸抱えの新しい地域振興策として注目を集めそう」(「94年8月27日読売新聞より」)
福島に原発を2基増やしたいから、OKしてくれれば、地域振興として130億円をかけた施設を建設してあげようというのが東京電力の申し出であった。
94年11月の時点では、建設費130億円について、東電の荒木清社長が朝日新聞の取材に答えて、「『最終的には首都圏の消費者の方にご負担していだくことになるであろう』と述べ、電気料金に上乗せする考えを示した」とあり、また、「東電の幹部は、『130億円は発電所を作るために必要な金額だった。わかりやすくいえば地域対策費ということになる』と話す」と報じられている。その後、東電はこの談話を否定することになるが、当初ははっきりと「見返り」であることを認めていた。
当時、日本サッカー協会の事務局長T氏は、「原発と絡めるとややこしくなると思っていましたけど、東電からは原発の増設とは関係なくやりますと聞いています。とにかくNTC建設は、ひたすら我々の悲願なんです」と答えている。
当時の協会としては、2002年W杯招致に向け、とにかく一つでも有力な材料がほしかった。しかしお金がない。そこで出てきた東電のNTC構想に、乗ったということである。言い方を変えると、サッカー、あるいはW杯の人気が原発増設の見返りとして利用された、ともいえる。
この構想を受けて、過疎と地域振興に悩む地元は、賛成派と反対派が入り乱れる大騒ぎとなった。
当時、「NTCを双葉町に誘致する会」のH会長は、「原発がウチにあって、NTCがよそに行ったら問題ですよ。おいしい話がいつも地元にこないのはおかしい」と語っている。
一方で「原発増設に反対する福島県民会議」のK議長は、「これまでも福島県の原発は事故が続いたから、もう作らないでほしいと思っている。原発そのものに不安が残るのに、福島県が後進県だから原発銀座と言われるような状態が続くのは困ります」と言っていた。
95年9月には福島県に建設構想検討委員会が発足し、その2ヵ月後には「トレーニングセンター構想は地域振興に極めて高い有効性を認める」として、異例のスピードで報告書が発表された。
W杯招致委員会の責任者でもあった小倉純二専務理事(現会長)にも、香港で行われたダイナスティーカップのさなか取材した。
「NTCは地域振興のためなんだ。我々としてもやりたいし、やらなければならないものですよ。アジアで初めてのNTCだし、(招致の)目玉になるんだから……」と小倉専務理事。そのため、招致活動に協力していたボビー・チャールトンを東京で東京電力に紹介するという話までしてくれた。香港から帰ったらまた話しましょう、ということになったが、その後会うことはできなかった。
私はレポートの中で、130億円といわれるNTCの建設費が東電の負担であること。そして、その建設費が前述したように「電気料金の値上げの材料」にされたりしていたことを指摘。さらに、建設費がいみじくも新しい原発建設費1兆3千億円のちょうど1%に相当しており、まさに『地域対策費』としての性格が明らかだと書いていた。
小倉さんにしてみれば、国を挙げて協力してくれていることに茶々を入れるなということのようだった。
しかし、私が言いたかったことは、果たして本当に原発は安全なのだろうか、そんなに簡単に東京電力の言うことに乗っていいのかという問題提起だったのだ。
実際にNTCを使う選手たちはそんな事実をまったく知らなかった。当時の日本代表キャプテンだった柱谷哲二も、強化委員長の加藤久も知らなかった。
加藤委員長などは個人的な意見としながらも「見返りに作ってもらうということなら考え直す必要があるでしょうね」とコメントしてくれている。
柱谷は、「こうした場所は国の税金で作ってほしいですね。国の税金を使ってこそ、日本を代表する選手が使える場所になるんですから。正直言って、まさかこんな形でやってくるとは思いませんでした。僕が考えているものは、一企業や一自治体だけでは運営も含めて非常に難しいと思います。だからこそ国にやってほしいわけです。こうした記事が出ることで、みんながこの問題を考えてくれるといいですね」と訴えていた。
他の代表選手たちも同様にそれぞれコメントしてくれたが、おおむね否定的なものだった。
だが、その後楢葉町にNTCは完成し、Jヴィレッジとして知られ、代表チームが時にはキャンプをし、2006年からはアカデミーが誕生し、全国から選抜されたエリート中高生たちが練習に励む施設となった。
そして、2011年3月11日午後2時46分までは、順調に活動をしていた。その後のことはもう誰もがよく知っていることだ――。
***
改めて言いますが、何故、16年も前の記事を引っ張り出してきたかというと、サッカー界は今回の事態に対して、他のスポーツ以上に無縁ではありませんよ、と言いたいからです。サッカー協会は、東京電力から提供された施設をこれまで甘受してきたわけです。さらに私たちも、Jヴィレッジに取材に行ったりしていますし、多くのファンも代表のキャンプなどで、これまでと違った選手たちの姿を見ることができたと思います。いわば、サッカー界全体が「お世話」になったのです。そのことを忘れてほしくないからです。
当時取材した中に、双葉町の農家のお母さんがいました。彼女は、「その施設ができることで、これまで逃げ道すらなかった私たちに、逃げる道を造ってくれることになるから、いいと思うけど」というコメントをしてくれました。
これは、非常に印象的なものでした。同時に、これこそが今、サッカー界に求められていることではないだろうかと改めて思ったのです。
■サッカー界が「借り」を返すとき
本題の提案です。
16年前、日本サッカー界は東電に130億円の借りができたのです。これは事実です。ならば、この130億円を被災者援助および、こらから始まるであろう、復興作業のための費用として、サッカー協会が責任を持って集めてはどうかと思うのです。
すでに、各クラブ、個人で募金作業をしているのは知っています。29日には、海外クラブ所属の選手も招集したチャリティマッチも行われます(この対応に関しては非常によかったと思います。海外組が日本で試合をすることは、海外にも情報が流れるからです)。ここをスタートに130億円プロジェクトを開始してはどうでしょうか。
義援金は組織的にきちんと行わないと、どう使われるのかも含め、無駄になることさえあります。協会は組織としての大きさがあり、一般企業のように、営利を目指さなくてもいいという利点もありますから、その利点を生かし、お金を集め、どう使うかを決める。それがサッカー協会の責任だと思います。そのためなら、少なくとも私は協力します。
具体的に考えると、29日の試合はいい試金石になると思います。ただ、今回の大震災では短期的ではすまないほどの甚大な被害が出ています。復興に要する金額は10兆円とも20兆円とも言われています。130億円という巨額な金額でも、1%にもなりません。しかし、まずはサッカー協会がそれを行えば、他にも波及効果を期待できるのではないでしょうか。サッカー協会が先頭に立ってやるのですから、他のスポーツにも大きな影響を与えることは間違いありません。
Jリーグの再開も遅れていますが、再開されるまで、Jクラブ同士の練習試合や代表チームのチャリティマッチを組めばいいのです。すでに九州では始まっています。それを組織だってやるべきです。
130億円というのは130万人が1万円払えば達成できる金額です。日本全国のサッカーファンには、不可能ではない数字かもしれません。でも、それだけでは意味がありません。まず、協会がどう集めるかを責任もって考えることで、「Jヴィレッジ」を建ててもらった地元福島への「お礼」ができると考えます。同時に、復興にはこれから何年もかかるのですから、その先のことも考えなくてはいけないでしょう。totoの運用方法を模索してもいいかもしれません。
また、サッカー協会には、Jリーグを始めとするあらゆるリーグの再開という大きな仕事があります。開幕を強行しようとしているプロ野球(ことにセリーグ)は、結局、営利団体の興行でしかないことが露わになりました。Jリーグの個々のクラブは当然、営利を追求しなくてはいけませんが、サッカー界は微妙に違います。サッカー「協会」という大きな傘があるからです。そのために、あるときは利益に直結しない「基本的な理念」も追求できます。それがサッカー界の良さです。
その良さを今回こそ発揮すべきでしょう。Jリーグの「百年構想」を実現するためにも、義援金プロジェクトはやるべきことなのです。
■クラブW杯は絶対に開催すべき
もう一つ提案したいのが、今年12月に日本で予定されているFIFAクラブW杯の開催です。これは、どんなことがあっても予定通り開催すべきだと思います。というのも、もうすでに、各国による日本からの「脱出」が「勧告」されていて、それが風評被害に拍車をかけています。クラブW杯の開催は、日本が安全だということを世界に証明するまたとないチャンスです。
大会が開催されれば、世界中から選手やプレスが来ますので、復興の大きな象徴になりましょう。試合会場は、東日本の安全性を示す上でも、これまでと同じように国立競技場や横浜国際競技場を使うべきです。仮にそれが無理でも、関西地区での開催は可能です。また、決勝戦の会場を、たとえばソウルにしたっていいと思います。02年の再現であり、まさに復興の象徴といえる催しとなります。
実際に開催するためには、放射能に関する正確な情報を用意することも必要です。政府発表だけでなく、協会独自に、あるいは、IAEAのような国際機関に依頼してもいいと思います。Jリーグの各スタジアムの放射能データを定期的に発表してもいいでしょう。そのためにも早く組織を立ち上げ、各国からやってくるクラブに安心材料を定期的に提供すべきです。
風評被害に巻き込まれないために、放射能に関して適切なtwitterアカウントを紹介しますので、ごらんになってください。
東京大学理学部 物理学科長
http://twitter.com/#!/hayano
東大病院放射線治療チーム
http://twitter.com/#!/team_nakagawa
■サッカーには、サッカーにしかできないことを
セルジオ越後氏も当サイトのコラムで書いてくれたとおり、被災を免れた人々は普段通りに生活し、お金を使うことが大切だと考えます。まず、自分たちがしっかり稼いで、義援に参加するのです。
サッカーの試合ではよく、120%の力を発揮しろと言われます。サッカーで育った人なら一度は聴いた言葉でしょう。それを今度は自分の仕事で発揮し、余った20%を復興支援のためにまわしましょう。そうすれば、目標は早く達成できます。サッカー界にできることを実現するために、力と知恵を出し合いましょう。
最後になりますが、本コラムは個人や協会、東京電力を非難するために、意図し、書かれたものではありません。今そんなことをするのは、まさに無駄なことです。小倉会長は本当に温厚な方です。いつも笑みを絶やさないと言ってもいいかもしれません。
大変な時期だからこそ、事実を見極めた正しい判断をしてほしいのです。そして、借りは返さなくてはいけないのです。それが、世の常ですから。
だれがも何の憂いもなく、今までどおりサッカーができる日は自分たちの力でしか取り戻せないのです。
サッカーがやるべきこと、やれることはたくさんあります。被災者の方々を励まし、勇気づけ、具体的な手助けになるアイデアはいくらでも出てくると思います。サッカーは、サッカーにしかできないことをやりましょう。(了)
「東京電力に借りがある」との認識はおかしいのではないか?
それは、東京電力管内の企業、生活者が負担しているに過ぎない。
サッカーが復興に力を出すべきという主張は
その通りだと思いますが、
そもそもの認識に間違いがあると思います。